「あの子」目線

 俺は先生みたいになりたかった。強くみんなに尊敬されるような存在に。人間は敵だ。先生はそう言っていた。だから人間を見かけた瞬間に俺は攻撃した。その結果、俺は地面の中に埋まっている。


 先生は人間が敵だと言っていたが襲っていいとは言っていなかった。だからこうなってしまったのだろうか。あの時の先生の悲しそうな顔。先生は何を考えていたんだろう。でも俺は悪くないはずだ。


 すぐに先生が掘り出してくれると俺は思っていた。だが掘り出してくれない。ここにいると時間の感覚がわからない。朝なのか夜なのか・・・。何日経ったのかも分からない。


 そもそも最近、あのチビを見かけなかったから探したことが始まりだ。あんなやつ、ほっとけばよかった。会うたびに反抗的な態度をしてきたあのチビ。


 人間の住処で一緒に居やがった。しかも別の守護者もいる。あの守護者はたしか強いやつだ。でもそれは樹の中での話。この場所なら俺の方が強い。俺はチビと目が合った瞬間、人間に突っ込んだ。樹使いの守護者が邪魔してきたが、関係ない。躱して突っ込む。


 倒すことが出来なかったが、まだチャンスはある。そう思っていたらチビが突っ込んできた。勝てるわけないのに。そんなにその人間が大切なのか?


 チビをはじき飛ばすと人間が棒で攻撃してきた。まさか人間から攻撃されるとは・・・。俺は驚いて体制を崩した時に先生に捕まった。そして現在に至る。もうずっとこのままなのだろうか?あの時、素直に謝っておけばよかったのだろうか?今言っても仕方ない。


 初めこそ人間に対する怒りが強かったがその怒りもずっとは続かなかった。あの人間が俺に対して何かしたわけではない。それに他の守護者が近づくという事は良い人間なのだろう。


 何もせずにずっと同じ場所にいることがこんなに苦痛だったとは知らなかった。 俺は何も考えないようにしないようにしていた。


 何日経ったのだろうか。急に俺が閉じ込められている籠の周りの土が移動し始めた。 凄いスピードだ。誰がこんな真似を?先生は凄い守護者だが、樹の守護者だ。 土を動かしたりはできないはずだ。


 上を向くと急に明るくなる。まぶしい。久しぶりの外だ。目の前には先生、人間、そしてなぜが大地の守護者様がいる。


「幼い樹の守護者よ。お前は置かれている状況が分かっているか?」


 大地の守護者様から声をかけられる。凄い圧だ。俺は現状を理解できなくて何も答えられない。先生と人間が会話した後、人間が俺に聞いてきた。


「ならもう一度聞こうか。木の守護者君、私に謝るつもりはあるかい?もちろん、タワシ達にもだよ」


 俺はそこで気づいた。人間がチャンスをくれたのだと。先生も横で俺のことを見ている。だが俺は先生みたいに口で言葉を話せない。だったら・・・。


「ごめんなさい。俺が悪かった。もう二度としない」


 俺は人間の頭に直接語り掛けた。人間は驚いて頭を押さえていたが、俺の言っていることが分かるみたいだ。


「そうかい。なら私は君を許すよ。あとはタワシ達にもちゃんと謝ってね。では改めて自己紹介を。私はヤヌシだ。よろしくね」


「ヤヌシ。タワシ達とは?」


「あぁ、ごめん。あの場にいた『守り人』達だよ」


 あいつら、名前を付けられていたのか。


「分かった。ちゃんと謝る」


「良かった、本当に。ずっと心配していたのですよ。でも責任は私にもありますから、ヤヌシみたいな人間はかなり稀だと考えてください」


「はい、すみません」


 先生が俺に声をかけてくれる。本当に申し訳ない。


「本当にな。ヤヌシには悪いが、今回はヤヌシでよかった。下手をしたら人間による守護者排除の動きが始まってもおかしくなかったからな。我々は傷つかないが、自然が傷つくのは見ていられない。我々の存在意義がなくなってしまう」


「はい。申し訳ありませんでした」


「暫くはヤヌシと一緒に過ごしてヤヌシの生活の助けになれ。いいな?」


「え?別にいいよ、砂岩。無理を言っちゃだめだよ。私は謝ってもらえば十分だから」


「いいの、いいの~。この子にはその必要があると私が判断した。先生、問題ないよな?」


「はい、大地様の言う通りに」


「分かったな。若い樹の守護者よ」


 俺に拒否権はない。


「はい、大地様。でも俺は具体的に何をすればいいのですか?」


「それはタワシ達に聞くんだ」


「分かりました、後で聞きます」


「そうだ、君も呼び名がないと困るな。ちょっと触っても良いかい?」


 ヤヌシが呼び名を決めたいと言い出した。嫌な予感がする。でも従うしかないな。


「良いぞ」


「あなたからヤヌシに近づいてあげてください。ヤヌシは目が悪いのです」


「先生、それは本当なんですか?その状態でよく俺に一撃入れたな」


「ラッキーだったよ。ちょっと私の手に体を当ててほしい」


 俺はヤヌシの手に寄りかかるように体を当てた。


「なるほど。毛布、布団、毛玉・・・」


 おい、それが呼び名じゃないだろうな。


「なんかしっくりこないな。とても気持ちいい手触りなんだけどね。そういえば君も緑色なの?」


「ああ、そうだよ」


「なら決まった!きみは『マリモ』と呼ばせてもらうよ!」


 ん~・・・。ぎりぎりだな。まぁ文句も言えないか。


「分かった。俺はマリモだな。よろしく」


「よろしく!じゃあ、先生。床の木を直してもらえますか?」


「はい」


 床に空いていた穴が樹によってふさがっていく。さすが先生。俺は樹の操作ができないから羨ましい。


「じゃあ、みんなの所に行こうか」


 俺はヤヌシの頭の上に座った。なんだろう。思ったより落ち着く。


 ヤヌシが振り向いた瞬間、違う人間が奥から現れた。その人間はヤヌシを見るなりヤヌシの顔面を叩いた。そして俺は派手に飛ばされた。やっぱり人間は嫌いだ。

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