体育祭⑤
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……さて、なんかかっこいい姿を見せられてない気がする。
応援合戦が終わり、いよいよ体育祭も大詰めになってきた。
その間に柊が二人三脚に参加したり、神無月グループが綱引きに参加したりと……まぁ、話は進んだ。
しかしながら、俺が参加した種目は障害物競走のみ。
それも、四の地固めをされてしまうという無様である。
かっこいい姿というのは、かなり違う方面であった。
────せめて、今日ぐらいはいいところを見せたい。
結果を出すのだろう? 答えを出すと決めた男が、締まらない様子でどうするんだ?
……そんなことを思ってしまう。
だからなのだろうか? 終わりに近づくにつれ、徐々にやる気が込み上げてくるのは────
「真中、随分と気合いが入ってるね」
鉢巻を巻き直していると、不意に白組メンバーの颯太が声をかけてくる。
「俺の種目って、障害物競走とこれしかないからなぁ」
そして、そのまま屈伸をして関節をほぐす。
……しばらく動いていないと、動かしたくても中々動いてくれないものだ。
「というより、お前こそ急にどうした? 敵情視察か?」
「そういうわけじゃないよ。だって、同じレーンでしょ?」
「ま、それもそっか」
――――大詰め。そこで一番大きな競技と言えば、学年別のリレーである。
各クラスから二名。紅組と白組、学年別に分かれて一着を決める。
最終的に、紅組と白組の点数は拮抗していた。
かろうじて紅組がリードしているものの、この学年別リレーに負けてしまえば、逆転されてしまう。
体育祭で紅組が勝利を収めるのなら、ここは絶対に紅組の勝利を多くしなければならない。
それは白組も同じことで、両チームがこれでもかというぐらいに気合いが入っていた。
「それにしても、まさか真中と同じレーンになるとはね」
そう言って、颯太が苦笑いを浮かべる。
あの時は謙遜していたが、颯太は帰宅部であるにもかかわらず、こうして学年別リレーに参加するほどの運動神経を、颯太は持ち合わせている。
俺なんかを持ち上げないで、少しは自信を持てばいいものを。
だが────
「おう、ぜってぇ負けねぇ」
「お手柔らかにお願いしたいところだね」
それは無理な相談だ。
多分、今の俺のモチベーションは……今日一だと思うから。
「大丈夫よ、颯太────如月は確かに早いけど、私がリードひろげてあげるから」
すると、少し離れた場所にいた藤堂と神無月がやって来た。
「何言ってんだ? うちには神無月がいるんだぞ?」
「如月くん……私、早いかもだけど、藤堂さん相手はきついかも」
「弱気になるな、神無月! お前ならいける!」
いつになく弱気になっている神無月を励ます。
すると、神無月は何故か遠い目をした。
「ちょっと前にさ、私を男の人から守ってくれた時あったじゃん?」
「あったな」
「その時の藤堂さんがね……妙に印象的で」
「あー……」
確かに、女の子にもかかわらず男をぼっこぼこにしている姿を見たら……そりゃ、気遅れするわな。
「おいコラ藤堂。どうしてくれんだうちのエースに」
「し、知らないわよ……」
あの時は助かったけどさ……これからは暴力を控えた方がいいんじゃないか?
「で、でもね! 私、本気で頑張るよ!」
「おう、一緒に頑張ろうぜ」
力こぶしを見せる神無月を見て、思わず口元が緩んでしまう。
他のメンバーも控えるグラウンドの真ん中で、何故かほっこりした気分になってしまった。
「まぁ、それでも私達は負けないわよ」
「勝負するんだったら、勝ちにいきたいからね」
「こっちこそ、手加減されるのは真っ平ごめんだからな」
「うん、正々堂々と勝負だね!」
などと、四人で盛り上がりを見せる。
ここに柊がいないのは少し寂しいが……まぁ、こればっかりは仕方ないだろう。
「それじゃ、私達は行くわね」
「うん、バトン待ってるから」
神無月と藤堂は俺達の前のレーン。俺達にバトンを渡すような順番になっている。
そして、俺達は一学年のアンカー同士だ。この四人で結果が決まるといっても過言ではない。
「じゃあ行きましょ、神無月」
「う、うん……」
藤堂に促され、神無月が小走りであとを追う。
その背中を、俺は少しだけ呼び止めた。
「神無月!」
すると、神無月は足を止めて振り返ってくれた。
「どうしたの、如月くん……?」
……かっこいい姿を見せたい。
惚れた女には、それぐらい見せないと男が廃るんだ。
これは、単なる俺のわがままだ。
「このリレー……ちゃんと見ててくれ」
俺がそう言うと、神無月は嬉しそうに笑った。
「うんっ!」
そして、神無月は俺から背を向け、藤堂の後ろを追いかけて行った。
「……なるほど、だから気合が入ってるんだね」
「……うっせ」
何でも悟ってますよと言った顔を見せる颯太に悪態をつく。
「今日は結果を出さなくちゃいけない」
「うん」
「その結果は、俺の中で決まってる」
「うん」
「俺のせいで……どっちかが傷つくかもしんねぇ。だから、そうならないように────こんな俺を好きになってくれた彼女が、好きになってよかったって思えるように……いや、そんな姿を見せてやりたいって思う」
「……そっか」
「あぁ……だから────」
俺は親友に向かって、獰猛に笑った。
「負けねぇから覚悟しろよ、親友さんよぉ?」
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