第53話

「あの子」ことマリモに謝罪してもらい私はこの間の件を許した。砂岩がマリモに私の手助けをするように言いつけ、タワシ達と同じように生活することが決まった。


 無事に事が済んで縁側に移動しようと思ったら私は誰かに頬を叩かれた。頭の上に乗っていたマリモはどこかへ飛んで行った。


「ヤヌシさん、なんでそうやって勝手に行動するんですか?」


 この声はヘルパーさんだ。どうやら怒らせてしまったみたいだ。


「すみません。やはり万が一がある限り皆さんを巻き込みたくなかったんです。まさか所長さんが許可を出すとは思ってなかったので」


「私達が心配なのは分かりましたが、私達もあなたが心配なんです。だから所長もチーフも今週は今日のために仕事を前倒しにしてここに来ました。私も念のためヘルメットとか持ってきてました。みんな準備してたんですよ?」


「それでも、すみません。こればっかりは譲れなかったんです。あの日みたいにまた大切な人達を失いたくなかったんです。ヘルパーさんが叩いて気が済むのなら何回でも叩いてもらって良いですよ」


 足音が玄関の方に行き、バンっと音がする。ヘルパーさんは外に行ったみたいだ。


「大丈夫ですか?ヤヌシ」


「えぇ大丈夫です、先生。行きましょうか」


「びっくりした。人間ってやっぱり敵だ」


「マリモ、ごめんね。飛んでったもんね」


「いいの~?あのままで」


「・・・。とりあえず縁側に移動しよう」


 私達が縁側に移動するとマリモが私から離れた。そしてタワシ達が体に移動してくる。トウキの抱き着く力が強い。


「タワシ、トウキ。この子、マリモって呼び名を付けたんだけどね。私にちゃんと謝ってくれたんだ。君たちにも謝罪するから許してやってほしい」


「トウキは問題ないみたいですが、タワシは何も言ってこないですね」


「タワシ、どうしても許せないかい?君だって私の冷凍フルーツを盗んで食べたじゃないか。誰だって何かしら間違いを起こすんだ。今回は許してあげてくれないか」


 すぐに返事が返ってこない。虐められてたって言ってたもんな。


「タワシが分かったと言っています」


 あとでもう少しタワシと話がしたいところだな。とりあえず、『守り人』の方はこれで良いか。あとはヘルパーさん達だな。縁側ではパチパチと炭の火が鳴っているような音が聞こえる。


「所長さん、春さんも居ますか?」


「ヤヌシ君。何があったの?ヘルパーさんが車の中に入っちゃって出てこないみたいなんだけど。春さんが呼び掛けてもダメみたい」


 私は何があったか説明した。


「そうか。それはヤヌシ君が悪いな。正直、私も腹が立っている。私は君の事を家族同然だと思っているからね。勝手にそういうことをされると、信用されていないみたいでこっちが傷つくよ。春さんも同じことを言うと思うよ」


 みんな同じことを言う。


「ヤヌシ~。謝ってきなよ。あまり介入するつもりはなかったのだけど、第三者である私から言わせてもらうとこれは君の独りよがりだ」


 急に砂岩が会話に入ってくる。どうしたんだろう。


「本当はね~。君たち人間の事なんてどうでもよかったんだよ?でもこの2日間は普通に楽しかった。だからこれは私からのお礼だと思って聞いてくれ」


 私はうなずいて黙って砂岩の話を聞く。


「ヤヌシのやり方ではいずれ大切な人達は離れて行ってしまう。君はそれでもいいと思っているかもしれないが、それは違う。必ず後悔する。君は優しいが今やっていることは間違いだ。現にヘルパーさんは傷ついている。早くヘルパーさんに謝ってきなさい」


「でも・・・」


「早く!」


 砂岩からいつもタワシ達に向けられる圧みたいなものが感じられる。


「・・・。分かった。所長さん、車の場所まで連れてってもらえませんか」


「分かった。手を前に伸ばしてくれ。そう。よし、僕の肩をつかんで」


 私達は車まで移動する。


「━ちゃん!出て来て話し合いましょう?何があったの?」


「春さん、私が話します」


「ヤヌシちゃん、何が・・・」


「春さんこっち!」


 所長が少し離れた場所で春さんに説明している。


「ヘルパーさん、私を中に入れてくれませんか」


 少し間があったが、カギを開けてくれた。私は後部座席に乗ったみたいだ。


「先程はすみませんでした。私のわがままでした。申し訳ないです。久しぶりに誰かに叩かれましたが、ヘルパーさん思ったよりも力あるんですね」


「・・・。こんな仕事をしていると力も強くなるんです。私もすみませんでした。ついカッとなっちゃって。利用者であるヤヌシさんに対して失礼しました」


「いえ、所長さんも怒っていたのでむしろヘルパーさんに叩かれていてよかったです。所長さんだったらグーパンだったかもしれないので」


「ふふっ。そうかもしれませんね。所長も怒るととても怖いですから」


「なにか私でできることがあれば言ってください。お詫びというわけではないですが・・・」


「・・・。そうですね。では私と友達になってくれませんか?」


 友達?ヘルパーさんと私が?考えてもみなかった。でもいいんだろうか?続けてヘルパーさんがしゃべる。


「本当は利用者さんと友達になるのはまずいのかもしれません。ですが前回の件もありますし。━━ちゃん、じゃなかった。ミカンちゃんを連れてくるのにヘルパーさんとして来るのはまずいんですよ。あと・・・」


 ヘルパーさんがどんどん早口になっている。そんなことを言わなくても私の答えは決まっている。


「私で良ければ友達になりましょう。よろしくお願いします。そういえばここ数年でヘルパーさんが初めてできた友達です」


 こんな場所に一人でいると友達はできない。この場所のせいにしておけば少しは友達がいないショックにも耐えられる。


「・・・・。そうですか」


「どうかしましたか?ヘルパーさん。いや仕事中以外は呼び方を変えるべきですね」


「では優でお願いします」


「Uですか?本当にそれでいいんですか?分かりました。Uさん。よろしくお願いします。」


 さっきから肩のタワシが動き回っている。車が珍しいんだろう。


「そろそろ出ましょうか。タワシが車に興味津々みたいなのでこれ以上長居するのは良くないみたいです」


「なんで私の名前は・・・。いや、分かりました」


「━ちゃん!良かった~。もうヤヌシちゃん、後で説教だからね!」


「はい、お手柔らかにお願いします」


「Uさん、縁側まで一緒にお願いして良いですか?」


「良いですよ」


「ヤヌシ君!ヘルパーさんの事、呼び方を変えたの?」


「えぇ、友達になったので」


「ちょっと━ちゃん。こっちで話を聞きましょうか」


 Uさんが春さんに連れていかれ、所長さんはへぇ~と言っている。とても疲れた。でもまだバーベキュー始まってないんだけど・・・

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