体育祭⑥
ファンタジア文庫様より、書籍好評発売中です!!!
書影は、ホームページ及び近況ノートにて公開しております!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(ステラ視点)
学年別リレーが、始まろうとしています。
午後の部最も盛り上がるといっても過言ではない競技です。
グラウンドには、赤白それぞれの鉢巻を巻いて気合いを入れている生徒達が集まっています。
談笑したり、準備運動をしたり────始まるまでの少しの時間を、各々が過ごしていました。
その中には、如月さんは桜木さん、深雪さんに沙耶香さんの姿もあります。
如月さんが速いのは知っていましたし、沙耶香さんも深雪さんも速いのも知っています。
桜木さんは……如月さん言う通り、謙遜だったみたいです。速いです。じゃないと、学年を代表して出る学年別リレーに出られないです。
……うぅ、お仲間さんを見つけられたと思っていましたのに。
(やっぱり、羨ましいです……)
グラウンドでは、如月さん達が楽しそうに談笑しています。
その姿を、私は一人でテントの中で見ています。
私も、あそこに混ざりたかったです。
運動神経がよくないのは分かっています。あそこに立つ資格がないのも理解しています。
ですが────
(私だけ、仲間外れみたいです……)
決して、そういうわけではないのを知っています。
如月さん達は、そういうことはしない人達です。
というより、ここでその話は持ち出すべきではないのは分かっています。
ですが、感じてしまうんです……疎外感を。
私だけ違う輪の中にいるみたいで、少し寂しいんです。
(……懐かしいですね、この感覚)
如月さんと出会う前。
中学校時代、高校に入学してから……こんな気持ちをよく味わっていたような気がします。
自分が皆に見せている顔は、決して今のような顔ではなかった。
その時の自分は、決して自分を出していなかったんです。
だからこそ、皆さんと話している時に疎外感を感じてしまいました────今、この輪にいるのは私ではないのでは? と。
もちろん、それは私が自分を出していなかったからです。
誰かが悪いわけではありません……少しは、抵抗がありましたけど。
(……それも、今更の話ですね)
久しぶりに味わってしまった疎外感のせいで、昔を思い出してしまいました。
如月さんや皆さんと出会ってからは、もうそんな気持ちを味わうことはありません。
でも、きっかけは────あの時怒ってくれた如月さんのおかげです。
優しくて、暖かくて、少しお馬鹿さんな……如月さんなんです。
だからこそ、私は────
(あれ……?)
グラウンドの方を見ていて、少しだけ疑問に思ってしまいました。
というのも、皆さんと別れたはずの如月さんが駆け足でこちらに向かってきているからです。
(どうかされたのでしょうか……?)
忘れ物でもあったのでしょうか?
といっても、リレーで忘れ物なんて鉢巻ぐらいしか思いつかないです。
鉢巻は、如月さんの頭にありますし……。
「如月さん、どうかしたんですか?」
「いや、ちょいと柊に言っておきたいことがあってな……」
如月さんは私の前までやって来ると、少し気恥しそうに顔を逸らしました。
ほ、本当にどうされたのでしょうか……?
その様子で私に言いたいことって────
(ま、まさか……ここででしょうか?)
如月さんが朝に言った一言。
ですが、それは今日の体育祭が終わってからというお話でしたし、それは少し違う気もします……。
それでも、一度頭に浮かんでしまったそのことは、次第に私の鼓動を早くさせました。
顔に熱が上がっているような気もします……ッ!
そして────
「今日さ、俺なりに答えを出したいんだよ」
「……はい」
如月さんは、ゆっくり口を開きました。
私はそれに、小さく頷くだけです。
「けじめってわけじゃないけど……好きになってもらった人にはちゃんと俺を選んでくれて……後悔はさせたくないんだ」
如月さんなりの本音……のような気がしました。
周囲からの談笑というざわめきが聞こえる中で、如月さんだけは真っ直ぐな、何か想いが乗ったような言葉を────
「だから……少しでもいいから、この競技だけはちゃんと見ててほしい。それを、言いに来た……」
「…………」
なるほど……そういうことでしたか。
ふふっ、だから少し恥ずかしそうにしていたんですね。
不思議と納得しちゃいました。
(そんなの、決まっていますよ……)
今日だけじゃありません。
これまでも、ずっと……あの日、如月さんに助けてもらった時から、如月さんのことだけを見てきました。
だから、今日も……これからも────
「はいっ! ちゃんと見ていますからね!」
私がそう言うと、如月さんは小さく笑ってグラウンドに戻っていきました。
如月さんが何を見せたいのかは分かりません。
如月が、どういう気持ちでこれから走るのかも私には分かりません。
ですが、如月さんがそういうのであれば、しっかりと見守るだけです。
多分、今日も……如月さんはかっこいいままだと、そう思ってしまいます。
「楽しみですね……」
それから少しして、学年別リレーを始まりを知らせるピストルが響き渡りました
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます