第275話

 ベリーさんが来た翌日。朝食の準備をしているとメッシュがズボンの隙間に入ってきた。砂岩の住処から帰って来れたんだね。


「おはようメッシュ」


「あぁ。おはよう」


「元気がないね。大丈夫?」


「久しぶりにあんなに怒られた。まぁ俺がやったことを考えれば当たり前なんだけどな。全部あいつのせいだ」


「まぁまぁ。ベリーさんはせっけんに会いたかっただけなんだ。許してあげて。でもメッシュがベリーさんに声をかけるとは思わなかったよ。様子を見るだけだと思っていたのに」


「今考えると別に声をかける必要はなかった。もう二度と一人ではいかないからな。次に行くときは絶対にお前も一緒だ!良いな!」


 私はメッシュのご飯を準備しながら「はいはい」と返事をした。

 メッシュは今回の件でベリーさんに対して苦手意識を持ってしまったかもしれない。私が軽々しくお願いしたのが原因だよね。心の中で謝っておくよ。ごめん!!


「今日はミカンちゃんが青さんと一緒に来るから。よろしくね」


「俺は特にやることはないだろ?今日は大人しくする」


「そうはいかないんだ。青さんが昨日の事を聞きたいだって。それが終わったら大人しくしていていいよ」


「もう思い出したくないんだが・・・」


「青さんに君用のおやつを買って来てもらうようにお願いしたからさ。もう少しだけ付き合ってよ」


「・・・。仕方ない」


 青さんにペットショップでおやつを買って貰うようにお願いしていて良かった!


「ねぇ僕達の分は?」


 タワシが反応する。


「一応、みんなの分も頼んでおいたけどあまり期待しない方が良いかも。メッシュの場合はニンジンが入っているおやつがあまり売ってないんだよ。君達はケーキとかが良いでしょ?」


「そうだけど気になるじゃない」


 トウキまで。みんな期待しすぎだよ。普段からケーキを食べていると質素に感じるよ?


「期待しすぎないようにね。さぁ朝ごはんを食べよう」


 私の合図とともにみんなが朝ごはんを食べ始めた。そこからはいつもの流れで花壇に水やりまで行う。それにしてもせっけんが甘えてくるのが気になる。昨日ベリーさんにあったせいで寂しくなっているのだろう。

 中途半端に会ってしまったのが良くなかったね。ああいうのが一番良くない。ごめんね。私のせいだ。


 水やりを終えてリビングへ戻ろうとすると青さん達がやってきた。玄関前で待ち構える。せっけんにはポケットに隠れていてもらいたかったが言う事を聞いてくれない。


 仕方ない。私はネコとせっけんを左手に持ったままポケットに突っ込んだ。ネコ達は遊んでもらっていると勘違いしているみたいでポケットの中で動いている。少しの間そのままでいてね。


 バタンと車のドアが閉まる音が聞こえる。オモチが連れてきてくれたみたいだ。


「おはようございます。昨日ぶりですがやってきました!」


「ヤヌシ君、おはよう!ちょい久しぶりって感じですね!それでせっけんちゃんはどこ?」


「二人共おはよう。青さん昨日はありがとうございました。ミカンちゃん。君にせっけんを紹介するのは抵抗があるんだよ」


「どうして?今まではどんな時も紹介してくれてたじゃないですか!」


 どんな時もって言う必要ある?


「せっけんが私から離れようとしないんだ。無理やり離そうとするとまた嫌われるよ」


「またってどういうことですか!私は嫌われてませんよ。ねぇ、みんな!」


『守り人』達は誰もリアクションしない。誰か「うん!」と言ってあげてよ。


「ミカンちゃん。落ち着いて。久しぶりに来たから忘れたの?興奮しない。良い?」


「・・・。うん」


 普通に傷ついてるじゃない。


「ミカン大丈夫~?」


 タワシが慰めに行ったな。そのまま相手をしてあげて欲しい。

 するとポケットで遊んでいたネコ達が勢いよく外へ出ていった。どうやら青さんが来たことに気づいたらしい。


「ネコちゃん!それに・・・。この子がせっけんちゃんですね!」


 今の今まで落ち込んでいたのに感情の起伏が激しいな。


「ミカンちゃん落ち着いて!怖がってるから。ほら!」


 ネコ達が私のポケットの中に戻ってきた。私は左手をポケットの中に突っ込んでいたがその左手にしがみつかれた。これでは私は左手をポケットから出すことが出来ない。


「だから言ったじゃない。多分だけどネコ達は青さんに挨拶しに行っただけだったんだよ?」


「ごめんなさい」


「ほらミカンちゃん。荷物を冷蔵庫に入れて運転練習に行きましょう。ほらほら!」


「うん・・・」


 青さんに促されて静かにミカンちゃんが家の中に入っていった。ネコ達はポケットの中でまた遊びだした。これはしばらく出てこないかも。


「先生。今日は変わったおやつがあるので後で食べませんか?」


「おはようございます!そうなんですか?それは楽しみですね~」


「おはようございます先生。ケーキと比べたら物足りないと思いますがこういうのもあるって感じで受け取ってもらえたら」


「なるほど!なら期待せずに待っています!」


 言っている事と声の大きさがあっていませんよ。完全に楽しみにしていますね。


 マリモ達はミカンちゃんの運転について行くみたいだ。楽しんできてね~。

 私は落ち込んだミカンちゃんと青さんを見送ってリビングへ戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る