体育祭⑦
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リレーの開始を告げるピストルが鳴った。
走者は一斉に走り出し、グラウンドにあるトラックを回っていく。
俺のレーンにいる学年の人間は知らない。
それに、まだ俺の走る番まで回ってこないので、その姿を座りながら見守っていた。
(やべぇ……普通に緊張してきた)
障害物競走の時はそれほど緊張しなかったはずなのに。
今は、バトンを渡していく度に心臓の鼓動が早くなってしまう。
これも、走る気概の問題なのだろうか?
だとしたら、少し皮肉なものだ。
(にしても、随分と拮抗しているな……)
バトンを渡し終わり、現在第三走者目。
俺達一学年赤組は三位の位置についているものの、二位と四位との差はそれほどない。
というより、全体的にそんなに差がなかった。
どこかで誰かがコケれば、この差も一気に変わってしまうだろう。
そうすれば、走る時に責任やプレッシャーが乗らず、楽に走れる。
勝ちたいと思う反面、誰かにコケてほしいとも勝手に思ってしまう。
『現在、三年白組一番を走ります。そのあとに続いて二年赤組、一年赤組と続いております!』
観客の応援と、運営のアナウンスがグラウンドに響き渡る。
体育祭という場所で、生徒達の熱気は最高潮とも言える状態に変わっていった。
「うーん……これは少し厳しいかもね」
同じく待機している颯太がしかめっ面を見せる。
颯太の属する一学年白組は、僅差で一番最後。
しかし、僅差といってもそれは五位との話。
一位と比べてみると、その差は少し大きいものだ。
「果たして、ここから巻き返せるかな?」
「まぁ、ちょっと難しいだろうけど……」
そんなやり取りしていると、一位の走者がバトンを手渡し、第五走者へリレーが移った。
そしてそのあとに、二位三位面々がバトンを受け取り、神無月が走り始める。
「なんだかんだ、深雪は運動神経がいいから。なんとかなるんじゃないかな?」
颯太がそう言うと、遅れて藤堂がバトンを受け取った。
すると────
『早い早い! 一年白組、一気にごぼう抜きだ!!!』
藤堂は、物凄い勢いで前の人間を抜いていった。
「やばいだろ、あいつ……」
五位と四位を抜かし、藤堂の足は三位の背中を狙う。
三位は、二位と奮闘している神無月。
「……ッ」
神無月は一瞬だけ振り向き、藤堂の姿を確認して顔が引き攣った。
二位の背中を追い越そうにも追いつけず、藤堂に差されようとしている状況は、キツいものかもしれない。
それでも、神無月は走る。
カーブを曲がり終え、バトンを手渡す直線へと差し掛かった。
一位が少し前に出て、その後ろを横一直線に二位の走者と藤堂、神無月が並ぶ。
「これは面白くなってきたね」
立ち上がり、颯太と俺はスタンバイをする。
「あぁ……こっからの逆転ってのも、中々乙なものだ」
不敵に笑うことで、己の中での緊張を誤魔化していく。
横で、一位の走者がバトンを受け終わり、先に駆け始めた。
その後に────
「如月くんっ!」
「颯太!」
二人がほぼ同時に、バトンを差し出してきた。
そして、それを受け取る手もほぼ同時だ。
「「ッ!!」」
俺と颯太が一斉に走る。
神無月の顔を一瞥せず、前だけを見て一位の背中を追う。
久しぶりの全力疾走だ。
インコースには颯太が走っており、中々抜ききれない。
だが、二位にいた生徒の姿は抜ききれる。
俺はそのまま外に周り、二位の生徒を抜いていく。
颯太は、そのまま空いた内側から二位の生徒を抜いていった。
(あいつ、普通に早いじゃねぇか!)
これでも、脚力には自信がある。
神無月にモテるために一生懸命に足を鍛えてきた。
それでも中々抜ききれないのは、少しだけ……悔しい。
(このハイスペックイケメンが……ッ!)
なりふり構わず腕を振り、コーナーを回っていく。
一位にいる先輩の背中が近づいていくるのが体感として分かり始めた。
その時────
『頑張ってくださーい!!!』
コーナーの先にある赤組のテント。
そこから、艶やかな金髪を靡かせながら、懸命に応援する……彼女に姿があった。
『頑張ってくださーい! 如月さーん!!!』
両手を口に当て、一生懸命に声を張る柊。
その姿を見てしまうと、上がってしまった息が不意に冷めていくような感覚を覚えた。
(あぁ……そうだな)
二着とか三着なんて考えるな。
神無月が藤堂に追いつかれず渡してくれたバトンを、俺のせいで三着になってしまうわけにはいかない。
(絶対に、一着で終わらせる!)
好きな女の子の前でくらい、かっこいい姿を見せろ!
それができず、男なんて言うんじゃねぇ!!!
気持ちを鼓舞し、ラストスパートをかける。
颯太と俺がほぼ同時に一位だった生徒を抜いていく。
そして、最後の直線で颯太と横並びになった。
「ッ!」
横で颯太の焦る顔が見えた。
だが、俺はそんな顔を意識せず、目の前のゴールテープだけを目指して足を進めた。
「「ッ!!」」
足に力込めろ。
最後だから息が上がってしまう────なんて考えるな。
足を緩めるのは、最後の最後だ。
そして────
『ゴールインっ!!! 一着は、一学年赤組、二着は一学年白組です!!!』
俺は足を止めた。
「はぁ……はぁ……」
何故か最後、俺は目に込上げるものがあった。
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