体育祭①
ファンタジア文庫様より、書籍8/20発売予定です!!!
書影は、ホームページ及び近況ノートにて公開しております!!
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それから滞りなく時間が過ぎ、体育祭が始まった。
校長先生のありがたくも長ったらしい挨拶や、先輩による選手宣誓など。滞りなく進んだ間にはそんなことがあった。
先輩が選手宣誓をしている時、思わず涙が出てしまったのは内緒。
だって、あの先輩がちゃんと選手宣誓を台本見ずに言えたんだよ?
は? 大袈裟だって?
あの子に選手宣誓の内容を教えるのにどれだけ苦労したのか……聞くかい? あの人、覚えようとするだけでノート一冊丸々に選手宣誓の内容を書き写してたんだよ? そして、何故か俺も一緒に書かされたんだよ?
……どれだけ苦労したか。君達にも分かってほしい。
今の気分はそうだな……成長を見届けた母親の気分だっただろう。
選手宣誓が、何故かピアノのコンクールに見えてしまったよ。
あ、あと、柊が「どうして泣いてるんですか!?」って驚いていたのも内緒な?
────まぁ、そんなことはどうでもいいとして。
いよいよ始まった体育祭。
集まってきた保護者や関係者が見守る中、プログラム最初の競技である100m走がスタートした。
「ステラちゃん、大丈夫かな……?」
一年赤組のテント。俺の隣で、神無月が心配そうな声を上げる。
視線の先には、緊張した顔つきで順番を待つ柊の姿。
運動が苦手な彼女からすれば、あそこはかなり不安を抱いてしまう場所かもしれない。
「ふむ……かなり緊張しているな」
「いっぱい練習したんだよね? だったら、大丈夫だと思うんだけど……」
「あぁ……柊はいっぱい練習もした。それに、柊が遅くたって誰も責めない。一人の敗北は、それほど影響を受けてしまうものでもないからな」
「だったら、楽しんで走ってほしいね。緊張せずに! ステラちゃん、初めは不安がってたけど、昨日は楽しみにしてたもん!」
練習や、皆の声のおかげで体育祭を楽しめるようになった柊。
そんな彼女には、その気持ちのまま体育祭を終えてほしい────神無月は、そう思っているのだろう。
それは、俺とて同じ気持ち。
だから────
「おーけー、俺に任せろ」
「んむ? 如月くん、何かいい案でもあるの?」
「あぁ」
緊張とは、プレッシャーや周りの空気に押し負けているからこそ発生してしまうものだ。
負けられない、苦手だから不安だ、競争する場だと強く認識しているからこそ、柊は緊張しているのだろう。
ならば、緊張してしまう要素────それらを取り除いてやれば完璧だ。
「一番隊!」
「「「はっ!!!」」」
「うわっ! 何!?」
俺が号令をすると、近くに十人程度の男子生徒が集まる。
それに対し、神無月は驚いているようだが、とりあえずスルーしておく。
「いいか、我が赤組の聖女様───柊が、この空気に緊張してしまっている! 我々の手で、聖女様の不安の取り除くのだ!!!」
「「「いえっす、マム!!!」」」
元気のいい返事が聞こえる。
傍から見れば、何故が軍隊のように見えてしまうのが不思議だ。
「如月くん……この人達は?」
「あぁ……こいつらは赤組の勝利────いや、柊を楽しませると誓った己が責務を果たすために編成した優秀な部隊だ」
「う、うん……そうなんだ」
そうなんだ。
ちなみに、七部隊まで編成しており、いちいかなる時でも臨機応変に対応することが可能となっている。
『頑張ってー!』
『いけー! 負けるな!』
『いい走りだったよー!』
そんなことを思っている間にも、赤組白組の声援を受けながらグラウンドを駆けていく生徒が増え、着々と柊の番が近づいていた。
やがて、柊がスタートラインに立つ時を迎えてしまう。
「では行くぞ!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」
「待って如月くん! その大きなかけ声に不安しか感じないよ!?」
神無月には申し訳ないが、柊の緊張を取り除くためにスルーさせてもらった。
そして────
「柊ちゃぁぁぁぁぁん! 今日も可愛いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「君の笑顔は皆に愛と勇気と平和を与えてくれるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「戻ってきたらいっぱい褒めてあげるねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!???』
やんや、やんや。同じ赤組の生徒だけでなく、白組の声援よりも大きな声援を一番隊が柊に浴びせる。
その声援のせいなのか、周囲にいた人間だけでなく、白組も観客席にいる保護者達も一様に「聖女様?」「可愛い子がいるのか!」「本当だ! 聖女様が走る番だ!」「今日も可愛いなぁ」と、視線を柊に移していた。
「柊ぃぃぃぃぃぃぃ!!! お前はやればできる子だぁぁぁぁぁっ!!! 終わったら頭をちゃんといっぱい撫でてやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「本当に待って、如月くん! これは声援じゃなくて別のものだよ!? 絶対柊さんに変な視線が集まるやつだよ!? 完全に罰ゲームだよ!?」
神無月が大声で応援している俺の体に抱き着いて止めようとしてくる。
「そんなことはない。ほら、柊だって赤くなった顔を手で覆うぐらい喜んでいるじゃないか?」
「単に恥ずかしがってるだけだからね!?」
そうだろうか? そんなことはないと思うが────あ、なんか地面に蹲ってしまった。
「可愛いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「素敵だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「頑張って聖女様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
────という声援を受け、結局柊は最後まで走りきった。
結果は叶わず四着ではあったが、俺は柊の走りを見て努力が報われたのだと思った。
しかし、戻ってきた柊が「も、もうっ! すっごく恥ずかしかったです! 本当に恥ずかしかったんです!」と、顔を赤くしてポカポカと叩いてきたのは少し驚いた。
……なんでだろう? でも、不安そうな顔を見せなかったので、それでよしとしようと思った。
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