私は、映画の主人公じゃない

 颯太達も帰り、時刻は夕方。

 夏だからか、日が沈むには早く、その明るさは薄いだけになっている。


 そんな中、一人になった自室で俺は一人物思いに耽っていた。


『だったら何が『好き』なのかしら?そう考えた時、私はこう思うのーーーー『会いたいな』って』


(会いたい……かぁ……)


 藤堂に言われた一言。

 彼女の持論が、未だ俺の心に深く残ってしまっている。


『会いたい』と思う人こそ、自分の好きな人。

 もちろん、彼女の言った通り、これは考え方の一つ。正解ではない。


 しかし、選択肢の参考としては十分過ぎる。

 それに、俺もこの発言には納得するところがあった。


 神無月に恋をしていた時ーーーー初恋時、俺は神無月に会いたいと思っていた。


 どうにかして会えないものかと、色んな理由をつけては彼女に会いに行った。

 ノートを忘れたから借りに行ったり、友達と話に行ったり、先生の手伝いと見せかけてクラスに赴いたりした。


 その感情は、正しく恋だと断言できて、会いたいと思っていたのは確かだ。


(だからって、決めつけるのはよくねぇな……)


 これはあくまで彼女の持論。

 価値観は彼女にあって、俺にはない。


 これに安直して賛同しても、俺の意思と感情は何処にもない。

 であれば、本当に参考ーーーー己が全てを納得したのであれば、その意見を己の価値観に照らし合わせよう。


「我ながら、難儀な性格だよなぁ……」


 めんどくさい男。優柔不断。意気地無し。

 今の俺にはピッタリだ。


 彼女達の返事を待たせて、己の『好き』が何処にあるのかとウジウジしながら模索する。

 まさに愚行。見ていられない。


 ……それでも、俺は彼女達の答えには感謝を込めて、納得する答えを出したい。


 それが、勇気を出して告げてくれた彼女たちに対する誠意だから。

 ……そう思っているのは、俺だけかもしれねぇが。


「……っと、もうこんな時間か」


 時計を見れば、午後の六時を回ろうとしていた。

 ……考え事してると、時間が経つのが早いよな。


「そろそろ行くか……」


 寝転ぶベットから起き上がり、軽く身支度を済ませる。

 身だしなみはしっかりと整え、髪も寝癖がつかないようにワックスを。


 今からどこに行くのか?

 あぁ……別に買い物をするって訳じゃない。


「あいつの隣に立つには、これぐらいの背伸びはしねぇと、釣り合いが全くとれねぇんだよ……」


 それは誰に零した言葉なのか?


 んなもん、俺にだって分からねぇよ。



 ♦♦♦



(※ステラ視点)



『じゃあね柊さん!また学校で!』


『次はカラオケとか行こうね〜!』


「はい、また遊びましょう」


 小さく手を振り、駅の改札へ向かっていくクラスメイトを見送る。

 午後6時を過ぎ、辺りは夕暮れ一色に変わってしまいました。


 今日は初めてクラスの女の子達に誘われてしまった。

 何でも、映画に行かないか……だそうです。


 ちょ、ちょっと緊張してしまったのは、私に友達経験があまりなかったからでしょうか……?


 前までは断っていたり、如月さん達とずっと一緒にいてましたから、こういった遊びは行ったことは指で数えれる程。

 ……私、普通の学生生活を送れているのでしょうか?


(でも、楽しかったです……)


 そんな僅かな不安とは別に、楽しかったと言う感情が湧き上がってくる。


 女子高生を主役とした青春映画。

 その映画は、どこか私の心に残ってしまいました。


 でも、何故でしょう?

 こんなにも見た事があるような気がしたのは……。


 多くの人に支えられ、助けられ、前を向いて、支えてくれた人を好きになり、そしてーーーー


「……ふふっ」


 なんだ。

 私の事ではないですか。


 どうりで私の心に残ったわけです。


 深雪さん達に支えられ、如月さんに助けられ、忘れ去りたい現実から前を向き、如月さんを好きになった。


 重なるのだ。

 あの映画に出ていた主役の女の子と……自分が。


 駅の広場の噴水で、私は少し物思いに耽る。

 駅に集まる人は徐々に減り、前を向いただけで駅から続く商店街が一望できた。


 ……私が、映画みたいな大層な主人公ではないのは分かっている。

 劇的な出会いもなければ、恵まれた環境ではない、自分が好かれるほどのスペックを持っているとも思わない。


 それでも、結末へと続く道のりは同じで、スクリーンに流れる光景は、私の道を遡っているようだった。


 唯一、決定的に違うのは、映画みたいに結末が決まっていないこと。

 著名な脚本家がシナリオ書いたわけでもなく、拙い素人の私が結末を記していく。

 だけど、結末だけはどうしても書けない。


 あの映画の主人公のようにハッピーエンドを迎えるのか、はたまた敗者として幸せな光景を横目で見るのか。


(……いえ、結局はどちらでもいいのです)


 望まぬ結末を迎えようが、私の人生です。

 後悔はありません。

 決められたシナリオなど、求めてはいないのですから、どんな結末でも「よかった」と思えるのでしょう。


 だが、しかし、けれども、それでもーーーー


「よう、待たせたか?」


「いいえ……待っていませんよーーーー如月さん」


「んじゃ、帰るか」


「……はい」



 私は、彼に選んでもらいたい。

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