手紙の内容
「それで、如月さんはどうして浮かない顔をしていたのですか?」
俺に頭を撫でられている柊が顔を上げて尋ねてくる。
「……んー」
少しばかり思案。
いや、別に隠すほどの話じゃないし、話しても問題ないのだが……何て言われるやら。
————まぁ、いっか!別に、俺の評価が下がるわけじゃないし。
「これ見てくれよ」
考えた結果、浮かない顔――――というより、俺の頭を悩ます原因でもある手紙を拾い上げ、柊に見せる。
「これを……ですか?」
少し不思議そうに紙をを受け取った柊が視線を落とす。
~拝啓、親愛なる息子へ~
は
ヤ
く
か
え
ッ
て
こ
イ
ぶち殺すよ?
~息子を大切に思っている母より~
~追伸~
真中くん、そちらも夏休みになったかと思います。
もし、おねぇちゃんの事を大切に思っているなら、お願いがあります。
お母さんが暴走しそうです。
なので、出来るだけ早く帰省してくれないでしょうか?
~おねぇちゃんより~
「こ、これは……すごい手紙ですね」
手紙の中を見た柊が頬を引き攣らせて苦笑してしまう。
母さんや、やはり息子以外の子に見せてもこの手紙は狂気以外の何物でもなかったようです。
「あぁ……柊もそう思うだろ?」
「いえ……随分と個性的なお母様ですね……」
「そんな引き気味なフォローは残念ながら効果はないぞ?」
脅迫文————もとい、手紙を柊から受け取ると、机の上に放り投げる。
しかし……本当にどうしたものやら?
多分、この感じだと速達で送ってきたのはねぇちゃんだろう。
基本、機械関係に疎いねぇちゃんや母さん。
なので、何か用事がある場合は電話ではなく、手紙に書いて送られてくることが多い。
しかも、いつもなら普通郵便で送られてくるくせに、今回ばかりは速達。
よほど事態は深刻なのだということが伺える。
……ねぇちゃん、そっちでは一体何が起きているんだい?
「それで、如月さんはどうするのですか?」
「そうだな……それが問題なんだよなぁ」
正直、この手紙を見たらすこぶる帰りたくない。
ここにいたい。恐ろしい。HELP。
「ぶっちゃけ、俺は姉を犠牲にしてでも、帰省したくない」
「ぎ、犠牲って……そんな恐ろしい事ではないと思うのですが……」
いや、分かっていないな柊は。
奴が機嫌が悪い時はそれはもう恐ろしいものなんだ。
具体的に言えば、親子の縁を切ってでも、ほとぼりが冷めるまで海外に逃げたいと思えるほど。
「しかし、この内容からして、如月さんに何か用事があるのではないですか?」
「そうなんだよな……俺、何か怒らせるようなしたっけ?」
すごいよなぁ……15文字で的確に内容と感情を表現できるだなんて。
その描写力を是非ともこの作品に活かしたいほど、羨ましい。
「でも、こういう場合は帰ったほうがいいと思いますよ?ご両親も、ただ心配しているだけかもしれませんし」
「その可能性はゼロに近いかもしれんが、帰ったほうがいいのかもなぁ……」
1人暮らしを始めて早数か月。
そろそろ実家に帰っておかないと、母さん以外の家族が心配するかもしれない。
少しは、元気な顔を見せておかないといけないだろう。
「……しかしなぁ」
俺はちらりと視線を横に動かす。
そこにはきょとんと可愛らしく首を傾げている柊の顔が。
こいつ……どうしよ?
夏休みは一緒にいるって約束してから、いきなり俺がいなくなるっていうのは流石に……いや、でもこればかりは仕方ないような気も……。
それに、この内容からしたらいつこっちに帰ってこれるか分かんないんだよなぁ。
(……仕方ない、少し提案してみるか)
「柊」
「はい、どうしましたか?」
「もしよかったらだけど、俺と一緒に実家に帰らないか?」
柊が一緒に実家に帰ってくれれば、離れないで済むし、なんだったらそのまま観光をしてもいい。
この前のテストのお願いもあるし、どこか遠出してみるのもいいと思った。
……決して、お客さんを連れてくれば怒りが収まりそうだなとか思ってないぞ?
……本気で、思っていないったら思っていないんだからね。
「ふぇ!?」
柊は顔を真っ赤に染めて、驚愕な表情をした。
……ごめん、まさかそんな反応されるとは思わなかった。
「き、如月さんのご実家ですか……!?」
「その通りだ」
「ま、まだ……私達付き合ってもいないですし……!?」
付き合うって、どこに連れて行かされようとしていたのだろうか?
もしかして、お出かけ用の日用品を買いに行くのを手伝って欲しかったのだろうか?
「いや、もしよかったらって言う話だぞ?勿論、泊まり込みになってしまうし、いつ帰ってこれるか分からないから、予定とかあったら断ってくれてもいい」
俺としては、本音を言えばついてきて欲しい。
別に一人でも問題ないのだが、せっかくの夏休み――――柊がいないとなると、少し寂しいから。
「と、泊まり込み……いえ、そこは問題にゃいのでしゅが……!」
噛んだ。二回も噛んだ。
ちょっと可愛いと思ってしまったのは、仕方ないと思う。
「(ご両親に挨拶ですか……!?いきなりハードルが上がった気がして、正直戸惑っているのですが……ここで差をつけておかないと、負けてしまいそうですし……っ!)」
やがて、彼女の声は俺に聞こえないくらいまでボリュームが下がった。
そこまで悩むほどなのかしら?嫌なら嫌って言ってくれてもいいのだが。
「行きます!是非ともお邪魔させてください!私の為に!」
「俺の実家に行くことが、どうして柊の糧になるかは分からんが、了解した」
というわけで、俺達は我が家へ帰省することになった。
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