「所長さん」こと「飯田守」目線
僕達は充君達と先生に別れを告げて車で帰宅中だった。助手席にはヘルパーの大木さんを乗せている。
「確かここら辺だったはず・・・。大木さん、ちょっと待っててね」
僕は車を停める。茂みをかき分けるとその先にぎりぎり車が通れそうな獣道が広がる。この道は地元の人間も通らないような道だ。小さい頃にこの先の場所で充君の父親と一緒によく遊んだものだ。
確認ができたので車のある場所まで戻って車に乗り込み、獣道の方へ車を走らせる。木が車に当たる音が聞こえる。
「所長、どこに行くつもりですか?この道はどこにつながってるんですか?」
「ちょっと待ってね。大木さん」
少しだけ車を走らせると、少し開けた場所に出る。私はそこで車を停めた。
「所長?何で止まったんですか?」
「すぐにわかるよ」
「意外と早いですね、その箱は。とても面白い」
目の前に先生が現れた。充君と大木さんが先生の飲み物などを準備していた時、先生からヤヌシ(充君)抜きで後で少し聞きたいことがあると言われていた。なので車についてきてほしいとその時に言っておいたのである。簡単についてこれる先生、普通に凄いんだが・・・。
「所長、どういうことですか?」
「大木さん、後で説明するよ。それで先生、話とは?」
何が聞きたかったのだろうか。充君に聞けばいいのに。
「いえヤヌシにも聞いたのですが、第三者視点で聞いておきたかったんですよ。ヤヌシに何があったのか」
「そういうことですか。構いませんよ。大木さんも僕が言っていることに抜けがあったら補足してほしい」
「分かりました」
僕は彼とその家族に起きた事、そのあとの出来事について先生に説明した。大木さんがヘルパーとして通い始めてからは彼女に説明をお願いした。
「なるほど、だいたいはヤヌシから聞いた通りですね。ではあの子の敵になりうるのはその近隣に住んでいる人という事ですね」
「はい、そうなります。もし、『守り人』がいると分かったらまた接触してくるかもしれません」
「そうですか・・・。私は今度の上位守護者の集まりでヤヌシを守護対象に入れるように提案してみようと思っています」
「守護対象?そんなこと可能なんですか?充君は人間ですよ?」
「反発はあるでしょう。ですが彼は我々を同じ仲間として扱ってくれる。そしてタワシ達にも良い影響を与えてくれる。他にも理由はありますが人間の協力者として守護対象したいのです。実はすでに何人か人間の守護対象はいるのですよ」
「そうなんですね。僕も常に見守ることはできませんし、もし何かあった時に対処してくれるのなら助かります」
「和田さん、嫌がりませんかね。あまり干渉されたくないタイプですが」
確かに・・・。でも黙っておくのはどうなんだろうか。
「先生、僕が充君には先に伝えておきます。守護対象になったときに正式に先生から説明してあげてもらえませんか?充君の場合、我々が知っていてそれを本人に黙っておくと信頼関係にヒビが入る気がしまうので」
「確かに、そうですね。和田さんにはちゃんと伝えておかないと」
「私は少々なら大丈夫だと思いますよ。あなた達はヤヌシにとって恩人であり、とても大切な人だと言ってましたから」
充君が僕たちの事をそういう風に思っていてくれたなんて・・・。
「それはうれしいですが・・・。先生、そういうことは本人が知られたくない場合があるので黙っておいたほうが良いですよ」
「なるほど、少々面倒ですね。人間のやり取りは」
大木さんの反応がない。どうした?
「大木さん?大丈夫?」
「・・・いえ、大丈夫です。和田さんが私の事を恩人だと思っていたなんて少し驚いただけです」
「僕は知っていたよ。充君が大木さんにとても感謝していることを。『私がここで生活できるのはヘルパーさんのおかげですから』って面談で言ってたから」
退院時、充君はあの不便な場所で一人暮らしをしたいと譲らなかった。あの場所が亡くなった家族と唯一つながっていると感じられる場所だったんだろう。
たとえ名前が思い出せず、ほとんど見えなくなっていても。
「来週どんな顔して和田さんに会えばいいか分かりませんね。恥ずかしい・・・」
大木さんが顔を真っ赤にしている。珍しい。いつも色んな利用者さんに感謝の言葉は言われているはずなのに。まぁ普段の業務では世間話をしないって契約だからどう思っているかなんてわからないよね。
「それで所長さん、話は変わりますが今度はいつヤヌシの所に来ますか?」
「次ですか?ん~、そうですね。僕にも仕事があるのでまだ分かりません。でも先生どうかしましたか?」
「いえいえ、次のケーキも楽しみにしてますのでその時は私も呼んでくださいね!また二人とも今日みたいにお話をしたいですし。今日は人間の町の様子とか聞くことが出来てよかったです」
「・・・。あっはっはっはっは!良いですよ!ぜひまたお茶会をしましょう!大木さんはどうする?これは業務じゃないから強制はしないよ?」
「私も休みが合えばぜひお願いします!お茶会ならタワシちゃん達と遊ぶことが出来ますしね!」
君は本当にぶれないよね。まあ、趣味は個人の自由だから。仕事はちゃんとやってもらうように後で釘を刺しておこう。
「それはそうと・・・。最後にヤヌシがとても笑顔だったのが印象的だったのですが、何の話をしていたのですか?」
「あぁ、それはですね!タワシちゃん達の姿がどんな動物に似ているか教えてあげたんですよ!和田さん、とても喜んでしました」
「なるほど!昨日、私にも聞いてきてましたね。やっと分かったんですか。良かった、良かった!」
その後、とりとめのない話を少しして僕たちは本当に帰宅した。
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