第28話

 所長さん達に「先生」の事を説明した。二人とも大丈夫だと言ってくれたのでトウキに迎えに行ってもらおうと思った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。タイミングが良すぎる。もしかしてどこかでここ会話を聞いていた?


「多分ですけど先生ですね。二人とも、ちょっと待っていてください」


 私は玄関に移動して声をかける。


「どなたですか?」


「私です。昨日ここに来た樹の守護者の先生です」


 やっぱりか。私はドアを開けて外にでる。


「先生、こんにちは。ちょうどトウキに迎えに行ってもらおうかと思っていたところです。もしかしてここの会話を聞いていましたか?」


「どうもヤヌシ、こんにちは。そうです。ここの会話は樹を通して聞いていました。

 すみません。念のためってやつです。普通は私達にとって人間は敵なので」


 樹を通してそんなことが出来るとは・・・。でも待てよ?


「私の家の中には観葉植物とかはありませんけど?」


「あなたの家の下の地面に樹の根が張っています。そこから聞いていました」


「なるほど、確かに根っこも木ですね。でも床があるのに聞こえるんですか?」


「十分ですよ。まぁ、例外もありますけど。でも盗み聞ぎしていたことは謝罪します」


 やはり先生は礼儀正しい。私にとっては先生は人間としか思えない。でも人間は敵か・・・。人間と守護者の間に何があったのだろう。


「分かりました。私にもプライベートがありますので盗み聞ぎは極力やめてください。じゃあ先生、一緒に行きましょうか」


「以後、気を付けます。そうですね。ただ挨拶は外でお願いできますか?」


「外でですか?」


「そうです。私の本来の大きさを知っておいてもらったほうが良いのです。」


 威嚇でもするつもりなんだろうか・・・。先生が私の時と対応が違うから戸惑ってしまう。


「わかりました。ちょっと待っててください」


 私は家の中に戻り、リビングで二人に説明した。いつの間にかタワシ達は私の体の定位置に収まっている。


「外で先生が待っていますがどうしますか?なんなら別に無理して会う必要はありませんよ?」


 絶対緊張している。さっき二人に怖がらせる事を言ってしまったからからだろう。 でも何も言わずに会うよりかはマシだ。


「いや大丈夫だ。━━君、行けるかい?」


「私も大丈夫です」


 ガタっとイスが動く音がする。三人で玄関に向かう。


「まず僕から外にでる。━━君は少し待ってて。━君、行こうか」


 所長さん緊張してるのか、本名呼びまくりだな。いつもならこんな事は絶対ないのに。


「分かりました」


「じゃあ所長さん、行きますよ」


 私は玄関を開け外に出た。


「うぉ!こ、この方が先生さん?これは凄いな・・・」


「はじめまして。私は樹の守護者。気軽に先生と呼んでくれると嬉しいよ」


「す、すみません、失礼しました。私は━君の亡くなった両親と親友だった━━━━といいます。よろしくお願いします。私の事は所長と呼んでください」


「どうぞよろしく、所長さん」


「━━君、出て来てもいいよ!」


「はい、では行きます。・・・えっ?何で・・・。ありえない」


 ちょっとヘルパーさんのリアクションがおかしい。混乱してる?声がとても小さいし震えている。


「ヘルパーさん大丈夫ですか?」


「ちょっと待ってください・・・。失礼しました。私はヤヌシさんの買い物や掃除をたまにしている━━━といいます。ヘルパーと呼んでください」


「よろしく、ヘルパーさん。私は樹の守護者、さっきも言ったけど先生と呼んでほしい」


 私は昨日から気になっていたことを二人に問いかけた。


「お二人に聞きたいのですが、先生はどんな姿をしているのですか?」


「そうだね・・・。大きさは大型トラックより全然大きい。そして━君の家より高い場所の空中に浮いているように見えるんだ」


 空中に浮いている?先生、空を飛べたの?


「先生、空を飛べるんですか?」


「いや、実はこれにはからくりがあるんだけど・・・。内緒かな。ヒントは私は樹の守護者ってとこだよ。樹があればある程度何でもできるからね」


 平然と言ってのけるな。どうやってるの?


「ではなんでその高さに浮いているのですか?」


「全体像を見せるにはちょっとヤヌシの住処の前だと狭いからね。緊急措置さ」


「だからその高さにいると?個人的にはトリックが気になりますね」


「そうですよ。これでもまだ小さいサイズですが、ここだとこのサイズが限界ですね。それにお二人には初めて会うから少し控えめにしときましたよ」


 なるほど。控えめとはと聞きたいがスルーする。それで姿は?


「所長さん、大きさは分かりました。それで姿はどんな姿なんですか?」


「これはなんだろう・・・。━━さん分かる?」


「ちょっと大きすぎてわからないですね」


「先生、昨日みたいに私の肩に乗るくらいの大きさになってもらって良いですか?」


 私の左肩に何かが乗った来た。恐らく先生だ。所長さん達がとても驚いている。


「あの大きさがこんなに小さくなるなんて!夢を見てるみたいだ!」


「すごい・・・。でも小さくなると可愛いですね!これアルマジロっぽいですよ!ヤヌシさん!」


 アルマジロか~。なるほど硬そうだけど、大型トラック以上のサイスのアルマジロとか怖すぎでしょ。怪獣映画とかに出てきそうだな。でもすこし場の雰囲気が和らいだ気がする。良かった。それにしても先生の力が凄すぎる。


「じゃあ、続きは中で話しましょうか?家の中に戻りましょう。先生、所長さんにケーキを買って来てもらったんですが食べますか?」


「ケーキ?昨日の木の実みたいなやつですか?」


「違いますね。でもタワシ達が喜んで食べていたのでたぶん大丈夫だと思いますよ」


 リビングに戻りながら先生と話をする。ココアも準備しよう。後ろから足音が聞こえる。二人ともついてきてくれているみたいだ。


「二人は席に座っていてください。ちょっと先生の分も準備しますので」


「私も手伝いますよ」


「お客さんなのにすみません」


「私ほどヤヌシさんの家に詳しい人はいませんからね。任せてください」


 確かに、私よりも詳しいですもんね。ヘルパーさんにケーキをお願いして私はココアを入れる。所長さんとテーブルの上に移動した先生が何かを話している。思ったより普通に会話ができていて良かった。


 でもやっと本番がはじまる。1日が長い。

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