第32話

 我が家で『守り人』の事について聞いた次の日。私は家でのんびりしていた。この二日間の反動だろう。何もしたくない。今日は最低限の事だけをしていた。


 昨日の一番の収穫、それはタワシ達の姿がどんな姿か分かったことだろう。タワシはイノシシ、トウキはカワウソのような姿らしい。モヤモヤしていたことがスッキリしてとても気持ちよかった。私は満面の笑みだっただろう。


 可愛いと言っていたヘルパーさんの気持ちが良く分かった。小さいイノシシと大きいカワウソ。でもサイズが逆じゃない?急にファンタジー要素が強くなった気がする。


 そして庭に植えてあると聞いた育樹。興味はあるが、余計なことをしてダメにしてしまったらタワシ達に申し訳ない。でもいつか触ってみたいと思う。


 それはそうと昨晩、所長さんから電話であの後に先生と話をしたことを教えてもらった。内緒にしておくのは私との関係にヒビが入ると思い教えてくれたらしい。誠実な対応をしてくれてうれしい。仮に黙っておいたとしても私は許したと思うが、何かしらのしこりは心に残っただろう。


 先生は私に何があったかを第三者視点で聞きたかったらしい。そして私を守護対象にしたいと言っていたみたいだ。守護対象とはなんだろうと思うが、詳しくは今度先生に会ったときに聞くとしよう。


 お昼ご飯を食べた後、昨日買って来てもらったチーズケーキを食べようとする。しかもホールだ。しまった。昨日切っておいてもらえば良かった。


「トウキ、お願いがある。このケーキを昨日みたいに6等分で切ることが出来る?」


 トウキが足を2回軽く叩く。昨日切ってある姿をトウキが見てるから説明しやすいな。


「じゃあ、包丁を渡すから・・・」


 そういった瞬間、シュッと音がした。そしてトウキが足を2回軽く叩いてきた。 私はビニール手袋をしてケーキを触る。切り目が入っている。どうやって切ったのだろう。タワシが肩の上で早く食べたいと騒いでいる。また先生に聞くことが増えてしまった。


「すごいね!トウキありがとう!」


 まぁ出来てしまったものはしょうがない。容器にケーキを移してココアを準備する。


「トウキはコーヒーのほうが良い?」


 トウキがすごい力で足を抱きしめてきた。普通に痛い!そんなに嫌なんだろうか。


「痛いよ。トウキ!分かったよ。ココアにするよ」


 何回かキッチンとリビングを往復してケーキと飲み物を運ぶ。私が席について「食べていいよ」と促す。すぐに賑やかになるテーブル。喜んでもらってうれしいよ。いつの間にかタワシ達中心の生活になりつつある。


 私だけだったらこうやってケーキを食べたりしなかっただろう。そもそも甘いものはそこまで食べないから。でも甘いものを食べると幸せな気分になるな。これはタワシ達に感謝だ。たまの贅沢は人生に必要なものだな。


 トウキが私の腕を叩いてくる。おかわりの要求だろう。タワシも肩で私の顔に抱き着いている。どこで覚えたんだ。そういうしぐさを。ヘルパーさんがいなくてよかった。


「次で最後だからね。晩御飯が入らなくなるから。もちろん、ケーキだけだよ」


「イニャー!」


 タワシがまた叫んでいる。トウキが通訳して教えたあげたのだろう。トウキも珍しく自分から私の手を触っている。喜んでいるのが分かる。


 ケーキでそこまでテンションが上がるのはうらやましいよ。先生もケーキが好きみたいだし、『守り人』は甘いものが好きな種族なんだろうか。私もおかわりをしてみんなでケーキを楽しんだ。


 今日も我が家は平和だ。そのあと特に変わった事もなくその日は終わった。


 それから2日経過した。今日は特にやることもなく消耗品の在庫確認などをしていた。その最中でいつも通りに花壇と家庭農園に水やりを行う。タワシ達が体から離れる。育樹を見に行ったのだろう。


 梅雨に入っているはずだが、今年は雨が少ない。昔は米農家だった私。この時期はいつも天気に左右されていたなと思い出す。田んぼに水を足したり抜いたりと忙しかった。懐かしい。


 水やり用の水道の横で突っ立っていると急にお腹に衝撃が走った。


「ヴぉえ」


 出したことのない声が出てしまった。遅れて痛みがやってくる。鳩尾より少し下あたりを殴られた?いやぶつかったのか?


 私はその場にうずくまる。とても痛い。何が起きたか理解できない。すると私の周りで金属音に近い高い音が鳴り響く。立ち上がっても大丈夫なんだろうか。


「タワシ、トウキ大丈夫か?」


 私は声をかけながらゆっくり立ち上がり少しずつ玄関の方に移動する。タワシ達は私の体に戻ってこない。


 どうしよう。あの子達を置いてはいけない。私は玄関に置いてある金属バットを持って、先ほどまでいた水やり用の水道がある場所に戻る。


「タワシ、トウキ!」


 呼んでもの反応がない。だが良く分からない音はずっとしている。音は遠くでしたり近くでしたりと動いているみたいだ。人間だったら殴るまで近づかれると足音で気が付く。人間ではないと断言する。 という事は『守り人』関連だろう。


 キンっとすぐ近くの右側で音がした。その瞬間、モグラたたきのごとく私は金属バットを思いっきり振り下ろした。カンっと金属を叩いたような手ごたえがした。すると地面が揺れ始める。今度は地震か?私はしゃがんで呼び続ける。


「タワシ、トウキ大丈夫か!」


「大丈夫ですか?ヤヌシ」


 先生の声がすぐ横で聞こえた。

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