体育祭②

ファンタジア文庫様より、書籍8/20発売予定です!!!

書影は、ホームページ及び近況ノートにて公開しております!!


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 柊の100m走が終われば、次は障害物競走。

 道なりには小麦粉の中に入っている飴を取り出す難所、平均台や網ネットなどの障害物が並んでいる。


 この障害物競走には、俺が参加することになっている。

 そして────


「来たわね……如月」


 仁王立ちでこちらを見て笑う、戦乙女であった。


「お、臆するな如月真中……こいつはただの女。何も怖くない……ッ!」


 HAHAHA……何故か膝が笑っていやがるぜ。

 あのラフプレーやります発言がここまで尾を引いているとは……。


 だが、臆することはねぇ! 流石に公衆の面前、保護者も見守っている中で本当にラフプレーをするはずが────


「あら、防護服は着なくてもいいのかしら?」


 ……俺は、どうして防護服を着なければいけない場所に立たされているのだろうか?


「だ、だがそれでも臆することはねぇ! 赤組の未来のため! ここで貴様を倒す! なぁ、皆!」


『そうだそうだ!』


『てめぇこそ、生きて帰れると思うなよ!』


『ラフプレーがなんぼのもんじゃい! 尻と貧相な未開拓地でも洗って待っとれや!』


「ふぅん……いい度胸じゃない」


 同志の声などもろともせず、額に青筋を浮かべながら獰猛に笑う藤堂。

 誰だよ、火に油を注いだやつ? ラフプレーが過激になっても知らんぞ。


『それでは、位置についてください!』


 そうこうしているうちに、俺達の出番が回ってくる。

 悲しいことに、藤堂と同じタイミングだ。


『如月さーん! 頑張ってください!』


『如月くん、ふぁいとー!』


 赤組のベンチからそんな声援が聞こえてくる。


(そうだ、今日は答えを出す日……その前にダサい姿なんか見せらんねぇ!)


 こんなところで臆している場合じゃない。

 赤組の勝利以前に、柊達の前でかっこ悪い姿は見せられないんだ。


 そんな気合いと共に、スタートラインに立つ。


 そして────


『よーい、スタート!』


 ピストルの音と共に、皆が一斉に走り出した。

 初めは、小麦粉の中から飴玉を取り出さなければならない。

 早く取らなきゃいけないというのもそうだが、まずはラフプレーをも容赦してくれない藤堂がどう出るか────


『早く飴玉探せ戦乙女!』


『そのあとに俺らがその小麦粉に顔を突っ込んでやるからよぉ!』


『関節キスとかうぶなこと言うんじゃねぇぞ!?』


 ……その前に、いっそ清々しいほどの下心を醸し出した連中が見えてしまった。

 女性陣からのブーイングがどうなるか、気になるところだ。


 背後に迫る男達。顔だけはすごくレベルが高い藤堂が顔を突っ込む小麦粉はさぞかし貴重性が高いのだろう。

 それに対し、藤堂は懐から何やらケースを取り出し、地面に向かってばらまいた。


 その瞬間、後ろを走っていた連中が「いたっ!」「なんじゃごりゃ!?」などと、足を抑え始めた。


「……気色悪いこと言うんじゃないわよ」


 よくよく見てみると、地面に転がっていたのは先の尖った……撒菱まきびしであった。

 ……藤堂も藤堂で、その撒菱をどうやって入手したのか、甚だ疑問である。


 撒菱効果がしっかりと出たのか、藤堂が探したレーンには男達だけでなく他の生徒は介入してこなかった。

 邪魔をされなくなった藤堂はすぐに見つけ、白くなった顔を叩きながら平均台を目指す。


 相変わらず早い。

 だが────


「今回は俺が先だ!」


 撒菱を撒いていた間に、俺は平均台へと向かっていた。

 距離は少ししか離れていないが、障害物競走において、その差は致命的である!


 俺は平均台へと辿り着くと、足元に気をつけながら渡る。

 しかし────


「待ちなさい、如月」


 同じ平均台に、藤堂がやってきた。

 しかも、足場など気にせず一直線にものすごい勢いで。


 このままだと────


「お前、俺とぶつかるぞ!?」


「言ったじゃない……ラフプレーに気をつけなさいって」


「強かだなぁ、お前!?」


 落ちたら始めからやり直しにもかかわらず、怪我関係なし捨て身のタックルを狙ってくるとは……ッ!

 それに、足場めちゃくちゃ狭いのに、よくも全力疾走で走れるよな!?


(なんて、悠長にツッコミをしてる場合じゃねぇ!)


 俺は落下を考慮せず、藤堂に追いつかれないことだけを考えて全力で平均台を駆け抜ける。

 落ちることだけはなんとか避けることができ、平均台を下りた俺は再び全速力で最後の網ネットまで走った。


 案の定、こんなリスキーなことをしたおかげで、ついてきてる奴は藤堂のみ。

 順調にいけば、このまま一位を奪取できる!


「戦乙女なんてちょろいもんだぜ!」


 一位をほぼ確信した俺は、ネットを持ち上げてその中を潜っていく。

 しかし────


「捕まえたわ!」


「ひぃ!?」


 入った瞬間、追いついてきた藤堂に足首を掴まれた。

 少しだけ乱れた髪から覗く鋭い眼光が異様に恐怖である。


「おまっ、普通に潜れよ!?」


「何言ってるの? 蹴落として勝利をもぎ取るのが私のやり方よ」


「普通にやれよぉ!」


 どうして正々堂々という言葉が出てきてくれないのだろうか?

 こんなにも────


「こんなにも胸がつっかえないというアドバンテージがあるのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 いだぁい!? 何故か、足が四の字に固められているような関節の痛みが!?


「悪かったわね! つっかえるような胸がなくて!」


「これ、ラフプレーとかいう次元じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ────結局、俺は障害物競走を一着で勝ち取ることができた。

 藤堂は二着。ざまぁみろとい気持ちになりながらテントに戻ると、何故か柊達が労るような目を向けてきた。


 なんでだろうね? 関節があらぬ方向に向いているからかな?

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