柊ステラと如月真中
「お茶でも入れましょうか? それともコーヒーですか?」
「俺は別に……いや、ちょっとコーヒー貰おうかな」
「ふふっ、分かりました」
神無月と別れた俺は、すぐさま自宅に戻ってきた。
先に帰ってしまったかな? と不安になってしまったが、まだ俺の家にいてくれてよかった。
時刻は20時過ぎ。
神無月が帰ってから数十分の時間が経った。
「コーヒーどうぞ」
「ありがとうな、柊」
「いいえ、お疲れ様でした」
何に対してのお疲れ様なのか。
柊は言葉を伏せながら、インスタントのコーヒーを入れてくれた。
そして、俺とは反対側ーーーーテーブルを挟んだ向かい側へと腰を下ろす。
「答え……出たのですね」
「あぁ……」
針が刻む音が室内に響く。
騒いでいる様子も、俺の心臓が激しくなっている訳では無い。
心が……落ち着いている。
決心はした。
だからーーーー
「ちょっとだけ、昔話をしよう」
「……」
柊からの解答はない。
それでも、少しだけ話がしたかったんだ。
「俺はさ、始めの柊は嫌いだったんだ。周りに合わせて、乾いた笑みを浮かべ、何処か本質が見えなかった柊の事がさ」
神無月とは違って、周囲の顔色を伺う。
愛想を振りまくのではなくて、自分の殻に籠って己を見せない。
それが不気味で仕方がなかった。イラついてたんだ。
「だから関わろうともしなかった。柊は柊、俺は俺……そんな別世界の住人だと、興味も関心も抱かなかった」
これは前座ではない。
答えを出す為の前振りじゃなくて、己の気持ちを確かめるようなーーーーそんな話。
「あの時ーーーー柊と校舎裏で出会った時、俺は柊と関わり始めた。関わりたくないと思ったのに、きっかけは俺から作ったんだ」
「いえ……あの時の如月さんは私を助けようとーーーー」
「まぁ、助けようとしたのはあったけどさ……今思えば、俺はお前を放って置けなかったんだと思う」
殻に籠り、己を見せない。
それは何処か寂しそうで、悲しいものだから、どうにかしてやりたい、と……そう思ったんだ。
「それでさ、実際に関わり始めてーーーー俺はお前の印象が変わったよ。喜怒哀楽が激しくて、ちょっとおっちょこちょいで、あの時とは別の意味で放って置けなくて……外面の『柊 ステラ』ではなくて内面の『柊 ステラ』はこんなに可愛い子なんだって、そう思った」
料理が出来なくて、勉強が出来なくて、少しの事で怒って、喜んで、笑ってーーーー学校で見てきた彼女ではない彼女を見てきた。
そんな彼女はいつの間にか俺の生活の一部になっていて、楽しくて、当たり前になっていた。
「柊の泣いた時なんかさ……守ってやらなきゃって思ったんだ。誰でもない、可愛くて、誰よりも優しい柊に、悲しい思いなんかさせちゃダメなんだって」
初めて一緒に出かけた日。
彼女はおかれている境遇に涙した。
今まで溜め込んできたものを吐き出した。
その時に見せた涙はか細くて、切なくて、怯えきっていた。
自分から言い出すのを待つのではなく、俺自身が歩み寄って守り抜いてやろう……そう思った。
「そしたら今度は俺が慰められちゃったよな……初恋に打ちひしがれて、ドン底に沈み、落ち込んでいた時にーーーー柊に寄り添ってもらった」
この恋は幻想ではないと、俺は間違っていないのだと、前に進むなら支えるとーーーーそう言ってくれた。
「その時の俺は救われた……すっげぇ嬉しかった。支えられた。前に進めた。こうして笑っていられたーーーーそれは全部柊のおかげだ」
「……私がそうしたかったからしただけです」
「それでもーーーーありがとう、こんな俺を助けてくれて」
柊にも感謝している。
彼女がいなかったら、今の俺は前に進めていない。
ドン底から這い上がってこれていなかっただろう。
だからこそ感謝している。
今の俺があるのはーーーー柊のおかげだ。
「優しくて、頼りになって、おっちょこちょいだけど守ってやりたくなる。その笑顔を見ていたい、一緒にいると落ち着く、会いたいって思ったし、こうしてこれからも一緒にご飯を食べていたい……」
嘘偽りのない俺の本心。
取り繕ったり、隠していたりしていない。
言葉を纏めていない、俺の柊に対する想い。
「柊……俺はーーーー」
だからこそ、
この答えを、
伝えないといけない
「お前が好きだ」
だけど
「お前とは付き合えない」
それは
「ごめん……俺は神無月も好きなんだ」
最低で
「こんな気持ちじゃ、お前達とは付き合えない」
最悪で
「最低でどちらかを選べない俺はクズだ」
どうしようもなく
「罵ってくれても、嫌ってくれても構わない」
哀れで
「だけどーーーー」
報われない
「俺は柊が好きなんだ」
俺の答えだ。
♦♦♦
再びの静寂が訪れる。
飾らない俺の答えは、雑音によって消えることなく室内に響いた。
その答えは彼女を傷つけたのだろう。
罪悪感でいっぱいになる。
だけど、後悔はない。
柊に好きだと言われた時は嬉しかった。
誇らしかった。あの花火見上げる高台の地での言葉に偽りはない。
だから、これからの彼女の言葉は全て受け止める。
逃げも隠れもせず、真正面から。
そして、柊が紡ぐ言葉はーーーー
「そう……ですか」
「何となくは予想していましたけど……」
「実際に言われると、少しキツいものがありますね……」
「やはり、映画の主人公のようにはなりませんでした……」
「私を選んで頂きたかった……」
「ですが、それ以上に今は嬉しく思ってます……」
「如月さんに好かれてもらって……」
「大好きだと言って貰えて……」
「私は涙が出てしまいそうです……」
「どう……しようもなく……嬉し…いです……!」
「私は今、幸せです……」
「選ばれなくても……こんなに幸せな気分になるとは思いませんでした……」
「大好きです……如月さんーーーー」
「ありがとう……ございました……っ」
どうしようもなく、俺の心に深く突き刺さった。
※大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
こちら本文ですm(__)m
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