「ヘルパーさん」こと「大木優」目線①

 今日は所長夫妻と一緒に和田さんのお宅を訪問する予定だ。和田さんをケガさせた守護者が解放される可能性がある日でもある。念のため、ヘルメットとライフジャケットを購入して車に積んだ。役に立つとは思えないが、ないよりはマシだと考えたい。


 和田さんのお宅に行く最中は春香チーフがずっと興奮状態だった。「久しぶりに充ちゃんに会える!」と所長にしきりに言っていて、所長は「今からそんなに興奮していると後で動けなくなるよ」と宥めていた。


 そんな所長もちゃっかりお酒をトランクに入れているのを私は見た。自分も楽しむつもりでしょ?私だけかな?ちゃんと準備していくのは。まぁ所長夫妻は今日は休みで私は仕事。なので文句は言えない。言えないが気にはなるよね。「僕も一緒じゃないとダメだ」って言ったくせに・・・。


 和田さんの家に着くと珍しく和田さんが外に出ている。どうしたんだろう。しかもタワシちゃん達も体から離れている。すると春香チーフがダッシュで和田さんに突っ込んでいく。しかも何故か両手を広げて。


 もしかして抱き着こうとしてる?って考えた瞬間。植物の根みたいなものが春香チーフを縛り上げた。所長は和田さんにほどくようにお願いしてほしいと言っている。


 なるほど、トウキちゃんの仕業か。私もやりすぎると同じ目に合うのか・・・。 春香チーフ、おかげで私はこの先トウキちゃんにはやりすぎないことを決めました。ありがとうございます!


 和田さんは背中に爬虫類を背負っている。そこそこ大きいな。あの背中の子は夏海ちゃんにドストライクな気がする。今日いなくて本当に良かった。でも近い内に連れてくることになるだろう。


 気付いたら春香チーフが和田さんに抱き着いている。話を聞いているといつも抱き着くみたいだ。いつも?春香チーフってそんなキャラじゃなかったと思うんだけど。 冷静で頼りがいのあるチーフ。私の知っているチーフがどんどん消えていく。


 抱き着いた状態で春香チーフは泣いていた。春香チーフは和田さんの亡くなった母親ととても仲が良かったらしい。感慨深いものがあるんだろうな。


 そのあとみんなで少し話した後、新しい『守り人』砂岩ちゃんと自己紹介した。 和田さんは砂岩ちゃんが爬虫類系だと知らなかったみたいだ。伝えると和田さんが動揺している。そういえば和田さん、爬虫類苦手だったかも。余計なことを言ってしまったかもだけど、嘘は良くないと学んでいる。ごめんなさいと心の中で謝る。


 なにか話を変えないと・・・。私は「仕事モードに入ります」と言った。言ってしまった。


 和田さんと砂岩ちゃん両方から突っ込みが入った。恥ずかしい・・。ヘルパーとしていつものやり取りを始めて誤魔化した。そこからボイスレコーダーの内容を確認したりして、買い物に出かけた。


 今日はいつもの冷凍品以外に焼き肉用のお肉などを頼まれた。しかもちょっといいお肉。いいなぁ。私は参加できないからちょっとうらやましい。夏海ちゃんを連れてきた時にバーベキューをお願いしよう。


 買い物から帰宅して冷凍品を片づけて電子マネーをチャージしたことなどを和田さんに報告した。今日はいつもの縛りはなくてもいいそうだ。最近は世間話禁止の縛りが緩くなっている。良い傾向かな。


 部屋の掃除は春香チーフがやってくれたらしい。休みなんだから今日は私がやるのに・・・。でも、ありがとうございます。


 私は和田さんに頼まれて買ってきたもので今日使うものを縁側に持っていく。お肉などを所長に渡すと所長が私の後ろを指さす。何だろうと見てみると、クーラーボックスの上で飛び跳ねているタワシちゃんと中をのぞいているトウキちゃんがいた。


 珍しい。タワシちゃんはともかくトウキちゃんも来るなんて。でも可愛い!恐る恐るクーラーボックスの中を覗き込んでいる。


 写真を撮りたいな~。でも仕事中だ。


「任せなさい」


 春香チーフが私の代わりに写真を撮ってくれた。あとで夏海ちゃんと共有しよう。


「あまりトウキ達に迷惑をかけないようにね。春香さん」


「分かってるわよ!ね~、トウキちゃん!」


 トウキちゃんが私たちを睨みながら後ろに下がって家の方に動いている。さっきまで飛び跳ねていたタワシちゃんを胸に抱きしめている。もうなんて言っていいか分からない。仕事じゃなければ良かったのに!


 春香チーフがひたすら写真を撮り続けている。あとで貰わなくては・・・。それにしても、まだ距離感があるな~。早く仲良くなりたい。


「所長はお酒を飲むんでしょう?良いんですか、冷やさないで」


「え、あなたお酒飲むつもりなの?何のために来ているか分かっているの?」


「ちょっと春香さん、怒らないでよ!あくまで全部終わったら飲むつもりだから」


「ちゃんと荷物を確認すべきだったわ。夏海が我慢してるんだからあなたも我慢すべきでしょう?」


「はい、すみません」


 普段、事業所では見ない風景だ。なんか新鮮。それにしても和田さん、なかなか来ないな?


「和田さん、来ないですね?何かあったのかな?」


「充ちゃん、何か探してるのかも。私が見てこようかしら」


「私が行ってきますよ!すぐに戻ってきます」


 私がキッチンへ移動するとキッチンの床にマンホールぐらいの穴が開いている。 そして和田さんの頭の上に緑の鳥がいる。


 何が起きたか理解した瞬間、私は和田さんに近づいて全力で頬を叩いていた。

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