第30話
みんなで集まって『守り人』について聞いていたが、先生の爆弾発言によってリビングは静まり返っていた。
「先生、地球が滅ぶってすぐにですか?」
ヘルパーさんが先生に問いかけている。さっきまでのハイテンションは見る影もない。
「今すぐというわけではありません。百年、いや二百年くらい先でしょうか。ですが、それも人間次第でしょう。そもそもあなた達も分かっているでしょう?現在の異常気象などはあなた達が起こした環境破壊が主な原因で引き起こされていることを」
先生の声が静かな室内に響く。先ほどより声に感情がない。怒っているだろうか。
「それは・・・。分かっています。僕たちは分かっていても見て見ぬ振りをして生活をしている。その結果、どんどん状況が悪くなっていることも」
「ここ数年で日本は春と秋がなくなりつつありますし、夏は暑すぎ。冬は暖冬と地球が熱くなっているのが良く分かります」
ヘルパーさんが現在の日本の四季に言及している。そうなの?私はそんなことを感じなかったけれど。
「そうなんですか?退院してからここで過ごしていてそんな事は感じたことがなかったですが・・・」
「そういえば、夏にヤヌシさんのお宅に伺った時にクーラーがついていたことはあまりなかったですよね。やっぱり山の中だからでしょうか」
ヘルパーさんも気づいたみたいだ。まぁ昔から田舎は都会に比べると涼しいと言われてるよね?たぶんだけど・・・。
「あぁ、それはここら辺には育樹が植えられているからです。普通の樹でもそこにあるだけで気温を下げる効果がありますが、育樹はその何倍も効果があります」
「育樹?何ですかそれ」
「簡単に言うと木の育成を手助けする樹のことです。我々はそれを守護しています」
「だから樹の守護者なんですね。タワシ達も守っているんですか」
「えぇ、この子達もちゃんと夜になったら担当の樹の見回りをしていますよ」
「先生も担当の樹があるんですか?」
「私の役目はこの子達のまとめ役、そして人間との戦闘要員ですよ」
「意味なく木を伐採する輩とかに対してという事ですか?」
「そういうことです。あとは言わなくてもわかるでしょう?この星は自分を守るために人間への対抗手段として私たちを生み出したのです。私達『樹の守護者』の他に『大地』『水』『陽光』の守護者がいます」
「『陽光』って何ですか?」
「ヤヌシ君、日光の事だよ。先生。大地と水は分かるんですけど、日光って何をするのですか?」
「これは人間も恩恵を受けているんですよ」
「恩恵?もしかして気温とかですか?」
「そうですね。『陽光』の守護者はこれ以上気温が上がらないように空で調整していますよ。詳しくは私達も知らないんですけどね。他の守護者に関しては私でもいつも何しているかは知らないんです」
「そうなんですね」
色んな種類の守護者がいるんだなぁ。でもなんで「日光」や「日射し」みたいな名前ではないのだろうか。意味があるのかな?
「タワシちゃん達が守護している育樹ってどんな木なんだろう」
ヘルパーさん、見てみたいんだろうな。私も興味がある。
「それに育樹ならヤヌシの住処にありますよ」
「は?ど、どこにですか?」
「あなたが育てている花達の隣に生えてますよ。この子達があなたに内緒で植えたんでしょう」
「そんなに簡単に植えられるものなんですか?」
「上位守護者の許可が要ります。なので私が許可しました」
ガタっとイスが動く音がして足音が遠ざかる。所長さん達が外に見に行ったのだろう。でも先生、許可しましたってそんな簡単な。
「ここで本当に良いんですか?」
「良いんですよ。今後の事を考えると」
どういう意味なんだろう。でもまた一つ謎が解けた。
「だから花に水やりをするときにタワシ達は私から離れたのか・・・」
「そうだと言ってますよ。まぁ、育樹は簡単には育たないので。この子達は育樹の邪魔になる雑草とかを抜いているみたいですよ」
ドタドタと足音が聞こえる。所長さん達が戻ってきたみたいだ。
「見に行ったけど、どれが育樹かわからなかったよ」
「まだ小さい芽が出る前ですからね。人間の目ではわからないでしょう。それでも人間の住処に育樹が育つなんて、前代未聞ですね」
またリビングが静かになる。情報量が多すぎて頭が痛くなってきたから気分転換したい。
「みなさん、一旦休憩しましょう。コーヒーかココアを飲みますか?」
私は席を立ちあがる。
「あぁ、そうしよう!今度は僕が手伝うよ!」
所長さんにお湯の準備をお願いすると先にキッチンへ向かっていった。
「コーヒーって何ですか?」
そういえば、先生は飲んだことなかったな。
「苦くて香りのいい飲み物ですよ。甘くすることもできます」
「そういうのもあるんですね。じゃあ、コーヒーをお願いします」
先生は食べ飲みするのを楽しんでいる気がする。もしかして今後も定期的に来る気なのだろうか?
「ん?ふふっ。分かりましたよ。トウキもコーヒーが良いそうです」
「え?トウキ良いの?甘くなるとはいえ、苦いやつだよ。ココアにしといたら?」
トウキが私の足を強めにバンバン叩く。
「子ども扱いするなと怒っています。タワシはココアで良いそうですよ」
私はトウキを触る。腕だろうか?相変わらずすべすべしていてきれいだ。
「ごめんよ。ちゃんとコーヒーにするから許して。ヘルパーさんはコーヒーでいいですか?」
「はい、お願いします!先生・・・。できればタワシちゃん達と一緒に写真を撮らしていただいてもいいですか?」
「私は構いませんよ。タワシ達さえよければ」
先生が答えた途端、タワシは私の体から降りて行った。トウキは一度私の足を抱きしめた後離れて行った。もしかして嫌がっているのかな?
「ヘルパーさん、ほどほどでお願いしますね」
「は~い!嫌われたくないのでほどほどにします!」
すでにトウキが嫌いかけている気がするが、まぁいいか。私はキッチンへ移動する。
「ヤヌシ君、みんなは何を飲むって?」
私は所長さんに聞いてきたリクエストを伝えた。そっちは所長さんにお願いして私は戸棚からクッキーなどのお菓子を準備していた。
「先生の話は耳が痛いね、本当に。とうとう地球が限界を迎えたってことだもんね」
「まだ間に合うでしょうか?」
「少なくとも今のままでは無理だろう。当然の結果とも言えるが」
「私はここで生活している間に外がそんなことになっているなんて思ってもいませんでしたよ」
「ここは昔のままだからね。良い事だよ」
リビングの方が騒がしい。ヘルパーさんによる写真撮影会が賑わっている。
「所長さん、ヘルパーさんっていつもはあんな感じなんですか?私の中のイメージが現在進行形で崩れてるんですが」
「僕も彼女のあんな姿は初めて見たよ。従業員の趣味にとやかく言うつもりもないしね。迷惑さえかけなければ・・・」
最期の方が聞き取りづらかったですよ所長。
「でも今日は来てくれた本当に嬉しかったです。ありがとうございます」
「心配してたんだけど、元気そうでかったよ。それに前よりも明るくなったね。あの子たちの影響かな?」
「そうかもしれません。でも今の生活は楽しいですよ」
「よかった。新しい友人も増えたことだし、迷惑じゃなければもっと訪れにようにするよ」
「えぇ、歓迎しますよ」
私達は飲み物とお菓子をもってリビングへ戻った。テーブルでは楽しそうに歓談している。
「おまたせ~!先生達はコーヒーを飲んで砂糖とミルクを入れるか決めてね!」
「お菓子も持ってきましたからよかったらどうぞ。タワシ達も欲しいなら袋から出してあげるから言ってね。だけど少しだけだよ。夕食が食べられなくなるからね」
「ヤヌシ、大丈夫ですよ。変なことをするようなら後で説教しますから」
賑やかだったテーブルが静かになる。説教ってどんな何だろう。気になる。
「これはいい香りですが、苦いですね。甘くしてもらって良いですか?」
「じゃ~、ミルクと砂糖を追加しましょう。トウキちゃんは?」
「トウキにもお願いします。だからココアにしとけば良かったでしょう。文句を言うのなら飲むのをやめなさい」
トウキは先生になにを言ったんだろう。若干怒ってるじゃないか。そのあと先生に人間の町について聞かれたり、タワシ達の事について聞いたりした。
そうこうしていると所長さんが「今日はここまでにしよう」と言ったためお開きとなった。
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