藤堂と如月

 ※書けちゃったので更新します💦


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「————ってなことで、俺は二人のどちらかに恋を決めようと思った次第です」


 夏休み最終日、昼下がり。

 地元のチェーン展開している喫茶店で目の前の少女に己が決意を話した。


 というのも、決意が揺るがないようにするためという理由が一つ。

 もう一つは……色々気を遣ってもらってたからな。一応言っておかなきゃって思って。


 目の前にはアイスコーヒーが一つ。

 対面には豪華でタワーのように積みあがったチョコレートパフェが二つ……多いわ。


「ふーん……」


 ぶっきらぼうな反応を見せる少女。

 黙々と、チョコレートパフェを頬張る姿は見た目とのギャップが激しい。


「え? 軽くね? もうちょっと食いついてくれないの?」


「食いつくのが馬鹿らしいって思っちゃって」


「俺の決意はパフェ以下ですか、そうですか」


 話には食いつかず、パフェには食いつく――――涙が出てきそうだ。


「休日に呼び出したかと思えば、こんなこと……呆れたわ」


 そう言って、少しだけうざったくため息を溢す明るい茶髪のセミロング少女————藤堂深雪。

 どっかの誰かさんの恋人であり、中学校からの付き合いがある少女だ。


「いや、颯太って今日は用事があるって言ってたし、こんな話を柊や神無月に言えるわけがないじゃん? そう考えたら、必然的にお前しか残んねぇじゃん」


 俺だって、久しぶりの投稿でお前から始めたくはなかったよ。


「だからって、こんな話で私を呼ぶ? 休日に? 一人で?」


「悪いと思ってるからパフェ奢ってるじゃん」


「ありがたくいただくわ」


 そう言って、再びパフェにありつこうとする藤堂————女の子って、甘いの好きだよね。


「まぁ、あんたがそうやって決意表明をするのは別にいいとして――――そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」


 一通り一応真面目に話を聞いてくれていたのか、藤堂が少しだけ頬を緩めてこちらを向く。


「別にステラも神無月も答えを急いているわけじゃないんでしょ? だったら、焦る必要ないと思うわよ」


「そうは言うが、俺が出した答えって普通に『保留』ってことだろ?」


「そうね、情けないクズの答えね」


「クズ」


 あたりがぁきついっ。


「まぁ、私はあんたの出した答えは応援するって決めているし、そこについては文句は言わないわ。普通に好きって分かっただけでも進歩だと思うから」


「おうおう、下げて上げてくるなんて高等テク身に着けやがってからに」


「自慢じゃないけど、あんたの扱いは慣れてるわ」


 自慢することじゃないわな。


「焦って、変な方向に行っても意味がないじゃない。ただでさえあれだけ悩んで悩みぬいた結果が『保留』何だったら、これ以上急いて考えたって同じ答えに行きつくに決まってるわ」


「そういうもんか?」


「そういうもんよ」


 そういうもんか……まぁ、確かにあの時の答えは俺なりに必死に考えて出した答えなわけで――――あれからあまり日も経ってないし、同じ風に悩んでもまだ心境の変化も何もない。

 だったら、同じ結論に達してしまうこともあるだろう。


「どうせ、あの子達もこれからあんたにアピールしてくるでしょうし……知っているようで知らなかった部分を見ていって決めていけばいいんじゃないかしら?」


 ぶっきらぼうのように見えて、こうして真面目な解答を用意してくれる……本当に――――


「お前って、いい女だよな」


「口説いてんの?」


「口説いてないから、膝蹴るのやめて」


 ゴンッ! っていう、普通の蹴りじゃ聞こえないような鈍い音が聞こえるから。

 照れ隠しも度が過ぎればただの暴力よ? ……いかん、藤堂の顔は真顔だ。照れの要素が何一つ感じられない。


「単純に、ちゃんと聞いてアドバイスしてくれるからいいやつって言っただけ。口説くわけないじゃん、好きなやつがいるのに」


「てっきり、不誠実なタラシに目覚めたのかと」


「こらこらこら」


 評価が一気に落ちたわ。


「私だって、応援するって決めてるしね—―――これぐらい、真面目に答えるわよ」


「……さいですか」


 真っ直ぐな瞳を向けられる。

 それがどうにも嬉しくて……思わず口元に笑みが浮かんでしまった。


「ともかく、あんたは今まで通り普通に接して過ごしてばいいと思うわ。焦って、急いたところで満足のいく答えがすぐに浮かび上がるかも分からないし、後々に後悔するかもしれないから」


「……そうしてみるよ」


 恋人がいるからか、それとも俺を理解してくれているからか。

 いずれにせよ、藤堂の言葉は妙に納得させられるものであった。


「それにしても、久しぶりよね……あんたと二人きりって」


「この前、お前達が喧嘩した時に二人で会った気がするが?」


「……思い出したくない過去ね」


 そんなに嫌か? 俺と二人きりは?

 泣いちゃうぞ、俺っち泣いちゃうぞ?


「そういえば――――夏休みが明けたら体育祭があるわね」


 本当に思い出したくないのか、唐突に話を切り替えた。

 そんなに忌むべき過去だったか? マジで泣けてくるぞ?


「あー……そういやあったなぁ」


 俺達が通う高校では夏休みが明けてすぐぐらいに体育祭が行われる。

 休みボケで授業に集中できない馬鹿共がいるからか、そういう催しで生徒のモチベーションを上げようといった側面があるのだとか(※先生に聞きました)。


「……ステラ、大丈夫かしら?」


「……そこはかとなく心配だな」


 運動音痴の柊のことだ。

 張り切って怪我をしなければいいが……どうやら、藤堂も同じようなことを思ったらしい。


「……心配ね」


「……そうだな」


 まだまだ真夏の兆しが顕著に残っている中。

 俺と藤堂はしばらくの間、喫茶店で誰かさんの心配とたわいのない会話で時間を過ごした。

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