第51話

 所長さんとお昼の準備をしていたら春さんから声をかけられる。


「ヤヌシちゃん、掃除は大体終わったわ。少しは━ちゃんの分も残しとかないとね。何か手伝う事ある?」


 春さんも縁側にやってきたみたいだ。今、お願い出来ることと言えば。


「では食材を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」


 私と春さんは食材を持ってキッチンへ移動した。冷蔵庫の中には昨日から解凍しているお肉や魚が入っている。私は春さんにそれらをクーラーボックスに入れてるようにお願いし、そのまま縁側まで運んでもらった。


 私というと、キッチン残ってついでにじゃがいもを洗っていた。


「なんでじゃがいもを洗っているの?」


足音が近づいてくる。縁側から春さんが帰ってきたみたいだ。


「久しぶりにホイル焼きにしたいなと思って。昔はよくバターを載せて食べてましたよね」


「そうね。懐かしいわ。じゃあ私がアルミホイルで包んでおくわよ」


「ありがとうございます!」


「ねぇ、ヤヌシ。それ美味しいの?」


「私は好きだよ。砂岩も良かったら食べてみてよ」


「・・・。分かった」


 あまり美味しそうには見えないから気持ちは分かるけども。そうこうしているとヘルパーさんが帰ってきた。


「ただいま戻りました~!」


 玄関の方から声が聞こえる。


「ヘルパーさん!キッチンに来てもらえますか?」


 足音が近づいてくる。2人分かな?


「━ちゃんが帰ってきたから私は縁側で旦那を手伝ってるわね!」


 春さんはすぐに縁側へ移動していった。なぜかタワシも一緒に。


「いいんですか?ヤヌシ。タワシが行ってしまいましたよ?」


「良いんですよ、先生。色んな事を見て楽しんでもらえれば。トウキも気になるなら行っていいからね。先生と砂岩がいるからこの間みたいなことは起きないから」


「あの子」に襲われて以来、トウキが私からあまり離れなくなった。花壇の水やりですら以前は離れていたのに・・・。今はタワシだけが育樹の面倒を見ているみたいだ。


「そうですよ。トウキ。私と大地様がいれば何の問題もないですから。迷惑が掛からないように見学してきなさい」


 少し間があったが、トウキも私から離れて行った。


「ありがとうございます。先生」


「いいえ、これもタワシ達には良い勉強になりますから。あの子達は私みたいに樹を通して見るようなことはできませんからね」


「勉強になりますか?」


「何が学びにつながるか分かりませんから。今はヤヌシと関わったことでタワシ達は学び続けているんです」


「そんなつもりはないんですけどね。私はあの子達に楽しんでもらえればいいと思ってます。あっ、すみません!ヘルパーさん。買い物ありがとうございました」


「はい。今日はいつもどおり買い物ができました。まずは冷凍品を片付けますね」


「では私に冷蔵品をください。今日使うものと分けますので。先生、私が持った商品を読み上げてもらえませんか?」


「構いませんよ。手伝いましょう!」


 本当に助かるな~。トウキ達ともこうやって交流できればもっと楽しいんだけどね。テーブルの上で分別し終わったので、今日使わない商品は冷蔵庫の中に片づけた。


「終わりましたよ~。今日はいつもの3倍くらいお金を使ってますね。電子マネーのチャージもしておきましたから」


「ありがとうございます!こういう日はお金を使わないとね。ヘルパーさん、テーブルの上にあるものを縁側に運ぶのを手伝ってください」


「分かりました」


「あぁ、今日もあの縛りはなしで良いですからね。ヘルパーさんだけ話せないのは申し訳ないですし」


「良いんですか?」


「えぇ、気にしないでください。もともと一人でお昼ご飯を食べるときに邪魔されたくないだけなので」


「分かりました。では・・・。ヤヌシさん!砂岩ちゃんの姿を思い出したんですよ!」


 いきなりエンジン全開だな。砂岩ちゃんって・・・。でもどんな姿か気になる。


「よく思い出せましたね。何の生物ですか?」


「どこかで見たと思ってましたが、テレビでした!あれです。絶滅危惧種のコモドドラゴンです!たぶん・・・。ただ普通のやつと違って爪がないですね」


「爪ね。あれ邪魔だから縮めてるのさ~」


「そんなことできるの?砂岩」


「それは今更でしょ?私達は大きさや重さも変えられるんだから~」


「分かっているけど、私達の常識じゃありえないんだよ」


「じゃあ私はこれを持って縁側に移動しますね~」


「お願いします。私もすぐに移動します」


 ヘルパーさんが荷物が入った袋を持っていった。


「じゃあ先生、砂岩。聞いておきたいことがある」


「何~。ヤヌシ?どうしたの?」


「この間埋めた「あの子」を花壇の場所からこっちの方まで移動させることは可能?」


「そういうことですか・・・。でもどこに出すのですか?」


「ここです」


 私は樹の守護者と大地の守護者がいるのならキッチンでも可能ではないのかと考えていた。みんなの意識がバーベキューの方にいっている隙にやってしまいたい。


「いいの~?みんなは君が心配で来ているのだろう?」


「いいんだよ。あれから考えてたけどやっぱり一人でやってしまいたいんだ。あとで何と言われようともね。で、出来るの?」


「この樹なら私の方で操作できます。ただ「あの子」を地面の中で動かすことはできません。大地様の協力がないと・・・」


「わかったよ~。この下まで移動させてあげよう!・・・。はい、できたよ~」


「もう?」


「早くしないとヘルパーさん帰ってきちゃうよ?」


「じゃあ先生お願いします」


「はい、できました。今ヤヌシの前の床に穴が開いてます」


「砂岩、私達の目の前まで地面から掘り出してくれる?」


「分かった~。はい、出来たよ。幼い樹の守護者よ。お前は置かれている状況が分かっているか?」


 砂岩の話し方が変わった。相変わらず器用な奴だな。


「そういえば先生、この子は私の話していることを理解できているのですか?」


「えぇ、分かっています」


「ならもう一度聞こうか。木の守護者君、先日の件で私に謝るつもりはある?もちろん、タワシ達にもだよ」


 さて、なんと言ってくるだろうか。

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