好かれる妬みは──
今日初めて出会った女性の人と横に並んで歩いた時の男の気持ちというのはどういったものが多いのだろうか?
緊張、興奮、不安、幸福————色々な感情がるのだと思う。
もちろん、この感情の出所は相手に対する印象やイメージ、己の自信のありようや気持ちのコンディション具合にもよるんだと思う。
故に、一概には言えないというのが答えだ。
もし、答えを出すのであれば必ず枕詞で「あくまで個人的なものなのだが」とつけなければならない。
つまるところ、俺がもしそう尋ねられたのなら……あくまで個人的なものなのだが――――
「きゃーーーーー!!! 三枝先輩っ、こっち向いてください!」
「どこに行かれるんですか!? も、もしお時間があるならこの後私と……」
「握手! 握手してくれませんか!?」
「あぁ、すまない。また後にしてくれないか」
……超うぜぇ。
それだけである。
「如月くん、もう少しだけ待ってくれないか。この子達がどうしても話がしたいと――――だから、分かっている。今度またどこかに行こう」
廊下の真ん中。そこには、一人の少女を中心に大きなサークルが形成されており、あたりから息をつく間もなく女子生徒の黄色い声が飛び交っていた。
もちろん、中心にいるのは三枝先輩。まだ、廊下の半分も進んでいない。
「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい」
好きな人がいる俺でも、他の女の子にはさして興味を感じない俺でも羨ましく思ってしまう。
なんだよ! このモテの権化たる権能は!? ちくしょう羨ましい! 俺の好感度はダダ下がりだこんちくしょう!
「すまない、待たせてしまったな」
俺が内心外心問わず嫉妬の呪詛を送っていると、ようやく先輩が姿を現した。
「ほんとですよ……ケッ」
「君……唾を吐かなかったか?」
「そんなことないですよ……ケッ」
「君がどうして私に嫉妬しているのか……いまいち理解できんな」
先輩が俺の態度を気にする様子もなく先を歩く。
飄々とした態度が実に腹立たしい。見下してるのか? モテない俺を見下しているのか!?
「そりゃ、あんなに女子からモテていたら男として嫉妬するでしょうよ」
軍姫の美貌がまさか男子より女子に人気があるとは思わなかった。
そして、二年生に知り合いがいないと言いながら後輩を中心に囲まれてしまうほどのルックスが羨ましい。
「ふむ……君はこれ以上モテたいというのか?」
「何の話です?」
「君は柊くんに好意を寄せられているだろう?」
ピタリ、と。後ろをついていく俺の足が止まってしまう。
「……どうしてそう思ったんです?」
「確かに女性からよく好かれてもらってはいるが、これでも私も女だ。柊くんの態度を見ればそれぐらい分かるさ」
そういうものなのか……?
こっちとら、好意を寄せてもらっていると気づくのに相手の言葉を待ったくらいなのに、先輩は出会って数分で気づいてしまった。
それが少しだけ悔しいと思ってしまう。
「大方、今回私を手伝ってくれたのも君がいたからなのだろう。優しい女の子に好かれてよかったじゃないか。それこそ、妬む必要がないとおもえるぐらいにはね」
「……まぁ、そうっすね」
よかった……そうだな。
柊という魅力的な女の子に好かれていることは誇らしくて何物よりも嬉しいことなのだろう。
それは、先輩の言う通りで自他ともに間違っていない。
だが────
「なんだ、歯切れが悪いじゃないか」
「いや、まぁ……」
「君達は付き合っているのではないのか?」
先輩が不思議そうな目で見てくる。
「……別に柊とは付き合っちゃいないですよ」
「ふむ……何故だ? 君の態度を見る限り、嫌というわけではないのだろう?」
グイグイ来るな、この先輩……。
新垣といい、今日出会う相手は積極的すぎる。
新垣の場合は踏み込むべき場所ではない場所は綺麗に避けていた。
新垣の積極的は互いの距離の話。
この先輩は、他人の中まで無遠慮に踏み込んでくるもの。
どちらかといえば、後者の方がタチが悪い。
「プライベートに深く突っ込みすぎでは?」
「なに、私だって普段はここまで無遠慮に踏み込まないさ。ただ────」
先輩は、その黒い双眸を真っ直ぐに向けてきた。
「君が少し悩んでいるように見えてね。これはいわゆるお節介という部類の話だよ」
「お節介、ですか……?」
「そうとも────要らなかったかね? 先輩からのお節介は」
要らない……そう、答えるべきか答えないべきか。
百聞は一見にしかずというが、曝け出す行為が自分の悩みを解決できるとは限らない。
でも、まぁ────
(持論じゃ、曝け出した方が解決しやすい……)
いつか、偉そうに柊に言ったっけな。
ふと、あの時の光景を思い出してしまう。
だからというわけではないが、黒く透き通った双眸を向けられて、俺の口が自然と開いてしまった。
「そのお節介は有料ですか?」
「もちろん
先輩は笑みを浮かべ、先を歩く。
「とりあえず、歩きながら話そうじゃないか────素直な後輩を見ると、先輩は思わず可愛がってしまう習性があって困る」
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