第26話

 昨日は本当に色々あった。特に樹の守護者こと「先生」の訪問。本当に濃い時間だった。今日はゆっくりしたかったがそうはいかない。午後から「所長さん達with先生」という特殊な組み合わせで話をするからだ。


 本当は一週間ぐらい間をあけてから話し合いをしたかった。安請け合いした昨日の私をぶん殴りたい。


 朝食も終わり私達は外で家庭農園と花壇に水やりを行っている。日中で数少ないタワシ達が体から離れていく時間だ。


 体から離れて何をしているんだろう?覚えていたら先生に何をしているか聞いてもらおうかな。本当はトウキに聞きたいところなのだけど、トウキとの「はい」「いいえ」でのやり取りでは要領を得ない。


 普通にこの子達と話せるようになればいいのだけれど・・・。もし会話ができるようになるとしたらタワシではなくトウキだろう。トウキの頑張りに期待したい。


 水やりが終わり縁側で少し休む。そうこうしているとお昼の時報が鳴った。早めにご飯を食べて出迎える準備をしなければ。


 チーズケーキは買って来てもらうようにしてるから、飲み物の準備をしておこう。 インスタントコーヒーをコップに入れるだけだけど。


 早くご飯を食べたかったので久しぶりにカップ麺にした。たまに食べるととても美味しい。だがカップ麺を食べるとなぜか背徳感があるのは私だけなのだろうか。


 この後は所長さん達と軽く話してからトウキに先生を迎えに行ってもらう手はずになっている。いきなり先生を呼ぶと収集がつかなくなるのは目に見えている。二人が先生を見てどういう反応をするかわからないが、不意打ちは避けたい。


 玄関の方から車の音が聞こえた気がした。少し早いけど来たかな?


 チャイムが鳴った。じゃ~気を引き締めて頑張りますか。私は玄関に言ってドアを開ける。


「・・・こんにちは!━君!元気にしてたかい?」


「こんにちは~昨日ぶりですね。━━━━さん、どうですか?」


「こんにちは所長さん、ヘルパーさん。今日もダメみたいです」


 ヘルパーさんが今日は休みだというのにいつものやり取りをしてくる。私もつられて、いつも通りのやり取りをしてしまう。


「ヘルパーさん、今日はお客さんなのでいつもの縛りは気にしなくても大丈夫ですよ」


「そうだよ。━━━さん。仕事熱心だね~」


 相変わらず所長さんの声は大きい。もしかして私の声が小さいのか?


「所長が不真面目なだけですよ。でもつい癖で言っちゃいましたね」


 ヘルパーさんが所長さんに対して言葉がきついのはなぜだろう。何かあったのかな?


「二人ともどうぞ中に入ってください」


 私はリビングの方へ移動する。二人がお邪魔しますと言って中に入ってくる。ビニール袋がすれるような音がする。私が頼んだチーズケーキかもしれない。


「所長さん、無理を言ってすみませんでした。チーズケーキを久しぶりに食べたくなりまして・・・。昨日ヘルパーさんに頼めばよかったんですが」


「いいの、いいの!昔みたいにどんどん頼み事を言ってくれて良いんだから。ついでにホットケーキミックスも買ってきたよ!」


「そうですよ。━━さん。どうせ事業所で暇してるんですから、どんどん使ってください」


 所長さん、ちゃんと仕事してないのかな?やっぱりヘルパーさんの当たりが強い。 まさか全従業員からこんな扱いじゃないよね?


「本当に助かります。ありがとうございます。二人とも自由に席に座ってください。チーズケーキって切ってあるタイプですかね?」


「確か切ってなかったかな~。切ってないね、僕が切るよ!何等分にしようか?」


「じゃあ、8等分でお願いします。もう一個はそのまま冷蔵庫に入れますので」


 所長と一緒にキッチンへ移動する。気づいたらタワシが肩から居なくなっている。 テーブルでヘルパーさんと何かしているのか?


「お二人ともコーヒーで良いですか?」


「大丈夫ですよ!ありがとうございます。所長もいいですよね?」


「うん。大丈夫!」


 準備しておいたインスタントコーヒーに湯を入れる。私はコーヒーを持ってテーブルに移動する。ヘルパーさんが残りのコーヒーとチーズケーキを運んでくれたみたいだ。


 全員が席に座り、私がまず切り出す。


「今日はわざわざこんな山奥まで来ていただいてありがとうございます。でも、どうされたんですか?」


「久しぶりに君に会いたかったというのもあるけど、少し君に伝えなきゃいけないことがあってね」


 やっぱりヘルパーさんが辞める件についてか。


「やっぱりそうだったんですね。長年ヘルパーさんにはお世話になったので何か贈り物を準備したかったのですが、何も準備することが出来ず・・・」


「待って━君。何の話?」


「ヘルパーさんが高齢で辞められるから最後の挨拶で来られたんじゃないんですか?」


「━━さん。ど、どうしてそういう話になったんですか?私一言も辞めるって言ってませんよね?」


 私が思っていた話と違うな。もしかして目が悪いから写真を撮っているのも嘘だったのか?


「ヘルパーさんが目が悪いから車の運転が難しくなるかもって言ってたじゃないですか。だから年齢による免許返上でもするのかと思ってたんですが違うのですか?」


 所長さんが大笑いをしている。


「━━さん。あれは嘘なんです」


「それも嘘だったんですね」


「━君、それもっていうと?」


「だって聞きましたよ。ヘルパーさん、この子達の姿は見えているんですよね?」


 私がそう言うと二人は急に黙ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る