夜に、颯太と

ファンタジア文庫様より、書籍8/20発売予定です!!!

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 部屋着から外出用の私服に着替えた俺は、早速財布とスマホだけを持って家を出た。

 夏が過ぎ、この時間ともなるとやはり外は視界が悪く、街灯があっても明らかに『暗い』と表現しなければならないほど。


 住宅街とはいえ、家からの明かりはそこまで灯っておらず、青白い街灯が不気味さを醸し出している。

 柊だったら流石に怖くて出歩けないだろうな、と。夜風に当たりながら思ってしまった。


 とはいえ、駅前に近づくにつれ明るさは取り戻していった。

 そこまで都会ではないが、駅前はそれなりに栄えており、居酒屋やカラオケ店、24時間営業のコンビニなどが夜の不気味さを取り除いてくれていた。


 駅前に辿り着くと、俺は見渡して颯太の姿を探す。

 俺のアパートより、颯太の家の方が近い。一緒の時間に出たのであれば、颯太が先についているはず。


 しかし、見渡しても帰宅しているスーツ姿の社会人ばかり。

 こんな中で探すの超億劫。回れ右をしたくなってしまう。


 そんな時――—


「やっほ」


 背後から声をかけられた。

 人混みが激しいからか、急に声かけられても驚くことはなく、俺は普通に振り返る。


「遅い」


「いや、真中が来たから声をかけたんだよ? 着順で言ったら、僕の方が先だよ」


「んだよ、みみっちいやつだな」


「真中が先に言い出したんだけどね……」


 颯太がやつれた顔を見せる。

 黒いジャケットに、白いVネックのシャツ。黒いパンツに白のスニーカー、そして革製の手提げバッグといった格好は、年相応かつ大人びた印象を与えていた。

 イケメンな顔と相まって、腹立つほどにかっこいい。隣にいる俺がダサく感じてしまう。


 ……なんだかんだ、柊に服を選んでもらってなかったからなぁ。

 今度、お誘いして服を選んでもらおう。


「んで、結局どこ行くんだよ? ゲーセンなら、うるさいから好きじゃない」


「僕もゲーセンはちょっと苦手かな。真中と同じ理由で」


「だったら適当にぶらつく感じか?」


「それでもいいけど、時間も時間だしカラオケかボーリングのどっちかにしない?」


 この駅前だと、学生が遊ぶとなればカラオケかボーリング、ゲーセンぐらいしかない。

 ぶらつく選択肢を取り除いてしまえば、必然的にその二つしか選択肢はないだろう。


 歌いたい気分でもないし、そうなれば残る選択肢は一つしかない。


「ボーリングで」


「了解。ちょうど深雪と行った時の割引券があるんだ」


「幸せ自慢か? マウンティングマウンテンか?」


「トップクライマーになった覚えはないけどね」


 さり気なく幸せ自慢をしよってからに……。

 いいもん、いつかと一緒にボーリングで楽しんでくるから!

 ……柊と行ったら、とんでもない結果になりそうだなぁ。

 100点超えるかしら?


「まぁ、いいわ。お前はいつかうちのクラスメイトに処刑されろ。っていうか、あらぬことを吹聴してやる」


「本気でやめて!?」


 そんなやり取りをしながら、俺達は駅前を離れた。

 しかし、ボーリング場がある店はすぐ近くではあるのだが。


 ♦♦♦


「そういや、結局どうして俺を誘ったんだよ?」


 シューズを履き替えながら、颯太に尋ねる。


「あぁ……そういや言ってなかったね」


「その理由も聞かずに誘われてやった俺のフットワークを褒めろ」


「ただの暇人って解釈にも取られそうだけど大丈夫……?」


 苦笑いを浮かべながら、颯太は履き替え終わりレーンへと向かった。

 平日の夜だからか、客足はそこまで多いわけではなく、周りを見渡しても数レーンしか埋まっていなかった。

 こういうことを考えると、平日に行くメリットというのはあるものだと思ってしまう。


 ……明日が辛くなりそうなんだけども。


「……深雪がさ、心配してたんだよ」


「誰を?」


「真中を」


 心配……なんかさせるようなことってあったっけかなぁ?

 まぁ、藤堂は意外と心配性だし気を使ってくる奴だし、俺の何かを想って心配してくれたのだと……思う。


「だから、様子を見たかったってか?」


 靴を履き替え、ちょうどいいボーリングの玉を選ぶと、俺もレーンへと向かった。


「それもあるけど、僕もちょっとだけ心配してたんだよね」


 颯太が、いつになく優しい声で口にする。


「真中ってさ、他人のことになると真っ直ぐなんだけど、自分のことだったら考えすぎちゃうでしょ?」


「…………」


「多分さ、今も何か悩んでるんじゃないかなーって。これでも、中学時代から一緒に過ごしてきた……親友だと思っているからさ、それぐらいの変化は僕だって気が付く」


 颯太はレーンに玉を置くと、そのままスコアを設定していく。

 画面には「サクラギ」と「キサラギ」という名前が映り、セッティングが完了される。


「悩むのもいいけどさ、たまには息抜きをした方がいいよ。それで、たまには愚痴みたいな感じで吐き出してみるのもいいと思う」


「……まぁ、言わんとしていることも分かるが」


 心配してくれるのは素直に嬉しい。

 しかし、今抱えている悩みは打ち明けるべき話だろうか?

 一度は相談した……だが、二回目三回目となると、少し気恥しい。


 そんなことを思いながら、俺は口ごもってしまう。

 すると────


「だからといって、僕も強制したりはしないよ。でも、男らしく踏み込んではみたいとは思うけどね」


 颯太は、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「じゃあ、このゲームで僕が勝ったら……真中には、洗いざらい吐いてもらおうかな?」

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