番外編〜逃亡という名の案内〜

 自己紹介も終わり、俺達は学校を案内することになった。

 各種設備や校内風景、自慢の絶景スポットなどなど、緊張もほぐれた颯太達がたわいのない雑談を交えながら案内していく。

 案内を始めて少し時間は経ってしまったが、俺もしっかりと案内をこなしている。


 外面の綺麗さとは裏腹に、皆気さくな人ばかりで、俺もいつしか普通の先輩達として接するようになってきた。

 さて、少しはやる気が出てきたな。

 引き続き、先輩に校内を案内しようじゃないか!


「先輩!こっちが図書室です!普段はあまり人は来ませんが、騒がしくすると館長がやって来るので、今の俺達には不利です!」


「OKだ後輩!では次の場所も案内してもらおうじゃないか!出来れば逃げやすくて隠れやすい場所で!」


「かしこまりです!」


 というわけで、俺は先輩ーーーー時森さんを現在案内中。

 たわいのない会話を交えながら、息をできるだけ乱さないように、校内の素晴らしさと利便性を伝えながらーーーー走っていた。


「こちらが食堂です!一見、一度入れば逃げ場がないように見えますが、窓から飛び降りれば振り切れますし、俺達に辿り着くまでいくつもの机や椅子があるので、障害物として十分な役割を果たしてくれると思います!」


「流石だ後輩!逃げに慣れてやがるな!ーーーーよっし、食堂に向かうぞ!」


 ……校内の説明としては、些か内容がおかしいと思うかもしれないが、こればかりは仕方ない。

 だってーーーー


『『『お前ら待てやゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』』』


 ーーーー案内の付き添いで、鈍器を持って襲いかかってくる珍妙な人がいるのだから。


「後輩!お前の学校も大概頭がおかしい奴ばっかだな!?」


「『も』ってなんですか『も』って!?この光景って俺らの学校が特殊なだけじゃないの!?」


 必死に走りながら、俺は先輩の発言に目を疑った。


 こんな嫉妬に狂った男子がこの学校以外にもいただなんて……!?

 正直、現代社会の教育に疑問を感じられずにはいられない!


「先輩、ここが食堂です!」


「了解だ!」


『殺っちゃうよ〜!骨も残らず殺っちゃうよ〜!』


『他校の奴だか知らんが、あんな美少女達に囲まれている男は殺す!』


『聖女様と……あ、あんなにイチャイチャしやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』


「くそっ!この学校にも山田がいたとは!?」


「山田って誰です!?」


 後ろから追従してくる驚異から必死に逃げ、俺達は食堂へと駆け込む。

 こ、ここさえ入っていれば、いくらでも逃げようがある!


 ーーーーっていうか、なんで俺がこんな連中から逃げなきゃならんのだ!?


 全部……全部この時森先輩が悪いんだ!


 俺は数十分前の事を思い出しながら、先輩に恨めしい視線を送った。



 ♦♦♦



「ふふっ、これは所謂『校内デート』と言うやつですかね?」


「ずるいひぃちゃん!私も校内デートしたいの!」


「これはおねぇちゃんも混ざらないといけないかな〜?」


「やめろ三人共!?今は流石に不味いだろうが!?」


 目の前で、そんな光景を見さされている俺はどういう反応をすればいいのか?


 案内もつつがなく進み、みんなのコミュニケーションも十分にとれ、仲良くなり気が緩んだのか、俺の前を歩く生徒会メンバー達はそれぞれ好きなようにやっていた。


 生徒会長の西条院さんが時森先輩の腕に抱きつき、反対側では少しばかり嬉しそうにして混ざろうとする神楽坂さん、そして羨ましそうに見つめ、ついには後ろから抱きついた鷺森先輩。

 ……ぶっちゃけ、このイケメン先輩ではなく、何故顔面偏差値平均の男がこれ以上までにモテているのだろうか?

 全くをもって理解出来ん。それにーーーー


「柊、塩をくれ塩を」


「ダメですよ如月さん。撒いてはいけません」


 でもさ……この光景は流石に看過できないよ?

 案内しているはずなのに、どうして俺は人様のハーレムっぷりを見なくてはいけないんだ?

 塩をくれないなら鈍器をくれ。


 ……まぁ、別に俺が鈍器を使わなくてもいいかもしれない。


『あいつ、見慣れない顔だな……殺すか』


『確か、今日は他校の連中が来るんじゃなかったか?……殺すか』


『まぁ、何はともあれ……殺すか』


 この後誰かが始末してくれそうだから。

 タイミングが悪かったのか、丁度皆の授業も終わり、現在小休憩中。

 物珍しそうに俺達を見ようと思ったのか、生徒の注目は廊下を歩く俺達に向いていた。


 そのおかげで、男子達の嫉妬はキャパオーバー。

 いつ襲いかかってもおかしくないほど、殺気に満ち溢れていた。


「へぇー、ここは設備が充実してるんだね」


「えぇ……といっても、この設備を使うのはごく少数なんですけどね」


「でも、深雪は結構使ってるよね?」


 そして、俺達の後方ではイケメン先輩に、颯太と藤堂が真面目に案内していた。

 ……いかん、こっちは顔面指数が高すぎて近寄れん。


「仕方ない、短い付き合いだったけど、時森先輩には冥福を祈っておこう」


 そして、俺は目の前のハーレムの主たる先輩に手を合わせようとーーーー


「……柊さん?」


 ーーーーしたのだが、腕が持ち上がらなかった。

 柔らかい感触が腕に伝わってきて、体重をかけられているのか、肩が左に下がる。


「……目の前にいる皆さんが羨ましくなって……つい」


 気になって横を見てみれば、少しだけ顔を赤くして、顔を逸らしながら俺の腕に抱きついている柊の姿。


 ついじゃねぇよ馬鹿野郎。

 そりゃ、確かに嬉しいよ?柊、可愛いもん。抱きつかれたら嬉しいけどさ。

 でもーーーー


『一名追加ぁぁぁぁぁぁぁっ!』


『あらほらさっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


『釘バット2ダース持ってきやした!』


 ……もぅ、俺までリストに載っちゃったじゃん。

 どうしてくれるのよ?本当に、俺の命が危なくなっちゃったじゃん。


 しかも、柊さん。そんな嬉しそうな顔をしないでくれる?

 なんで俺の腕に抱きついたら、そんなに幸せそうな顔ができるのですか?


 俺は柊の顔を見てそんな事を疑問に思ったが、とりあえずーーーー


「時森先輩、いい逃げ場所があるので、案内しましょうか?」


「是非頼むわ」


 一緒に逃げることを選んだ。



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