体育祭の終わり

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『おーい、そこちゃんと運べよー』


『これ、どこに持っていけばいいの?』


『いや、あいつが途中でさ──』


『ははは、マジでそれウケる!』


 体育祭の熱気は、終了の宣言によって沈静化した。

 ……まぁ、単純に体育祭が終わっただけなのだが、先程の盛り上がりはもう見られなかった。


 皆、名残惜しそうにしながら、思い出として楽しそうに語りながら後片付けを行っていた。


「いやぁ……終わっちゃったね」


「……だなぁ」


 テントの骨組みを外しながら、俺の親友が名残惜しそうに……それと、ちょっとスッキリした顔で言ってきた。


「負けちゃったな……」


「うるせぇ帰宅部。てめぇ、めちゃくちゃ速かったじゃねぇか」


「それを言ったら真中もだよね? まぁ、言いたいことは分かるけど……」


 彼氏彼女揃って運動神経がいいとか、どんなラノベのカップルだ。

 主人公級じゃねぇか。いっつも藤堂の背中に隠れていた癖に……。


「深雪と一緒にいると何かとあるから……一応、僕なりには鍛えてたんだよ」


 なるほど……戦乙女と付き合う弊害が幸をなした感じか。

 こいつもこいつで苦労してるんだな。


「やっぱり、貧乳が彼女だよお前もたいへ────」


「あ゛?」


「いえす、なんでもありません」


 背後から殺気が。

 つい反射的に謝罪してしまった。


「悪口を言うなら堂々と言いなさい、情けないわよ」


「いや、堂々と言ったらスタンガンをスタンバイしちゃうでしょ、君?」


「当たり前じゃない。内容によっては金属バットも持ってくるわ」


「悪口言うのをやめてっていう話はしないんだね……」


 今更こいつが悪口を言われたところで、恐らく傷つかんだろう。

 その代わりに制裁という名の暴力をすればいいだけなのだから。


 恐らく、彼女はそれで気持ちが落ち着くはずだ。


「私もこっちを手伝うわ」


 藤堂はそう言うと、ちょこんと俺と颯太の間に腰を下ろした。


「あれ? 柊さんと神無月さんは?」


「ステラと神無月なら────如月の方が詳しいんじゃない?」


 藤堂と颯太がこちらを向いてくる。


「別に詳しいってわけじゃねぇよ。今、あいつらがどこで何をしているかなんて知らないからな……」


 ただ────


「あいつらが、これからどこに行くのかは知ってる……それだけだ」


 少し前のことを思い出す。

 体育祭が終わって────


『神無月……あとで、俺の教室に来てほしいんだ』


『柊……あとで、一緒に帰らないか?』


 俺は、二人にそう言った。

 そう言って……二人を呼び出した。


「あぁ……なるほど」


 颯太は納得したかのように、視線を逸らして作業に戻った。


「っていうか、なんでお前が知ってんだよ?」


「そりゃ、ステラから聞いたからに決まってるでしょ? あの子、少し怖がってたから」


 藤堂も、骨組みを解体するのを手伝いながら答えてくれる。


 ……怖がっていた、かぁ。

 それを聞くと、どこか心が重くなってしまう。

 でも、答えを出すということはそういうことだ。


 誰かと付き合うってことは……そういうことなんだと、思いたい。


「あぁ……勘違いしないでよ、如月。別に選ばれないかもしれないって意味の不安じゃないわ」


 少しだけ気が沈んでしまった俺を見て、藤堂が小さくため息を吐いた。


「どっちに転んでも、誰かの関係は変わる……それが少し怖かったのよ」


「……」


「だからあんたはシャキッと、堂々としてればいいのよ」


「いたっ!?」


 いきなり藤堂に思い切り背中を叩かれた。

 喝を入れてもらったような感じではあったが、普通に痛くて若干涙目になってしまう。


「どんな結果になっても、私達はあんたの味方。だから、気負わずに自分の素直な気持ちを言えばいいの────ステラも神無月も、それを望んでいるはずよ」


 ……どうして、こいつはそこまで俺のことを考えてくれるのだろうか?

 友達だからって言うだけじゃないような気がする。

 そんな疑問が浮かび上がるけど……嬉しかった。

 そう言ってもらえるのが。


「……お前って、いい女だよな」


「何よ、惚れた?」


「……真中?」


「そんな目で見るな。売約済みなのは知ってるよ」


 久しぶりに颯太の敵意の籠った瞳を向けられた気がする。

 取らねぇよ、別に。俺に好きな人がいることぐらい分かってるだろうが。


「……まぁ、そろそろ行くわ。先にいた方がいいと思うからな」


 そう言って、俺は立ち上がる。

 ここは颯太達に任せておけばいいだろう。誰の監視もあるわけでもないし、途中で抜けても誰にも怒られることはない。


「うん、行ってらっしゃい」


「打ち上げはちゃんと来なさいよ?」


「分かってるよ……ちゃんと連れてくるから」


 すると、二人がいつになく優しい瞳を向けてきた。

 その瞳が妙にこそばゆく、早々に背中を向ける。


(長かったな……)


 片付けの間にも聞こえてくる喧騒が、気持ちを紛らわせてくれる。

 それでもこの結果だけは紛らわせたくない。


 そんなことを思いながら、校舎の方へと足を進めた。

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