テストも終わり

「いいか、せーので開くぞ?」


「えぇ」


「分かったよ」


 柊が我が家で寝てから数日後。

 テストも終わり、その日のホームルームで結果がそれぞれ紙切れで渡された。


 あの後、柊は途中で目が覚めたみたいで「わ、私今日は帰りましゅっ!」と言って帰っていった。

 何やら顔がものすごく赤くて、すっごい慌ててたけど……なんだったのだろうか?



 それからも俺達の勉強会は続き、いよいよ今日という日を迎えた。


 柊はテストが終わるたびに「き、如月さぁん……」と涙目でやって来るし、神無月も「ど、どうしよ如月くんっ!?」と慌てた様子で俺達のクラスに何度も現れるし————正直、あいつらに関しては不安しかない。


 しかし、今は柊達の結果よりも、これが最優先。

 俺と颯太、藤堂は先生から渡された紙切れを片手に、緊張した顔つきで見つめ合っていた。


「いくぞぉ!」


「「「せーのっ!!!」」」


 そして一斉に紙を広げる。


 ~如月 真中~

 1/200位 698/700点


 ~藤堂 深雪~

 2/200位 697/700点


 ~桜木 颯太~

 3/200位 694/700点


「ガッテム!」


「また……また如月に……っ!」


「今回は自信あったんだけどなぁ……」


 それぞれの結果を見て、俺達は一喜一憂する。

 藤堂と颯太は悔しがり、俺は拳を突き上げて喜ぶ。


「はぁぁぁぁっはっはぁぁぁぁっ!これが実力と言うものだよお二人さんや!」


「たかが一点差なのに喜びやがって……っ!」


「はっはっはー!負け犬の遠吠えが心地よいわ!」


 俺は椅子の上に立ち、藤堂を見下ろしながら高らかに笑う。

 負け犬の遠吠え!例え一点差だろうと、貴様は俺より下の存在なのだよ!もっと精進したまえ!


「くっ……あの顔が腹立つ…!」


 唇を噛みしめてどうしたのかね藤堂さんや?仕方ないじゃないか、君の方が僕より下だったんだからさー!諦めて帰って勉強するんだな!

 ……だから、その握りしめているスタンガンをしまいなさい。怖いでしょ。


「これで3連続僕の負けか……」


 颯太も、結果が書かれてある用紙を見ながら悔しそうに呟いた。


「……さて、今回もよろしいかね二人とも?」


 俺は少しボリュームを下げ、いよいよ本題に入る。

 正直、順位なんて然程興味はないが、これがあるからめちゃくちゃ順位を気にしてしまう。


「負けは負けよ……さっさと言いなさい」


「できれば優しいので頼むよ……」


「どうしよっかなー?」


 本当に迷っちゃう~!

 何にしようかな~!ずっと前から考えていたことにしようかな~?


 俺はこれからの事を考え、少し浮かれ気味に頭を悩ます。


「どうしたの如月くん?」


「すごい雄叫びが聞こえたのですが……」


 すると、俺達のことが気になったのか、神無月と柊が不思議そうに俺達の元までやって来た。


「あぁ……俺は今、王様になったんだ」


「王様?」


「頭おかしくなっちゃったの?」


 意外と辛辣だな神無月さんや。ちょいとしたお茶目セリフじゃないか。


「如月の頭がおかしいのは今更だけど、こいつの言っていることは間違いじゃないわよ」


「そうなの?」


「違います。後半しか合ってません」


 藤堂も大概失礼だなおい?負けた腹いせなのか?

 だったら尚更醜いぞお嬢さんよ!


「僕達は毎回テストの順位で賭け事をしてるんだよ。『一番順位が上だった人が下位二人に命令ができる』ってね」


「ほえー」


 そう、俺達は中学時代からずっと、テストがあるたびにずっと勝負をしてきた。

『一番順位が上だった人が下位二人に命令ができる』という名目の元に、互いの順位を公開して賭けてきた。


 それに、意外にもこの三人には学力の差がほとんどない。

 だから、こうして賭けを設定することによって勉強する気も上がるし、ちょっとした緊張感が楽しめる。

 まぁ、俺に関してはこれで二連勝なのだが。


「俺は……あの時の恨みを忘れていないぞ藤堂……っ!」


「……あんた、まだ忘れてなかったの?」


「あったりまえだろこんちくしょう!?」


 こいつ、あの事件を引き起こしたのにもかかわらず白々しくしやがって……!


「恨みってなんですか……?」


「あぁ、一度深雪が一位を取った時に「あんた、今から先生に告白してきなさい」って真中に命令したんだよ」


「そ、そうなんですか……」


 忘れもしない、中学の期末試験。

 悔しい事に藤堂に負け、罰ゲームで先生に告白をさせられた俺は、帰って家で大泣きしたものだ。

 普通、生徒から告白されたら怒るよね?俺も「怒られるなー」っていうくらいにしか思ってなかったんだよ!

 な、なのに……っ!


「あ、あの時は本当に面白かったわ……っ!」


「こちとら全然面白くなかったわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 その時を思い出したのか、藤堂は腹を抱えて笑う。


 ふざけんなよ!

 お前は面白かったかもしれんが、俺は「先生、嬉しいわ……こんなおばさんでも好きになってくれるだなんて…」って言われて意識飛びそうになったんだぞ!?

 美人な先生ならまだしも、婚期逃した50代のババア相手にOKもらった俺の気持ちを考えてみろよ!?吐き気がしたわ!?


「あの時の真中は誤解を解くのにかなり必死だったよね」


「必死にもなるわ!誰が好き好んで婚期逃したババアと付き合わなきゃならん!?」


「勿体なかったわよねー、折角初めての彼女ができるチャンスだったのに」


「あんな彼女いらんわ!それに、あの時は神無月一筋だったし!」


「ひ、一筋っ!?」


「そうだよ!一筋だった————おい、どうしてそんなに顔が赤いんだ神無月?」


 藤堂のセリフに激高していると、俺は何故か神無月の顔が赤いのに気づいた。


「べ、別にっ!にゃんでもないよ!?」


 神無月は赤くなった顔を必死に逸らし、手を振って否定する。

 うぅむ……熱でもあるのだろうか?言葉がすごい噛み噛みだし……。


「深雪さん、スタンガンを貸してください」


「ステラ……流石に、あなたにこれを渡すのは憚れるわ」


 柊が何やらハイライトの消えた目で藤堂にお願いしていたが、どうしたのだろうか?


 それより、熱があるなら保健室に連れて行かないと。

 何かあったら大変だもんな。

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