実行委員
恋について色々悩まなければいけないお年頃の如月真中。
何故か強制的に体育祭の実行委員をやらされることになりました。
実行委員の役割は大きく分けて3つ。
・体育祭の準備
・クラス内における種目決め等の取り纏め
・体育祭の運営
どれも面倒くさいものばかりだ。
青春における貴重なイベントであるのは言うまでもないが、それの準備とか青春のページにはいらないような気がする。
美味しい部分だけ食べたいのだ。イベントだけ味わえればそれでいい。
────なんて嘆いていても仕方がない。
反省文50枚より面倒くさい気がするが、こうしたイベントで内申点を稼いでおくのもいいだろう。
体育祭が行われるのは来月。
スケジュール的にもそろそろ動かないといけないのは重々承知。
というわけで、休みが明けてから1週間が過ぎ────ついに、今後の動きを把握する実行委員会をすることになった。
「どんなことをするんでしょうね、如月さんっ!」
多目的室。目の前の机の上にクラスプレートが置かれた場所。
その2人がけの椅子にて、艶やかな金髪を揺らしている少女が目を輝かせながら尋ねてきた。
「どうしてここにいるんでしょうね、柊さんっ!」
「むぅ〜! 真似しないでくださいっ!」
頬を膨らませて真似したことに怒る柊。
膨らんだ頬をつつきたいという衝動に駆られる。
「真似云々は置いておいて……どうして柊も実行委員になったの?」
この場にいる時点で説明の必要はないと思うが、どうやら柊は体育祭の実行委員になってしまったらしい。正確に言えば、志願と言った方がいいだろう。
それを、この前の休憩時間の後に聞いた。
「如月さんもやるみたいですし、やってみたかったからです!」
「体育祭……嫌いとか言ってなかったか?」
「嫌いとは言ってませんよ? ただ、苦手というだけです。それに────」
柊が隣に座る俺に向かってグッと近づき、珍しい小悪魔めいた笑みを浮かべた。
「如月さんが、何とかしてくれるんですよね?」
「っ!?」
その表情と言葉に、思わず顔が赤くなってしまう。
……くそっ、ここで言うのはズルいだろ。
好きと自覚してからというもの、こういう一つの言動でドキマギしてしまう。
「任せてください! こういうお仕事は慣れてますから!」
胸を張り、愛嬌丸出しで胸を叩く。
そういう仕草を見ると、どうにも苦笑いを浮かべてしまいそうになるな。
「まぁ、俺としても他の女じゃなくて柊だったら助かるよ……」
「はいっ!」
同じクラスとはいえ、そこまで親しい人間と組むより親しい人間の方が気が楽だ。
それに……まぁ、柊と一緒にいる時間が増えるのはいいことだしな。
夕食時間まで待たせるようなこともなくなるし。
「それにしても、他のクラスの方々はまだ来られませんね……」
教室にはまだ俺達だけ。
今日に実行委員会があるのは事前に告知されたし、日時が間違っているようなことはないはず。
「ホームルームが早く終わったからな。俺達が単に早いんだろ」
「そうですかね?」
「のんびり待ってりゃいいさ。どうせ、いつかは来るんだし」
いつもなら自宅に帰ってゆっくりと────柊と一緒に夕食を作ってるんだろうなぁ。いや、そんなに帰るの早くないか。
そんなことを思い、ぼーっと天井を見上げる。
すると────
「あ、如月くんと柊さんがいたっ!」
ガラガラ、と多目的室のドアが開き、名指しの声が聞こえた。
視線を動かすと、そこには見覚えのある顔と見慣れない顔の男女が入り口に立っていた。
「神無月さんっ!」
柊が友人の来訪に立ち上がる。
本当に、こいつらって仲良くなったよなぁ……いいことなんだけど。
神無月は駆け足で俺達のところまで向かうと、無邪気な笑みを浮かべて柊とハイタッチした。
「やっぱり、柊さんは実行委員をすると思ってたよ!」
「ふぇっ? どういうことでしょうか?」
「だって、如月くんがいるでしょ〜?」
「あ、そういうことですかっ! っていうことは神無月さんもですね!」
「いぐざくとり〜!」
神無月も俺がいるから実行委員になったというのか?
だとすれば……なんか嬉しいような恥ずかしいような、複雑な心境になってしまう。
(まぁ、でも楽しくなりそうだからいっか……)
仲良くしている二人を見て頬が緩む。
神無月とはクラスが違い、休憩時間や放課後でしか接点がないし交流もない。
こういうイベントで一緒になれれば、過ごす時間も増えるということ。
それが嬉しく思ってしまうあたり、本当に神無月のことが好きなんだなと実感させられる。
「いやぁ〜、絶景かな絶景かな〜」
そんなことを思っていると、不意に背後から声がかけられる。
丸眼鏡で、少しぼさっとした髪型。整っている感じではないが、雰囲気がどこか……オタク? な感じがする男。
神無月と一緒に入ってきた男子だ。
「それに関しては同感だ」
「だよね、分かるー」
初対面なのに、随分と気さくに話しかけてくるものだ。
「まったく、如月くんが羨ましいねー」
「あ? 俺の名前って知ってんの?」
「2人の会話を聞いたら分かるでしょ? 好意ダダ漏れ、好感度MAXメーター振り切ってるね」
そういや、普通に言ってたな。
下の名前までは知らないだろうが。
「あ、僕は神無月さんと同じクラスの
「これはこれは。俺は如月真中だ」
差し出された手を握り返す。
なんか久しぶりに颯太以外の男子と話したような気がするな。
「それで、羨ましいって話に戻るけど────どうっすか? あの女神様と聖女様に好意を寄せられているご感想は?」
「グイグイと来るな……嬉しいっていう言葉しか思いつかねぇよ」
それでいて『身の丈に合っているか』という疑問も湧いてくるが、それは情けないだろうし口にするまい。
「そうでしょう、そうでしょう」
一人、何か納得したような顔をする新垣。
とりあえず、嫉妬に狂って鈍器で襲いかかるような人間じゃないことだけは分かった。
それだけで、心の平穏が保たれるというものだ。
「清く美しく通り名までつけられる存在。それは正しくアイドル! あぁ……今日も推しが尊い……っ!」
……だが、どうにも変な方向に性格が向かっているな。
眼鏡を輝かせながら浸っている新垣を見てそう思ってしまった。
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