朝早くないっすか?
「……これ、どうすんだべ?」
祝賀会もつつがなく終わり、次の日の早朝。
俺は我が部屋で一人頭を抱えていた。
夏の日差しの強くなり、エアコンをつけないとやっていけない今日この頃。
にも関わらず、外を覗けば出勤するサラリーマンが額の汗を拭いながら駅に向かって歩いている姿が見える。
……お勤め、ご苦労さまです。
っと、そんな事考えている場合ではない。
俺は、これに対してどういう返事をしなければいけないか考えなければ……。
という訳で、俺は机の上に綺麗に広げられた紙を拾う。
ご丁寧に『速達』で送られてきた一通の手紙。
これが、現在俺の頭を悩ませている要因なのだ。
ピンポーン♪
どうしようか考えている最中、不意にチャイムが部屋に鳴り響く。
時計の針がまだ下向きなこの時間帯に、どうやらお客さんが来たようだ。
「はいはーい」
配達さんだろうか?それとも、新聞勧誘か何かだろうか?
……頼んだ覚えはないし、きっと新聞勧誘だな。
手紙を置いた俺は、少しだけ早足で玄関へと向かう。
そして、誰かも確認しないまま、玄関扉を開けた。
「おはようございます、如月さん」
「……朝早くね?」
現れたのは、白基調としたワンピース姿の柊。
白い肌と白のワンピースが綺麗にコントラストしており、そこはかとなく清楚な雰囲気を醸し出していた。
どうやら、朝っぱらから現れたのは配達でも新聞勧誘でもなく、癒しの聖女様だったようだ。
「如月さんなら起きていると思いましたので」
「だからと言って来る理由にはなっていないがーーーーとりあえず、入ってくれ」
「はい!」
とりあえずこんな朝っぱらでも外も暑いと思ったので、柊を中へ促した。
そして、それに続いて柊も靴を脱ぎ、俺の部屋へと入る。
「ちゃんと部屋は綺麗ですね」
「お陰様でな」
柊が室内を見渡し、そんなことを呟いた。
流石に、綺麗にしてもらった次の日に汚くするようなことは俺でもしない。
祝賀会終わって、柊俺の部屋を掃除してもらったのだが、これですぐ汚してしまうなんてことがあれば、申し訳ない気持ちになってしまうからな。
……まぁ、1週間後には汚くなってるんだろうが。
「それより、如月さんは朝から何かありましたか?」
いつもの定位置であるベッド脇の床へ腰を下ろし、柊が気になりましたと尋ねてくる。
「どうしてそう思ったんだ?」
「いえ、少しだけ浮かない表情をしているように見えましたので」
俺ってそんな分かりやすいかね?
別に、意識してた訳じゃないんだが……。
それほどまでにあの手紙は俺を苦しめているのか……っ!
「柊が朝っぱらから押しかけて来たからかな」
「そ、それは……すみません」
俺が軽く冗談を言うと、間に受けてしまった柊は申し訳なさそうに俯き、謝ってきた。
「すまん、冗談だ」
正直、真に受けるとは思わなかった。
だから、こうして謝られてしまうと、非常に心苦しいものがある。
「……」
そして、顔を上げた柊が無言で頬を膨らませてしまった。
いかんなぁ……いつもなら「むすぅー!」みたいな擬音を口にして不機嫌アピールをするのだが、今日は何も言ってくれないぞ。
逆に怖い。
「本当にごめんって。冗談だから、別に来ても問題ないなかったから」
まぁ、タイミングは悪かったが。
「……なでなでを所望します」
「……それは必ずですかい?」
「……必ずです。私、傷つきました」
柊は俺の元まで近づくと、肩元に頭を預け、今か今かと俺の手を待つようなアピールをする。
……どうして、機嫌が治る為の行いが、柊の頭を撫でるなんだ?
別に、それで治るのであれば構わないのだが……普通に恥ずかしい。
「……仰せのままに」
しかし、このままでは柊が機嫌を治してくれないので、仕方なく羞恥心を己の中で隠しつつ頭を撫でてあげる。
「……ふふっ」
すると、柊は嬉しそうに顔を綻ばせ更に俺の体に己の体を寄せてきた。
……本当に、この子はどうしてこんなスキンシップが激しいの?
前まではこんな子じゃなかったはずなんだが……?
「それで、どうしてこんな朝早くから俺の部屋に来たんだ?」
柊が遊びに来るというのは前から知ってはいたのだが、サラリーマンが出勤する時間に来るとは思わなかった。
「それは、単に如月さんに会いたかったからですよ?」
「がはっ……!?」
吐血。
それは読んで字のごとく、口から血を吐くこと。
「大丈夫ですか!?」
「心配しなさんな……ただ血を吐いただけだ……」
「それは大丈夫じゃないですよね!?」
なんじゃもんじゃい。
血を吐くことなんて、一般男性なら日常的に起こることだろうに。
ただ、俺の場合は柊の発言を耳にしてしまったからだが。
……ほんと、この子はどうして恥ずかしげもなくそんなセリフを言えるのかね?
俺をキュン死させる為に言っているのかね?うぅん?
「本当に心配しなさんな……」
「な、ならいいのですが……」
そして、納得してくれたのか引き下がってくれた柊。
とりあえず、赤くなってしまった俺の顔が見られないように、吐いてしまった血を拭き取る動作で誤魔化しながら顔を逸らす。
……まったく、朝っぱらから意識させてくれる。
こっちとら、スキンシップと恥ずかしセリフのダブルパンチをくらっている余裕なんてないんだからさ。
柊にも、困ったものだ。
しかし、まぁ……それでも、嬉しいと思ってしまう俺がいるのは、ここだけの話だ。
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