宿題……やってないのね

 ※毎週1話と言ってしまった上で申し訳ございません💦

 時間ができてしまいましたので、これから作れる間は毎日投稿しようと思います🙇


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 さて、藤堂とお茶会をした後————俺は我が家へと帰って来ていた。

 外を見れば日が沈み始め、茜色の空が夏の寂しさを紛らわせようと主張し始めていた。


 そんな空を見ていると、明日から学校なんだなと嫌でも実感させられてしまう。

 忘れ物はなんだったか? 夏休みという期間に、俺は忘れ物をしていないか不安になって来る。


(……いや、忘れ物しているな)


 そうだ、忘れ物をしているではないか。

 だからこそ、俺はこうして茜色の空を見上げて忘れ物を取り戻そうとしているんだと思う。


 そして――――


「気張れ、柊っ! 気張らないと宿題何て終わらないぞ!」


「は、はいっ!」


 ……そして、こうして宿題を催促しているんだと思う。


「っていうか、どうして今まで宿題を放置していた……っ!?」


「だ、だってぇ……忘れていたものは忘れていたんですもん」


 可愛らしく言ってもダメ。ダメなもんはダメ。


「逆に、如月さんはいつやったんですか! 夏休み、ほとんど一緒にいましたよね!?」


「ほとんどの合間のたまにの間に決まっているだろうが!」


「頑張り屋さんですっ!」


「それが当たり前なの!」


 見た目お淑やか。それでいて愛嬌を醸し出す金髪の少女。

 小柄で庇護欲をそそられる体躯と、整いすぎた美貌は周囲から『聖女様』と呼ばれてしまっている。


 名前をひいらぎステラ————え、えーっと……ごほんっ! 俺の好きな人である。


 そんな非の打ちどころのない(容姿限定)少女は現在、泣く泣く夏休みの課題をしていた。

 どうしてか? それは言わずもがな


 そして今日————


『き、如月さん……その……言い難いのですが、課題が終わっていなくて……』


 家に帰って来るなり、部屋にいた柊がおずおずと口にしてきたところからことの発端。

 頭が真っ白になってしまった感覚を覚えたさ……だって、今日で夏休み最後だぜ? ちょっとだけかなー? って思ったら半分以上残ってたんだぜ?


 そりゃ、頭真っ白になるよね。

 見た目は真面目っ子なのに、どうして……っ!


「いいからやろう、一分一秒も無駄にしたくない」


「うぅ……ありがとうございます」


 といっても、柊とて真面目じゃないわけじゃない。

 意欲はあるんだと思う。こうして俺の膝の上に座りながら真剣に問題を解こうとしている姿からは「めんどくせー」という雰囲気は感じられないからだ。


 それと同時に、これ見よがしに甘えてきたなとも思った。

 ……膝の上に座って来てからに。まぁ、別にいいんだけどさ――――こっちの方が教えやすいし。


「分からんところがあったら言ってくれ。その間に俺は柊の頭を撫でておくから」


「どうして頭を撫でるんですか!?」


「いいか……これは俺なりの応援の仕方だ」


「本当に如月さんしか知らなそうな応援の仕方ですね!?」


 いや、だって目の前に可愛らしい柊の頭があるんだもん。

 俺、膝の上にいられたら動けなくて教える時以外は何もできないし、撫でるくらいなら邪魔にならないかなって。


「嫌ならやめるが……」


「絶対にやめないでくださいっ!」


「お、おう……」


 圧がぱないってばよ。

 そんなにやってほしいとは思わなんだ。


(まぁ、好きって言ってくれたし……その前からちょくちょくこんなだからおかしくはない、か……)


 柊はどこか甘えん坊な節がある。

 隙あらば近くに寄って来るし、こうして膝の上に乗せてほしいといったお願いも最近増えた。


 こうして膝の上に乗っかられる俺の身にもなってほしいが……抵抗できない俺がいる。

 正直、このまま抱きしめてあげたい。宿題なんかほっぽり投げて甘やかしまくりたい……仕方ない、好きなんだから。


 けど、今は宿題をさせなければならないし、神無月も好きな以上……あまり不誠実なことばかりをするのもよろしくない。


「ふにゃぁ……」


 そんなことを思いながら頭を撫でていると、柊からそんな可愛らしい声が聞こえてくる。

 子猫かな? という疑問以上に可愛いという言葉しか思いつかない。


「すまん、頭を撫でるのはやめておこう」


「どうしてですか!?」


「明らかに筆が止まっているからだが?」


 気が付けば、柊は体ごと俺に預けて気持ちよさそうにしていた。

 その代わり、犠牲になったのはシャープペンシル。先程から一文字も進んでいない。


「……今だけは俺の膝の上に乗るのもやめとくか」


「……そうですね」


 柊は流石にこのままではまずいと思ったのか、寂しそうに顔を歪ませながら俺の膝の上から退いてくれた。

 ……そこはかとなく罪悪感が。これは終わったらちゃんと甘やかすべきなのだろうか?


「俺は夕食の準備してくるから、できるところまでは終わらせとけよ?」


「うぅ……はい」


 俺は立ち上がると、柊の頭を軽く叩いてキッチンへと向かった。

 ヒロインの出だし描写としては少しいかがなものかとは思うが……これが現実なんです。


(そういえば、神無月は宿題終わってんのかね?)


 柊がこうだから……というわけではないが、同じような匂いがプンプンする彼女。

 ……まぁ、柊じゃあるまいし一応やってるとは思うんだが—―――一応聞いてみるか。


 俺はスマホを取り出すと、神無月にメッセージを送った。


『神無月、宿題終わったか?』


『うん、終わったよ! 半分くらい!』


『そっかそっかー』


 …………。

 ………よし。


『藤堂様へ。

 どうやら、神無月が宿題を終わらせていないみたいです。

 こちらは同じ状況に陥っている柊がいるため、救援をお願いいたします』


 とりあえず、神無月にはスタンプを押して藤堂にメッセージを送った。

 なんだかんだ面倒見のいい藤堂であれば神無月をどうにかしてくれるだろう。


 それにしても――――


「俺の好きな人はどうも残念系で仕方がないな……」


 そんなことを思い、俺は戸棚から鍋を取り出した。

 それから『分からない』と柊に呼ばれたのは三秒後のことだった。


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