柊と練習
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颯太とのボーリングはそれから一ゲームをしてから終了を迎えた。
物足りないと感じてしまうのは、元気ある若者なのに二ゲームしかしなかったからだろう。
無論、二回目は俺が勝った。
は、初めは久しぶりやるから感覚が掴めなかっただけなんだからねっ!
というより……なんか調子がよかった。
そんな感じで勝ったのはよかったが……颯太が終始ニヤニヤしていたから腹が立った。
悔しそうにしてないんだもん! ずっと嬉しそうにニヤニヤしやがって……あぁ、分かってるよ。感謝はしている。
ということもあり、それから一週間の月日が過ぎ去った。
実行委員の面倒臭さは拍車がかかり、クラス内では体育祭に向けての練習も始まっていた。
「ステラー、辛くても最後まで走り切らなきゃダメよー?」
「わ、分かりました……!」
藤堂がメガホンを持ち、体操服で走る柊に喝を入れる。
────ある日の放課後、俺達はグラウンドの空いたスペースで集まることになった。
というのも、柊が「あまり皆さんにはご迷惑をおかけしたくないので!」と言い出したのがきっかけ。
前に俺も手伝うと言った手前、断るわけにもいかず、こうしてグラウンドで柊の努力を見守っていた。
それにしても───
「……遅いわね」
「……遅いな」
はぁ、はぁ、と。100mを走り終わった柊を見ながら、隣にいる藤堂と一緒に呟く。
藤堂に至っては、ストップウオッチを見ての発言である。
「ちなみに何秒だった?」
「19秒ね」
何とも言えない、悲しいことに。
だが、女の子であればこれが平均なのかもしれないし、別に遅いと言うのも────
「私はちなみに10秒で走るわ」
「柊にマウントを取らないでやってくれ」
聞かれてたら悲しむでしょ! 何て惨たらしい自慢をしようとしているんだ!
大丈夫だよ柊! これは無駄に藤堂が運動神経いいだけだから!
「お疲れさん、柊」
とりあえず、走り終えて息を荒らしながらへたりこんでいる柊の傍に寄って麦茶を差し出す。
「あ、ありがとうございます……如月さん」
柊はペットボトルに入った麦茶を受け取ると、勢いよく飲み干す。
そして、可愛らしく「ぷはぁ!」と満足そうな声を上げた。
よっぽどバテているのだろう。
口の中が水を欲していたようだ。
「しかし、自分の運動神経のなさには涙が出てきそうです……」
「……そうだな」
まだ、走り始めて一本目だからな。
「ですが、成長もしていると思うんです!」
まだ、一本目ぼはずなんだけどな。
「頑張れ……」
「はいっ!」
疲れているはずなのに、柊は満面の笑みで頷いた。
そんな柊の姿を見ていると、どこか微笑ましく思えてしまう。
「どうかしましたか、如月さん?」
「ん?」
「いえ、なんだかとっても、優しそうな顔をされたので……」
そんな顔をしていただろうか……?
もし、していたのであれば……微笑ましい柊を見てしまったから?
それとも────
(心境の変化、かなぁ……?)
まぁ、どちらにせよ今は関係のない話だ。
柊の練習に付き合うことに集中しよう。
「なんでもねぇよ」
「そう、ですか?」
「そうそう、だから柊は練習に集中しときゃいいんだよ」
そう言って、サラりとした金髪を乱雑に撫で回す。
柊は「き、如月さん!?」と、驚いてしまった。
「な、撫でられるのは嬉しいですけど……」
「すまん、嫌だったか?」
「嫌です!」
かなりショックだ。
……ま、まぁ、不用意に撫でられるのは普通嫌だもんな。
いつもそこまで嫌がらなかったからついって感じでやってしまった……これは反省事項だ。
「私……今、汗かいてますもん」
これはどちらかというとタイミングが悪かっただけ、か……やばい、結構安心してしまった。
「はぁ……イチャイチャしてないで、さっさとやるわよ」
すると、傍で見守っていた藤堂が間に入ってくる。
「イチャイチャ……ッ!?」
「その単語だけでいちいち驚かないの。あんた達って、いつもイチャついてるんだから」
「してませんよ!?」
「してないが?」
「嘘……今更無自覚?」
何か馬鹿にされているような瞳だ。
胸も理解する左脳も小さい野郎だ───
「私、すっごく砲丸投げがしたくなったわ」
「そうか……とりあえず、すまなかった」
俺は大人しく頭を下げる。
こちらに向かって放たれようとしている砲丸がどこから来たものなのかが気になるところだ。
「まぁ、いいわ……それよりもう一本いくわよステラ」
「は、はいっ!」
藤堂にそう言われると、柊は立ち上がってスタート地点へと向かっていく。
足が遅いというか、運動神経がよくないのによくもまぁ100m走に志願したものだ。
っと、そんなことより────
「すまんな、藤堂。練習に付き合わせちゃってさ」
「ステラのためだもの。これぐらいやるわよ」
「あいつ、一応三人四脚も出場するからな。頭数がいなかったら練習できねぇんだわ」
「言っておくけど、私に触ったら気絶させるから」
殴るではなく気絶させると言う発言に悪寒を感じずにはいられない。
「でも……そうね、ちょっと安心したわ」
悪寒を感じていると、急に藤堂がそんなことを言い始めた。
「何が?」
「あんたの話」
そして、滅多に見せない……優しい笑みを向けてきた。
「よかったじゃない……結果が見つかって」
「……」
颯太もそうだが、どうにも俺の友人は心配性のように思える。
それが嬉しいと思ってしまうから……少し困る。
いい友人に恵まれたと、恥ずかしながら実感してしまうのだ。
「……お前の彼氏のおかげでな」
「いい男でしょ? 私の彼氏は」
「……今回だけだ」
少しだけ恥ずかしく思ってしまい、俺は藤堂から視線を外して柊の方を向く。
「いつでも大丈夫ですよー!」という柊の声が、妙に耳に残った。
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