彼に近づいたことで

(※ステラ視点)


「……はぁ」


 私は自室のベッドでため息をつく。


 時刻は夜の10時前。

 私はお風呂に入り、歯磨きもして就寝の準備を終えた。


 後は寝るだけ。

 なので、私はベッドへと潜り込む。


「今日は如月さんに沢山ご迷惑をおかけしました……」


 私たちはお買い物を終えて、如月さんの部屋へと到着すると、早速如月さんは私に料理を教えてくださいました。

 今日は簡単に作れるものということで野菜炒めにすることになりました。


 見事に成功!———というわけではなく、失敗。


 野菜は如月さんが切っていただいたので、私の役割は炒めるだけ。

 何でも、今日は遅いし、野菜の切り方はまた今度教えるということだったので今回はフライパンで均等に炒めることを教わりました。


 如月さんも「これなら失敗しないだろう」と言っていたのですが————フライパンって案外扱いが難しいのですね。

 均等に炒められるように菜箸を使って野菜を動かしていたのですが、いつの間にか野菜が焦げていたのです。


 如月さんも何が起こったか分からないという目をしていましたし、フライパンが悪かったのでしょうか?


 結局、野菜炒めは如月さんが代わりに作ってくれて、何とか私は夜ご飯を食べることができました。

 如月さんは終始疲れていた様子でしたので……かなり、申し訳ない気分になります。


 それでも、最後は笑って「また練習しような」と言ってくれたので、私は少し救われた気分になりました。


 そして、明日の朝はトーストの使い方を教えていただけるそうです。

 でないと、私の朝ご飯が心配だからということで。


 ……トーストぐらいできますよ。


 と、言えればよかったのですが、残念ながら一度も使ったことがないので分かりません。


 何せ———私は今まで一度も自分で料理を作ったことなんてなかったのですから。

 今までは黙っていれば誰かが私に料理を作ってくれましたので。


 ……今となれば、あの時しっかり教わっていればと思います。


 けど、誰が教えてくれるのでしょうか?

 親?友達?お手伝いさん?———いえ、誰も教えてくれませんね。


 しかし、そのおかげもあって、こうして如月さんに教えていただくことができるのです。

 如月さんには申し訳ありませんが、私はそのことに嬉しく思います。


 私は枕に顔を埋めながら、思わずにやけてしまう。


 しかし、今思えば私って結構はしたない女だと思われていないでしょうか?

 助けていただいた時から彼のことが気になり始めて、私は関わりを持とうと動いてきました。


 一緒に帰りたいとお願いしたり、お昼ご飯を一緒にと誘ったりもした。

 そして……夜ご飯をご馳走していただきましたし……。


 こ、これって関わりをもって二日目にするような行為なのでしょうか!?

 夢中になってしまって考えていませんでしたが、私ってかなり積極的な行動していませんか!?


 そのことを思い、私は恥ずかしくなって足をバタつかせる。

 埃が舞ってしまうので、本来はしてはいけないのだが、それ以上に恥ずかしさが上回ってしまった。


 で、でも!これは如月さんも悪いと思うのですよ!


 あんなに優しいですし、一緒にいて楽しいですし、頼りになりますし!

 だから、私がこんなになるのも仕方ないと思うのです!

 結論、私がはしたないのではなくて、如月さんにも問題があるということなんです!


 私は一人、責任転嫁をして自分の考えをまとめる。


(……しかし、如月さんみたいな人と、出会ったのは初めてですね)


 今まで私が関わってきたのは、親と、いつも私に頭を下げる人、優しくしてくれる同年代の人たちだけでした。


 それは何を思って私に関わってくれたのか?

 顔?家柄?評判?……いえ、全部なのかもしれませんね。


 今まで出会ってきた人は私の中ではなく外を見ている人ばかりでした。


 ————けど、


「如月さんは……違いました」


 私と話すときは目を見てくれるのです。

 私の機嫌や顔ではなく……中身を。


 しっかり、あの鋭い瞳で見てくれました。

 それに、初めて話した時のあの言葉。


『俺は出来るだけお前と関わりたくないんだ。誰にでも張り付いたような表情するお前を見ているとイライラするんだ。———お前は、本当に根っこの部分も優しいのかもしれないが、自分の気持ちを押し殺して誰にでもニコニコしているお前が————気に食わない』


「流石に、あれには驚きましたね……」


 始めは驚くのと同時に、苛立ちが込み上げてきました。


 仕方ないと思うのです。

 多分、誰だってそう思うに違いありません。


 けど……そんなことを言ってくれたのは如月さんだけでした。

 だからこそ、私は彼が気になり始めました。


 そして、彼と関わっていくうちに————


「……この気持ちは、何なのでしょうか?」


 私は胸に手を当てる。


 彼と一緒にいる度に、彼のことを思い出す度に————胸が高鳴ってしまう。

 この気持ちの正体は私には分からない。

 病気なのか?とも思ったのですが、身体に異常は感じない。


(今度、深雪さんに相談してみましょう……)


 私は考えることを後回しにして、枕を下にして目を瞑る。

 ……今日は、もう寝ることにしましょう。


 明日も朝早くから如月さんのお部屋に行かなくてはいけないのですから、寝坊してしまってはいけません。


(……けど、明日も如月さんに会えるのですね)


 そう思うと、私は嬉しい気分になってしまい、気分が高まってしまう。

 折角の睡魔も、彼方へ消えてしまったようだ。


(うぅ…っ!眠れませんっ!)



 結局、私が眠りについたのは、それから1時間後の事だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る