「ベリーさん」ことベリル・スケールの葛藤

 気付いたらあたしは泣いていた。またあの一人の生活に戻りたくない。ただその一心だった。でも私の家も大切。生まれ育った我が家。小さい頃は大嫌いだったけど長年住んでいると愛着も沸く。でも一人は嫌だ。


「ベリー。まだあなたに伝えなければいけないことがあるの」


 ミライがあたしに話しかけてきた。あたしも深呼吸をして落ち着くように心がける。

 タワシとミライみたいに育樹と『守り人』が契約すると育樹が成長できるという話をミライはあたしにしてくれた。何となくこの先の話が読めてしまった・・・。


「実はね。ネコの次はノア(せっけん)に育樹と契約してもらう予定なの」


「・・・」


「育樹を植える場所はあなたの家の近くするつもり。どうかしら」


「ヤヌシの家の近くじゃダメなの?」


「ここにはすでに二本植えられているんだ。あまりここばかりに集中しすぎるのは良くないんだよ」


 砂岩があたしに告げる。でも何で今それを言うの?今言う必要ある?


「何でそれを今あたしに言うの?」


「まだ可能性なんだけど、『守り人』が育樹と契約すると育樹が植えられている土地から離れられなくなる可能性があるんだ。メッシュの力を使ってもね」


 オモチがヤヌシの話した内容を通訳してくれる。


「そんなことをしたらせっけんは二度とここには来れないじゃない!それにネコやタワシとも会えなくなる!」


「私もそれは分かっている。だからその話をミライと砂岩から聞いてから私はメッシュの力をみんなで検証をしていたんだ。だって~」


 ヤヌシも同じことを考えたのか。あれだけ『守り人』を大切にしているんだ。話を聞いてすぐに気づいたのだろう。もしかしたらもっと以前から気づいてたのかも。


「何か良い方法はあったの?」


「あったよだって~」


「本当?」


 ヤヌシの解決方法は至ってシンプルな話だった。ヤヌシの体にくっついて移動する。ただそれだけ。これでタワシもメッシュの力で移動出来たそうだ。だた移動先でもずっとヤヌシの体にくっついておく必要があるそうだ。

 かなり移動制限が付くけどメッシュの力で移動できるだけマシなのかな。


「ただネコやノアが同じように出来るかどうかは分からない。こればっかりはやってみないことにはねって言ってる~」


 タワシは問題なかったかもしれないがネコとノアは分からない。絶対に成功するなら私も賛成するのに。でもこれはおそらく私の意志は関係ないのだろう。


「砂岩。これは絶対なんでしょ?」


「あぁ。君が何て言おうとノアにはあの場所で育樹と契約してもらう。君も一緒に生活ができるんだ。何の問題がある?悪いがこれは決定事項だ」


「ごめんねベリー。これだけは譲れないの。じゃないとこの星はいずれダメになってしまう。それにノアと一緒に生活できるからあなたも嬉しいでしょ?」


 ミライも砂岩と同じ意見か。これはあたしが何を言っても無駄なのだろう。確かにノアと一緒に生活できるのは嬉しい。

 ヤヌシがミライの発言に続く。


「ベリー。私だって君と一緒に生活していて楽しかったよ。本当は知らない人なんて受け入れたくなかったんだ。でも君がここにいたいのならいてくれても構わない。君はもう家族みたいなものだ。だって~」


「ヤヌシ、良いの?」


「良いよ。でもノアが育樹と契約する時はあっちで生活してほしい。私達が君の家に行くからさ。良いわね!楽しそう!ベリーあなたの家の周りって水場はある?」


 ヤヌシは優しい。出会った時から分かっていたことだが始めは人間嫌いだと思っていた。でも今ならわかる。ヤヌシは親しい人との別れが怖いんだ。だから始めの頃はあたしには何も聞かず一緒に過ごしていたのだろう。


 彼の両親は別れを惜しむ間もなく急に事故で亡くなったと聞いている。それが原因なのかも。あたしと境遇が似ているから良く分かる。


「分かった。砂岩。悪いけどあたしはこっちで生活するよ。折角準備してくれたのにごめんね。でもちゃんと育樹を植えるときはあっちへ帰るから」


「別に大丈夫だよ。もともとは私達に原因があるんだ。普通に生活していた君を巻き込んでしまったし」


「いいんだ。ノアやヤヌシ、それにみんなとも出会えたんだ。それには感謝している。それに定期的にあっちの家に帰って掃除もしないとね」


「でも別に泣くことはなかったんじゃないの?気持ちは分かるけどさだって~」


 ヤヌシにそう言われると急に恥ずかしくなってくる。だって仕方ないじゃない!本当に唐突だったし。前置きすらなかったじゃない!


「気づいたら涙が出てたんだ。あたしにとってもノアだけじゃなくてヤヌシやみんなも大切だってことだよ。まだ一ヵ月ぐらいしか一緒に生活していないのにね」


「私だって『守り人』達と出会って一年も経ってないんだ。一緒にいた時間よりも密度だよ。個人的にはもう二~三年は一緒にいる気分だしって言ってるわ~」


 ヤヌシと話していると涙も引っ込んだ。安心できたからだろうだ。それにちょっとヤヌシに対してムカついてきた。次のヤヌシの食事に特製スパイスをいれてやろう。

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