タワシ目線③

 僕とお姉ちゃんと一緒に育樹に養分をあげた後、邪魔になりそうな雑草を取りながらヤヌシが作ってくれたおやつの話していた。ヤヌシはというと花に水をやっている。


「だからあのケーキより前もらったやつの方が美味しかったんだって!」


「そうなの?あたしは食べたことないから分からないけど、この間のケーキってやつはとても美味しかったじゃない」


「あれも美味しかった!でもそれ以上なんだよ!」


「え~、わたしもたべてみたいな~。ヤヌシが作ってくれたの?」


「そう、ヤヌシの手作り!なんか作るの大変そうだった」


「そりゃそうでしょう。ヤヌシは目が悪いんだから。今度あたしにも作ってくれないかな?先生に代わりに伝えてもらおうかしら」


「でも、あんまりわがまま言わないように言われたばっかりだよ?」


「そうねぇ。私達も何か手伝いが出来ればいいんだけれど」


「お姉ちゃん、この間ヤヌシの代わりにケーキ切ってあげてたじゃん!僕も何かしてあげたいよ」


「大丈夫よ。タワシもいつかちゃんと役に立てることがあるから」


 僕は足で草をむしっていた。お姉ちゃんは近くに生えている樹の根にお願いして雑草を抜いてもらっていた。


「お姉ちゃんもちゃんと自分でやりなよ」


「ちゃんとやってるじゃない。この樹の根にお願いして。悔しかったらちゃんと訓練をしなさい。あなたも出来るようになれば、ヤヌシの力になれることがあるかもしれないわ」


「そうかもしれないけど」


「常に向上心を忘れてはダメよ。あたしも早く先生みたいに雑草にもお願いできるようになりたいわ」


 お姉ちゃんが樹を触りながら言ってくる。訓練か~。すぐに飽きちゃうんだよね。僕もやらなきゃいけないのは分かっているけれども。


「うん、わかっ・・」


 僕がそう言って顔を上げた瞬間、少し離れた樹の上にいた物体が目に入った。最近見なかった「あいつ」が少し離れた樹の上にいた。「あいつ」は僕を見て少し笑ってからヤヌシめがけて、もの凄いスピードで突っ込んでいった。

 「あいつ」は僕をよくいじめてくる酷いやつだ。生まれた時期が僕より少しだけ早いだけで上から目線で話してくる。


「お姉ちゃん!」


「分かってる!樹よ。お願い!」


 お姉ちゃんが樹にお願いして「あいつ」を止めようとする。樹が「あいつ」を捕まえようとまとわりつくが、捕まえることが出来ない。そのまま速度が落ちながらもヤヌシに突っ込んでいる。間に合わない!


「ヴぉえ」


 ヤヌシがその場でうずくまっている。止められなかった。とても痛そうだ。でも体を突き抜けなくてよかった。


「タワシ!ヤヌシを守って!あたしは『あいつ』を捕まえる!」


 お姉ちゃんが周りにある樹を動かして「あいつ」を捕まえようとする。「あいつ」は空を飛ぶ。僕ら『樹の守護者』の中でも空を飛べるやつは少ない。


 お姉ちゃんの力は樹があればあるほど強くなる。しかしヤヌシの家の周りは樹に囲まれているけど、森の中ほどではない。お姉ちゃんの方が「あいつ」より強いけど、ここは場所が悪い!


「大人しく捕まりなさい!ここは先生が認めた場所なのよ!」


「そんなわけあるか!人間は敵だ!」


「この人間は敵じゃないわ。ちゃんと話を聞きなさい!」


「あいつ」はお姉ちゃんの樹をよけたり、はたいたりして捕まらないようにしている。樹と「あいつ」が接触するたびに甲高い音が森に響く。


 どうすればいいんだろう。僕にできることは?お姉ちゃんに言われた通り、僕はヤヌシを守るように近くに立っていた。僕が最後の砦だ!


 ヤヌシは自分の住処から棒を持ってきた。そのまま住処の中に入っててくれればよかったのに。そんな棒じゃ役に立たないよ・・・。外に出て来てからはヤヌシが僕らの名前を呼び続けている。


 やはり操れる樹が少ない分、お姉ちゃんが不利みたいだ。「あいつ」がお姉ちゃんの操っている樹を掻い潜り、再びヤヌシに突っ込もうとしている。そんなことはさせない! 僕は正面から「あいつ」に体当たりを試みた。


 「あいつ」は僕を見た瞬間笑った。そして正面からぶつかってきた。


 ぶつかった瞬間にキンっと音が響く。ダメだ、向こうの方が勢いがある分あっちの方が強い!はじかれる!その瞬間、ヤヌシが持っていた棒で「あいつ」を殴っていた。「あいつ」も当たると思ってなかったんだろう。実体化をした状態で叩かれていた。


 すごいよヤヌシ!音だけ聞いて当てるなんてすごい!でも力が足りない。しかし「あいつ」は驚いて体制を崩していた。僕はもう一度体当たりをしようとした瞬間、地面が激しく揺れた。


 すると「あいつ」は樹のかごの中に捕まっていた。後ろを振り向くとしゃがんでいるヤヌシと先生が立っていた。


「先生・・・。助かりました」


「この場所でよく頑張りましたね。私が来るまでよく持ちこたえました」


 先生がお姉ちゃんを褒めている。そしてお姉ちゃんはとても疲れている。少ない樹を操りながら誰かを守るのは神経を使ったんだろう。森で生きる僕たちにとって、この状況は普通にあり得ない。


 それもこれも全部「あいつ」のせいだ。最近見なかったから安心していた。あいつが来たのは僕のせいかも・・・。


 ヤヌシ呼ばれて僕とお姉ちゃんはいつもの場所にくっついた。くっついた瞬間、ヤヌシは僕達を捕まえて抱きしめた。今までだったら逃げてたけど、今日は受け入れよう。お姉ちゃんもうれしそうだ。ヤヌシが無事で本当によかった。


 僕はその日から訓練に励むようになった。今日みたいな思いは二度としたくないから。

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