ボーリング

ファンタジア文庫様より、書籍8/20発売予定です!!!

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「別に、そんな深い話じゃないんだ」


 レーンの先にあるピンに向かって玉を放つ。

 久しぶりにやるからか、玉は狙った場所よりも少し右に寄れて思った場所には当てられなかった。


 そして、パッカーンといったかん高い音が響き、ピンが八本ほど倒れた。


「だけどまぁ、そうやって勝負を持ちかけられたら俺だって少しはムキになるもんだ」


「うんうん、それでこそ真中だよ」


 ニヤニヤとした顔を向けてくるイケメン。

 そこはかとなく腹が立ってくる。

 なんというか……いいように挑発に乗せられた感がしてくるから。あとはイケメンだから。


「っていうより、本当に颯太と二人きりで遊ぶのっていつぶりだ? 結構久しぶりな気がする」


 話しながら、戻ってきた玉を持って二投目を投げる。


「んー……どうだろう? それこそ、僕達が知り合ってからじゃないかな? ほら、それからはずっと深雪も一緒だったわけだし」


 知り合ってから……となれば、中学一年の時以来か。

 そんなに久しぶりだったとは……確かに、藤堂がどこ行くにしても一緒にいたからな。

 早いうちから颯太のこと好きだったみたいだし。


 そんなことを思っていると、投げた玉は残りの二ピンが倒れた。


「うっし、スペア!」


「……久しぶりだっていうのに、普通にスペアを取るなんて心折れそうだよ。やっぱり、真中はハイスペックだね」


「まぁ、ボーリングって遊ぶ時にいいところを見せやすいしな。昔、一人でめちゃくちゃやり込んだ記憶があるわ……そのおかげっていうのもあるかもしれんが」


 久しぶりの初手としては悪くないだろう。

 俺はそのまま颯太と入れ替わるように椅子のところに向かった。


 颯太は俺よりポンドの低い玉を持ってレーンに立つ。


「そう考えると、真中は一直線に進むタイプに聞こえるんだけどね」


「昔から一直線な気がするが? 自分で言うのもなんだけどさ」


「そうとも限らないよ? だって、


 そう言って、颯太はボーリングの玉を投擲する。


 分かったような口を叩く……本当に。

 はぁ、っと。思わずため息が出てしまった。


 そして、ピンが倒れるかん高い音と───


『ストライーク!』


 というアナウンスと画面に派手な絵が浮かび上がった。


「ちなみに、今日のために練習してきたんだよね」


 ストライクを決めた颯太が、微笑を浮かべてやってくる。


「いけすかねぇわ、お前」


 顔の偏差値もそうだが……こうして、誰かのためのことを考える性格が。

 それが俺に向けられたものであれば、なおさらにいけすかない。


 イケメンは立っているだけで有罪なんだから、いいところを見せるんじゃないよまったく……。


 ♦️♦️♦️


 結局、それから一ゲームが終わった。

 時間も時間なので、まだするにしてもあと一ゲームか二ゲームぐらいだろう。

 個人的には補導がなんぼのもんじゃい! って感じではあるのだが、そんなことしたら「補導なんて、ダメに決まってるじゃないですか! 次は絶対にしちゃいけませんからね!」ってに怒られそうだから大人しく終わっておくのが吉。


 とりあえず────


 ソウタ『213』

 マナカ『210』


「僕の勝ちだね」


「ぐっ……!」


 普段はまったく驕ることのない颯太が勝ち誇ったような笑みを浮かべて胸を張る。

 腹立たしいと同時に、めちゃんこ悔しい。久しぶりに負けた気がする。


 地味にハイスペック真中ちゃんが売り文句だったのに……!


「じゃあ、約束通り話してもらおうかな」


「……別に構わないが」


 始めに買っておいたジュースを持った颯太が少しだけ真面目な顔で俺を見る。

 ……まぁ、負けは負けだ。別に、どうしても言えないというわけでもない話だ。


 俺は嘆息つくと、そのまま颯太の正面に腰を下ろした。


「さっきも言ったが、そんな深い話じゃないし、何だったら結構前に相談したことだぞ?」


「なるほど……っていうことは、柊さんと神無月さんの話だね」


「そうそう」


 これは颯太達にはすでに話したものだ。

 誰が好きで……という話はすでに解決した話ではあるが、肝心の『誰の手を取るか』という部分。

 そこにもう一度触れたからって、颯太が何かできるとは思えない。


 悪口を言ってるわけでも、役に立たないと言っているわけでもない。

 単純に……相談しても、結局は俺の気持ちで話がついてしまう話だから。


「柊も神無月も、俺はちゃんと好き。それは変わらねぇ……けど、そっからが選べないんだよ、情けない話だけどな」


「別に情けなくはないと思うよ? それほどまでに真剣ってことでしょ?」


「だからといって、自分で言うのもなんだがうじうじしすぎだと思うんだよ。早く決めなきゃ……っていう気持ちはある。これは焦りじゃなくてケジメみたいなものだ」


 先輩から教わったことだ。

 このままいけば、もしかしなくてもズルズル引っ張ってしまうことになるかもしれない。

 だったら期日を決めて……そう思ったからこそ、俺はこっちの道を選んだ。


「だから、悩んでるんだ?」


「あぁ……どの道がいいか、自分はどうありたいか、どの道に誰が隣にいてほしいか。そればっかり考えてる」


 最善と後悔がない選択をしようとしてこんがらがる。

 少し皮肉だなと感じてしまうのは、真剣に考えていることの裏返しなのだろうか? そんなことを思ってしまう。


 その話を聞いて、颯太は腕を組んで「うーん……」と唸ると、ゆっくりと口を開いた。

 すると───


「難しく考えすぎだと思うけどね。僕はシンプルにっていう選び方でもいいと思うんだよ」


「…………」


 ふと、その言葉が……耳に残った。

 こんがらがった糸がのほつれ目が見つかったかのように、違和感ではなくヒントのように。


 少しの間、考えが巡ってくる。

 そして────


(そっか……)


 自分の中で、何かが見つかったような気がした。

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