第29話

 私達と所長さん達、先生。やっと我が家に全員がそろった。私とヘルパーさんが先生のケーキとココアを準備していた時に所長さんと先生は雑談をしていた。所長さんコミュ力高いですよね。さっきまであんなに緊張していたのに、笑い声さえ聞こえる。


「確かにそうですね。分かりました」


 私達がテーブルに戻ったときにちょうど会話が途切れた。何が分かったんだろう。


「お待たせしました~。どうぞ食べてください。多分おいしいと思いますよ」


「ヤヌシ、ヘルパーさん。ありがとうございます」


 先生にケーキとココアを渡した途端、タワシとトウキが私の体をぺたぺた触ってくる。


「先生、もしかしてこの子達も欲しいって言ってますか?」


「そうですね。合ってますよ」


「タワシ、トウキ。確かにまだケーキはあるけど、さっき食べたんだから我慢しよう。明日のお昼に出してあげるから」


 トウキは大人しくなったが、タワシは相変わらず足踏みして駄々をこねている。 するとトウキが右腕までよじ登っていった。少ししてタワシが静かになる。何があった?


「トウキが何かしましたか?」


「トウキちゃんがタワシちゃんを軽く叩いたみたいですね。弟をなだめるお姉ちゃんみたいで可愛いです」


 ヘルパーさんの印象が今日でガラッと変わった気がする。次に仕事で来た時は普通に戻っているのだろうか。そういえば・・・。


「先生、ヘルパーさんがさっきタワシ達の写真を撮っていたのですが、これは大丈夫ですか?」


 先生の反応がない。


「先生?」


「ヤヌシ君、先生はケーキを味わって食べておられるみたいだ。食べ終わるまで待っておこう」


「所長さんが買って来てくれたチーズケーキ美味しかったですもんね。本当にありがとうございます」


「ははっ。まさか『守り人』にも気に入ってもらえるとは思わなかったよ。また今度来るときにいろいろケーキを買ってくるよ」


 トウキが私の足をすごい勢いで叩いている。興奮しているのかな?


「よかったね、トウキ。所長さんもありがとうございます。今度の代金は私が払いますからね」


「いいよ、いいよ!気にしなくて。でも私たちが来た目的は達成できたからよかったよ。まさかヤヌシ君が『守り人』と直接、話しているとは思わなかったけど」


「本当ですよね、所長。こんなこと他の人に話しても信じてもらえないですよ」


「そうですね。私もヘルパーさんに『タワシがいない』と言われた時はイマジナリーフレンドかと思ってましたから」


「す、すみません。ヤヌシさん。私が正直に言っておけばよかったのですが・・・」


「良いんですよ。終わったことですから。今日はあと先生に守護者について話を聞いて終わりです」


「僕たちも聞いていいの?」


「むしろお二人にも聞いて欲しいそうです。私の協力者として。でも無理にとは言いませんので」


 カッと音が聞こえる。先生がコップを置いた音だと思う。もう先生以外は誰も飲食いしてないからね。


「先生、落ち着きましたか?」


「えぇ、失礼しました。あまりにも美味しくて。ありがとうございました」


「また所長が来る機会にいろいろ買って来てくれるそうですよ。味が落ちるかもしれませんが、ヘルパーさんに頼むのもありですよ」


「そうですよ、先生。私が買ってきますよ。最近のスーパーのケーキはそれなりに美味しいですから」


 ヘルパーさん、普通に先生に話しかけてる。二人ともコミュ力高いな。うらやましい。ただ、それだと毎週ケーキを買うことになってしまう。たまに食べるからケーキは美味しいんだよ。


「ヘルパーさん、ありがとう。昨日の木の実もそうですが、人間は美味しいものを食べているのですね。我々、守護者はご飯を食べる必要がないので新鮮で楽しいです」


「食べる必要がないんですか?」


「えぇ、タワシみたいに幼い子は好奇心旺盛で自由奔放。暇さえあれば森の木のみや虫などを食べたりしていますが、精神が成熟していくと食べなくなります」


 まだ子供か・・・。私は肩にいるタワシを触る。 触っていると私の手の指を握ってきた。握手でもしているつもりなんだろうか。


「ヤヌシさん。タワシちゃんのその姿、写真撮っていいですか?」


「先生、さっきからヘルパーさんが写真を撮っているんですが大丈夫ですかね?」


「先生!誰にも見せませんから!私用です!」


 必至だなヘルパーさん。


「ヘルパー君。君、キャラ崩壊しつつあるよ。真面目で辛辣な君はどこに行ったんだい?」


「黙っていてください。所長!これが私の生活の質の向上につながるんです!」


「ヤヌシ、写真って何ですか?」


「これですよ。先生!この中に人や風景を残せるんです」


 ヘルパーさんが先生にスマホの写真を見せているんだろう。時々、先生の「へぇ~」って声が聞こえる。


「なるほど。ヘルパーさん別に構いませんよ。その代わり、その子たちが嫌がったら辞めてあげてくださいね」


「ありがとうございます!タワシちゃん、トウキちゃん撮ってもいい?」


 トウキは私の足を2回軽く叩く。


「トウキは良いそうですよ。タワシは嫌だったら逃げるので逃げなければ大丈夫です」


「すごい。ヤヌシ君ばっちり意思の疎通が取れているね」


「いいなぁ~。私も今度から少しづつ仲良くなろう」


 その写真にはもれなく私も入りそうなんだが、私に確認はしないのかな?まぁ、おまけとして一緒に映ろう。こうやって普通にみんなでしゃべっていると、ここに『守り人』がいるってことを忘れそうになるな。


「先生、では本題に入っていいですか?」


「えぇ、まず守護者とは何なのかですよね?我々、守護者はこの星に意思によって産まれました」


「星の意思?」


「えぇ。このままではこの星は近いうちに滅びます」


 その場が静まり返る。思った以上に重い話だった。

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