第27話
所長さん達が我が家にやってきた。久しぶりに会う所長さんは元気そうだ。ただヘルパーさんがお客さんとしてやってくるのは変な感じがするが・・・。てっきりヘルパーさんが辞めるって話をしに来たのかと思っていたが、そうではなかったらしい。
その二人は今、沈黙している。いつの間にかタワシは私の肩に戻ってきている。
「で、この子達。正確には肩の子と足の子ですが見えてますよね?」
「僕は見えているよ。━━さん君は?」
何故だろう。ちょっと所長さんが楽しそうだ。
「そ、それはですね・・・。━━さん。すみません、嘘ついてました。本当は見えてました。あの時は混乱してしまって嘘をつきました。私は目も悪くないんです・・・」
ヘルパーさんは徐々に声が小さくなっている。目が悪い私には彼女の表情が分からないが、たぶんバツが悪いような表情をしているのだろう。
「すぐに言ってくれればよかったのに。別に怒っていないから大丈夫ですよ。あと申し訳ないのですが、私の事は「家の主」でヤヌシと呼んでいただけると助かります。さっきから名前が聞こえないもので・・・」
「あぁ、ごめんね!じゃあ僕も彼女の事はここではヘルパーさんと呼ぶように努めよう」
「私もわかりました。ただ、ヤヌシさん。訪問の時もそう呼んだほうが良いですか?」
ヘルパーさん、仕事熱心だな。でも言ってることはもっともだ。
「そうですね。それでよろしくお願いします」
これで私も分かりやすくなった。
「二人はこの子達の事はどれくらい知っているのですか?」
「そうだね。この子達は世間では『守り人』と呼ばれているよ。僕たちもテレビとかでやってる話ぐらいしか知らないから何とも言えないんだけれど・・・。テレビで言ってることも本当か分らないしね」
「この子達は3年前に世界中のいろんな場所で目撃され始めました。自然に対して悪さをしなければ無害な存在だと。ただ、人間が嫌いだから用がないと滅多に人前には出てこないとも言われています」
「なるほど、本当に『守り人』と呼ばれているのですね。それにしてもヘルパーさんは見たことなかったのですか?」
「えぇ。テレビでもはっきり映っているのは見たことないです。正直存在しているかどうかも怪しいと思ってましたよ。で、ヤヌシさん!ちょっと触っても良いですか?」
ヘルパーさんがそう言った瞬間、足にしがみついているトウキの力が少し強くなった気がする。話を聞いて怖いのだろうか。
「ヘルパーさん無理みたいです。すみません」
タワシも少しして肩の上で力強めに足踏みしている。トウキから聞いたのかな?でもちょっと痛い。
「タワシ、痛いって!テーブルの上でやってくれ!」
少ししてタワシが足踏みをやめて顔を触ってくる。謝っているのか?
「ヤヌシさん、タワシって?」
「あぁ、この子達に呼び名をつけたんですよ。私は普通に名前をつけれませんから、触り心地で決めましたが」
「ヤヌシ君、この子達に触れられるの?」
所長さんが聞いてくる。まぁ付き合いがほんの少しだけ長いからね。
「えぇ、触れますよ。一緒にご飯も食べますしね。そういえば、ちょっと待っていてください」
キッチンへ行ってタワシ達のチーズケーキとココアを準備する。
「私も手伝いますよ。運べばいいんですか?」
「ありがとうございます。お願いします」
準備しているとトウキが足から腕までよじ登ってきた。興味津々なんだろう。もしかしたら我慢していたのかもしれない。
テーブルに持っていこうと持ち上げた瞬間、タワシ達は私の体から離れた。恐らくテーブルに行ったみたいだ。
「食べていいよ。私たちだけ食べてごめんね」
テーブルが急ににぎやかになる。
「タワシ達はどうなってますか?」
「この子達はすごい勢いで食べてるよ。器用にコップも持ってるし。すごいね~」
「とても可愛いです!写真撮っていいですか?」
写真か~。どうなんだろう。
「撮っても良いですけど、あとで消してもらうかもしれません」
「ありがとうございます!」
カシャカシャと音がする。もしかして連写してる?やっぱり可愛いもの好きだったか。「こっちむいて~」とか言ってるな。いつもとキャラが違いすぎてびっくりする。
「ちょっと暴走しているヘルパーさんは置いといて、後で消してもらうってどういうこと?それと私たちが見えていることを誰から聞いたの?」
「それなんですが・・・。ちょっとここに参加したいと言っている方がいまして」
「ここってこの場に?」
「はい。事前にお二人に伝えておかないと怖がらせる可能性があるため、許可を取ってから呼ぶ予定になっています」
「ちょっとヘルパーさん、現実に戻ってきて!大切な話だ」
所長さんの声のトーンが少し下がった。
「えっ?すみません。無我夢中で写真を撮っていました」
ヘルパーさん、本当に可愛いもの好きなんですね。まさかそんなにハイテンションになるとは・・・。
「ヤヌシ君はその方の事をどれくらい知っているの?」
「昨日であったばかりです。ヘルパーさんが帰った後に我が家にやって来ました。『樹の守護者』と名乗っていました」
「『樹の守護者』?聞いたことありませんね?所長は何か知ってますか?」
「いや、知らないな。その方も『守り人』なのか?」
「えぇ、人間の呼び方だと『守り人』だそうです。この子達の先生的なポジションみたいですよ。実際「先生」と呼んでほしいと言われましたし」
「そうか・・・。『伝えておかないと大変なことになる』っていうのはどういうこと?」
所長さんの声のトーンが下がった。警戒しているのかな。当たり前か。
「先生曰く、先生の姿は人間にとって『恐怖の対象』らしいですよ。『私を見たらみんなこぞって逃げだす』とも言っていました」
急に沈黙が訪れる。二人ともどういう顔をしているのだろうか。
「そうか、━━君。僕が会うから君は違う部屋に避難していなさい。無理して会う必要はない」
所長さん、普通にヘルパーさんの名前を呼んでいるな。少し混乱してる?しゃべり方がいつもと違う。
「いえ、所長。私も参加します。ヘルパーとしてここに来る私にも関係がある話ですから」
ヘルパーさんは仕事熱心を通り過ぎてワーカーホリック気味じゃない?
「二人とも、落ち着いてください。私は先生の姿が分かりませんが、守護者さんはとても理性的で優しい方でした。なので見た目で判断しないでください」
「分かった。そうだよな。君も普通に話したんだし」
「では呼んでもいいですか?」
二人の許可が出た。
「じゃあトウキお願いして良い?」
そういった瞬間、家のチャイムが鳴った。
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