颯太からのお誘い

 書籍の関係上、少しだけ設定と名前を変更しました!


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 柊が自分の部屋に戻ったあと。

 俺は一人、ベッドに寝転がっていた。


 寝るわけでもなく、ただ単に目を開けてボーッとするだけ。

 天井のシミがないのが、どこか寂しく思えてしまう。

 だけど、考え事をするにはちょうどいいのかもしれないと、ふと思ってしまった。


「……ふぅ」


 考えることは、いつもと同じようなことだ。

 誰が好きで、誰を選んで、自分はどの先を掴みたいのか。

 そういう話。ここ最近、このことばかり考えてしまう。


「…………」


 俺は柊が好きだ。

 俺は神無月が好きだ。


 だが、二人を選ぶなんてことはできなくて、誰か選ばないといけない。

 それが、想いを告げてくれた二人に対する誠意だ。

 これ以上、逃げるような真似だけはしたくない。


 だからこそ、先輩の後押しを受けて体育祭までには選ぶと決めた。

 そうしないと、いつまで経っても踏み出せないから。


 俺も、柊も、神無月も。

 だけど────


「情けねぇよなぁ……ほんと」


 うじうじ悩む必要もない。

 自分が望む結果が、自分の本心だということは理解している。

 だけど、望む先がどちらを向いているのかは……決めかねている。


 望む未来には、二人が隣に立っているんだ。

 柊一緒にいれば安心するし、俺も落ち着く。たまに見せるおっちょこちょいで、ぽんこつな姿は可愛らしく見えてくる。


 容姿……で、判断することはない。

 彼女がイギリス人とのハーフなんて関係ない。


 神無月は一緒にいると楽しいし、元気を与えてくれる。

 初恋がどうかなんて、正直関係あるかは分からない。

 どの過程でどんな変化があって……色々な出来事を経て、今の気持ちに落ち着いたか、具体的な分岐点など思い出せない。


 だからこそ、答えの出し方が分からない。

 どっちを選んでも喜んで、幸せに感じられて────後悔をしてしまいそうだ。


「はぁ……」


 ままならなさすぎる。

 いつの間に俺はこんなにも情けない男になったのだろうか。


「そりゃ、いつまで経っても答えが出ねぇわけだ」


 俺は起き上がると、そのままキッチンへと向かい、コップに水を注いで口に入れる。

 ひんやりと冷たい……だけど、頭はクリアになんかならずこんがらがったままだ。


と話してぇな……」


 不意に、そんな言葉が口から出てしまった。

 そのことに、疑問が浮かび上がった。

 だが、その時にベッド脇に置いてあったスマホが震える。


(こんな時間に誰かね?)


 といっても、八時過ぎなので遅いというわけでもないのだが。

 とりあえず、待たせるのもなんだしスマホの画面を開いて電話に出た。


『もしもし、真中?』


「チェンジで」


『開口一番に酷いね……』


 誰が悲しくて野郎の電話に出なきゃいけねぇんだ。

 柊と話したいって言ってしまった矢先だぞ?  もう少し展開というかお決まりのお約束事を守ってほしいものである。


「お前からかけてくるなんて珍しいな」


『んー……ま、たまにはそういうのもいいんじゃない?』


「男のそういう発言には興味はないんだが……」


 柊とか神無月とかに言われたら嬉しいセリフだろうなぁ。


「んで、結局何の用だよ? 俺はいつだって暇人なわけじゃないんだが?」


『僕の予想じゃ、真中って一人でボーッと考え事をしてただけだと思うんだけど?』


「エスパーか」


 予想って範疇を超えている気がせんこともないわ。

 すげぇよ、お前の予想。天気予報もびっくりだ。


『ま、それはいいとして────これからちょっとだけ遊ばない?』


「お前から夜のお誘いとは、本当に珍しいな」


『といっても、補導時間までには帰るけどね』


 本当に珍しいこともあるものだ。

 颯太って基本的に真面目というか、夜は他人の迷惑を考えて自分から誘うことはほとんどしない。


 だからというわけじゃないが、どこか興味が湧いてしまった。

 普段だったら「めんどくさい」の一言で一蹴するのだが────


「しゃーない、久しぶりに夜遊びでもするか」


『それでこそ真中だよ。そう言ってくれると思った』


「たまたまだっちゅーに」


 男に褒められても全然嬉しくない。

 女に生まれ変わって出直してこい。いや、いっそのこと柊か神無月とチェンジして死んでこい。


「んで、面子は? 藤堂も来るのか?」


『いや、今日は僕と真中だけ。深雪なら別に夜でも大丈夫だと思うけど、たまには男同士でもいいでしょ?』


「まぁ、俺は別に構わんが……」


 柊は暗い時間は怖がるからNGだし、神無月を誘うにしても、いい時間だから迷惑がられるだろう。

 藤堂が来ないのは少し意外だった。あいつ、颯太がいればどこにでも駆けつける女だと思っていたし……恐らく、颯太は誘っていなかったのだろう。


 それに、たまには男同士というのも悪くない。


「んで、どこに行けばいい?」


『駅前に集合にしようよ。これからすぐに』


「了解。今から出るわ」


『うん』


 そう言って、俺は電話を切る。

 急なお誘いでも断らない俺のフットワークの軽さ……フッ、誰か褒めてくれてもいいんだぜ?


「ま、そんなことは置いておいて早く着替えるか」


 これからすぐに出るなら、早く着替えておこう。

 流石に部屋着のまま遊ぶのには抵抗があるからな。


 それにしても────


(どうして颯太は急に誘ってきたりしたんだろうな……?)


 そんなことを思いながら、俺はクローゼットを開けた。


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