聖女様と一緒に帰ったことがバレました!?

 柊に料理を教えてから次の日。

 俺は今、様々な視線を浴びてクラスの注目の的となっていた。

 授業中にも関わらず、皆さんの視線は比較的後ろの俺の席を向いている。


 おかげで授業に集中できないよ、ボーイ達。

 この品行方正、容姿端麗、成績優秀の僕に何かあったらどうするのかね?うぅん?

 先生からの評価が下がってしまうじゃないか。


 と嘆いても仕方がない。


 何故注目を浴びているのか?

 と説明する前に、とりあえず軽い回想だけ入れておこう。


 〜回想〜


 今日の朝はいつも通り起床して、身支度を済ませたあとは軽くだけ朝食の準備をしてた。

 といっても、サラダに飲み物を2人前用意するだけ。


 そして、しばらくして柊が制服に身を包んでやって来た。

 朝っぱらから聖女様の顔を拝めるなんて幸せだなぁ……と思う人もいるが、俺は正直その気持ち以上に「失敗しないかな?」という不安の方が勝っていた。


 まぁ、今日はトーストを焼くだけだ。

 ちゃんとトースターに食パンをセットして時間を設定すればいいだけなので失敗するはずがないだろう。


 ………と、思っていたのです。


『え、ここに食パンを入れればいいのですか?』


『待て柊、君は何枚入れるつもりだ?このトースターでは10枚もいきなり焼くなんて無理だ』


『何か変な匂いがしますね……』


『貴様……ジャムを塗ったままトースターに入れたな?』


 などなど。

 最終的にはちゃんとできたのだが、そのおかげで何枚もの食パンが犠牲になってしまった。

 ……ごめんよ、食パンマン。


 というわけで、朝飯を終えた俺達は本日2回目である『一緒に登校』をした。

 しかし俺の必死の熱弁により、「今後、学校前まで来たら別れて教室に行く」という話になった。

 最後まで、柊は不機嫌だったが、こればっかりは仕方がない。


 というわけで、俺達は途中までは一緒に登校して後はバラバラで教室まで向かったのだ。


 ……ここまでは良かったんです。

 本当に、良かったんです……。



 そして、俺が柊より後に教室に入ろうと、下駄箱で靴を履き替え用とした時。


「おはよう真中」


「おはよ、如月」


「おう、おはようさん」


 後ろから、一緒に登校してきた親友カップルが声をかけてきた。


「あんた、今日はステラと一緒じゃないの?」


「あぁ……途中までは一緒にいたな」


「なるほど、懸命な判断だね」


 颯太はどうやら理解してくれたようだ。

 一緒に登校することによって俺がどんな惨劇に巻き込まれてしまうか……。

 今時ひぐらしなんてなかないよ?〇ナちゃんが「嘘だッ!!」って言う時代は終わったんだよ?

 だから……惨劇なんて……もう今時起こっちゃダメなんだよ……。


「んじゃ、教室に行くか」


「そうだね」


 靴を履き替えた俺達は教室に向かって歩く。

 すると、学校掲示板の前で大きな人だかりができているのを見つけてしまった。


「朝っぱらから何かしらね?」


「さぁ?生徒会長でも変わるんじゃないか?」


 俺と藤堂は「興味ありません」という風に軽く流して先を歩こうとする。

 けど、颯太は違ったようで、必死に人だかりの中から掲示板を覗こうとした。


 ―――――そして、


「真中、急いで教室に行くよ」


 何かを発見したのか、颯太は血相を変えて俺に向かって小声で話してきた。


「どうしたんだよ?そんなに慌てて?」


「いいから!」


 疑問に思う俺を他所に、颯太は俺の手を引いて急いで教室へと向かった。

 俺、男に手を握られる趣味ないんだけどなぁ…。


 それから、俺達は早足で教室に着いた。

 藤堂も俺も、何故颯太はこんなに慌てているのだろう?と疑問に思っていた。


 ……けど、多分この時からだろう。

 俺の嫌な予感がピンピンと探知機のように反応していたのは。


「なぁ……?俺、すっごい見られてないか?」


「そうね……興味、侮蔑、嫉妬――――ありとあらゆる視線があんたに注がれてるわね」


「颯太じゃなくて?」


「あんたにね」


 そう、教室に入った俺は何故か「おはよう」の挨拶ではなく様々な視線を浴びていたんだ。


 女子からは黄色い視線。

 男子からはどす黒い黒と赤とグレーの視線。


 ……俺、賢いから分かっちゃうんだ。

 あの男子の視線って『殺気』って言うんだよね!


「颯太……教えてくれ。俺の身に一体何があったんだ……?」


 俺は心配になって、隣にいる颯太に尋ねる。


「うん……昨日、夜に柊さんと一緒に帰らなかった?」


「ん?一緒に帰ったな?」


「……その時、手を繋いで帰らなかった?」


 そんなことしたっけ?

 俺は腕を組みながら、昨日のことを思い出す。


 ……あぁ、したわ。柊が怯えていたから安心させようと思って握ったわ。


「帰ったな」


「……やっぱり」


 そして、颯太は頭を抱えながら大きなため息をついてしまった。

 何故そんなに深刻そうな顔をする?

 ……本当に、俺の身に何が起きたんだってばよ?


「いい、真中?」


「ん?」


「さっき、真中と柊さんが2人で手を繋いで帰っている写真が、校内新聞に載っていて、それが学校掲示板に張り出されていたんだ」



 〜以上、回想終了〜



 思ったより回想長かったですね。

 いや〜、朝から濃い時間を送っている青春ボーイは本当に辛いねっ!

 ……本当に、辛いなぁ。


 だって、今は授業中だからいいんだよ?

 これが休憩時間になってみなさいよ?


 他クラスから色んな人が我がクラスに押しかけてきて、「聖女様と仲良く一緒に帰ってた男」を探そうとしてるんだよ?

 ……まぁ、探すだけならまだマシだ。


 ―――――それよりも、


『こら、お前たち授業中だぞ?どうしてお前らは後ろを向いているんだ?』


『どう嬲り殺しにしてやろうか?』


『他人の幸せは毒の味……だよねぇ』


『キャキャキャ!キャィヅルタベレドアババババババッ!』


 男共が本当に怖い。

 一部、目が死んでいる人がいるが、全員が今すぐに殺したいという目でこちらを睨んでいるのだ。


 ……まだ、強硬手段には出ていないのだが。


(放課後には……殺されるッ!)


 奴らはゆっくりと、俺を殺せる放課後に襲いかかってくるに違いない。

 まだ1ヶ月しか関わりを持っていないが……俺には分かる。




 俺はこれから起こる惨劇に怯えながらも、授業を受けていった。

 ……ひぐらしって、今時でもなくんだね。

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