「先生」目線

 私は仲間が人間の住処に入り浸っていることを少し前から樹を通して知っていた。

 若い守護者が人間に食べ物をもらうために行ったみたいだ。


 小さいがあの子も樹の守護者には変わりない。

 ただ若いが故に注意力が散漫というか好奇心がとても強い。


 まさか食べ物目当てで人間の住処を訪れるとは思っていなかった。

 近いうちにあの子にはちゃんとした教育をしよう。

 そもそも人間を知らなかっただろう。だからこそ近づいたのかもしれないが。


 若い守護者を心配して違う子が人間の家に行ったみたいだ。

 私はその様子を樹を通して見ていた。

 樹が存在する場所なら大抵のことは何でもできる。樹があればだが・・・。

 ゆえに樹の守護者と呼ばれている。


 あの人間は目が悪いみたいだな。だから我々を怖がらないんだろう。

 その夜、若い守護者を心配して人間の家に行った子が私に報告しに来た。


 この子はここら辺の樹の守護者の中では1、2を争うほど優秀な子だ。

 だだ真面目すぎる。そして少しプライドが高い。もう少し謙虚になってほしいところだ。


 この子は私に怒られると思っていたらしい。日頃から人間に近づくなと言っていたからだろう。

 私は人間にこれ以上、迷惑をかけないようにと伝えた。

 まさか我々が人間に迷惑をかける側になるとは思わなかった。


 その後も様子を見守っていた結果、私はこの人間は無害だと論付けた。

 私たちの仲間を自分の家族のように扱ってくれている。優しい人間だ。


 私も一言、仲間がお世話になっているお礼を言うために挨拶に伺おうと考えた。

 あの人間はどういう風に私をとらえるだろうか?怖がるだろうか・・・。

 あの子たちのように受け入れてくれると嬉しい。

 決して私も一緒に混ざりたいとかではない。


 ヤヌシと名乗った人間は私をとても警戒していた。

 当たり前だろう。夕方にこんな森の中で知らない来客など警戒しない方がおかしい。

 棒を持って外に出てきた。すぐに住処に入れるように入り口を背にしている。


 どうして守護者たちも驚いているのかな?来るとは思わなかった?

 そうか・・・。でも私も興味があったからね。決して暇だからではないよ。


 ヤヌシは目と記憶に問題があるみたいだった。

 そのあと、なぜ名前がトウキなのか理由を聞いてトウキが「ごめんなさい」と謝っている。珍しい。


 前から愚痴られていたことやトウキという名前を本人が気にいってないとヤヌシに伝えた。もちろん本人が謝っていることもだ。


 そのあとにヤヌシに綺麗だと言われたトウキは喜んでいた。忙しいね君は。


 色々と話した後に住処の中に招待してもらった。だが私の体は大きい。なので体を小さくすることにした。タワシが喜んでいる。同じサイズなのが嬉しいんだろうか。


「ヤヌシさんも目が悪いのだから無理はしないでください」と言った後、本人の声が低くなった気がした。

 どうしたんだろう。私は何か余計なことを言ったんだろうか・・・


「目が悪いだけなので問題ないですよ」とヤヌシは言った。

 そうか、目が悪いから何も出来ないと思われたのが嫌だったのか。

 そういう意図はなかったが、今度から気を付けよう。


 ココアと冷凍フルーツというものを頂いた。とても美味しい。

 私達は普段食事を取らない。食べる必要がないからだ。でもこれは素晴らしい!


 だが簡単に喜んではいけない、。

 私はこの子達の見本となる存在。子供のように喜ぶのは私の威信にかかわる。


 この子達がここに居続けるわけが分かった気がする。

 ヤヌシは私たちを守護者だと聞いても対応を変えなかった。

 同じ人間のように扱ってくれるし見返りもなくご飯も出してくれる。


 樹に問題が起きなければ私たち守護者はいつも暇だ。

 暇つぶしにはもってこいなのかもしれない。

 この子達にもいい影響が出始めているしね。


 ヤヌシから他の人間にこの子達が見えるのかと聞かれた。そういえば他の人間に嘘をつかれていたな。

 私は見えると答えた。何故だろう。とても驚いている。

 まさか嘘をつかれてると考えなかったのか?


 この子達がどんな姿なのか聞かれたが、私は答えることが出来なかった。

 例えばと言われても私にとってはこの世界の生き物は人間とそれ以外の動物で分類されている。

 役に立てそうにない。ヤヌシはがっかりしていた。

 とても申し訳なく感じる。


 明日、ヤヌシが家に人が来るがトウキ達を見られても大丈夫かと言ってきた。

 今日来ていた人ともう一人。ヤヌシにとっては恩人になるらしい。

 気になる。尤もらしい理由をつけて私も同席させてもらおう。


 普通に樹を通して話を聞いてもいいが、参加した方が面白そうだ。

 もしかしたら美味しいものが食べられるかもしれないし。


 それにしてもタワシ達はヤヌシと関わり始めて良い影響を受けている。

 本当に人間なのだろうか。

 私の知っている人間は自然を破壊する自己中心的な奴ばかりだった。


 今は良いがこの先、私たちと関わったことで良からぬ奴らが近寄ってこないとも限らない。そうなったとき目が悪いヤヌシは圧倒的に不利だ。それに私達は今のままだと手助けができない。


 私はヤヌシを守護対象にできないか今度の上位守護者の集まりで提案することに決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る