第379話

 私達は春さんにコタツとブラシを預けてリビングへ移動した。

 まずはヤスリと話をしないと。私はヤスリとはあまり面識がないからね。


 席に座るとネコとせっけんが左手の中にやってくる。


「その子達は何をしてるんだ?」


「私と遊ぶためにここにいるんだよ。ほら私は目が悪いでしょ?これなら遊んであげられるし」


「なるほどな。でもヤヌシは疲れないのか?春さんの所にも『守り人』がたくさんいた。儂は色んな場所を渡り歩いているがこの場所は異常だ」


「君にとっては異常かもしれないけど私にとっては日常だ」


「まぁ見方によるか。それで育樹は何処にあるんだ?」


「あとで案内してあげるよ。ミライが良いって言ったらね」


 ミライもコタツと同じで人見知りが激しい。すぐに「いいよ」とは言わないかも。


「もちろんだ!育樹の意志は尊重する!やっと噂の育樹に会えるんだ。楽しみだな~」


「ミライだよ」


「何だ?」


「育樹にはミライって名前があるんだ。砂岩から聞いてないの?」


「あいつにはたまにしか会えないからな」


「たまにしか会えない?」


「儂はな。他の大地の守護者と違って住処と呼べる場所がないんだ。役割が違うんだよ。基本的に他の大地の守護者がいる住処を転々としている。だからあいつ、砂岩ともたまにしか合わないんだ」


 そういう事か。だからブラシの住処にいたのね。でも自分の家がないって辛くないのかな。


「そっか。君も大変だね。でも本当にうちに来て良かったの?」


「それは問題ない!ブラシの住処でやることはもう終わっている。あとは暇つぶしに数日いる予定だったんだ。ここに来るのもちょうどいい暇つぶしだ!あいつは儂とあまり会話をしてくれないから本当に暇でな~」


 それは分かる気がする。


「なら今日は良い暇つぶしになると思うよ。自由にしてもらって良いからさ。何を作っているのか知らないけど美味しいお昼ご飯が食べれると思うから」


「ご飯?何だそれは?」


「砂岩達から聞いてないの?」


「何も。ミライやここの話は聞いてるけどな」


 あえて言ってないのだろうか。でも前に誰かが食事に興味を持っている守護者が増えているって言ってなかったっけ?


「なら楽しみだね。たぶん喜んでくれると思うから」


「そうか。なぁその子達はずっとやってるが飽きないのか?」


「他にも遊び道具があるからね。せっけん。猫じゃらしを持ってきてよ」


 せっけんがおもちゃ箱の中から猫じゃらしを取ってくる。といってもいつもオモチが手伝ってあげてるみたいだ。せっけんは物を運ぶのが好きみたいなのでいつも頼んでいる。


「ほらこれとかで遊ぶんだよ。楽しそうでしょ?」


「確かに白い球を追っかけてるな。あの子達も楽しそうだ。砂岩の言っていた通り、ヤヌシに産まれたての守護者を預けてよかった。反対していた者もいたが実際に見てみると安心する」


「知らないやつ。しかも人間に預けるんだ。反対する『守り人』達がいるのが普通だよ。大切な仲間なんだから」


「でもな、儂達も産まれたての守護者にどう接すれば良いのか分からないんだ。何せ守護者を育てたことなどないしな」


「私だってそうだよ。試行錯誤の毎日だ。ヤスリもここへ来たからにはネコ達と仲良くしてやってね」


「そうするとしよう。ほら球を追加してやろう」


 ゴロゴロとテーブルの上を転がる音がする。


「ヤスリ様!球が増えれば良いってものでもないのですよ!」


 先生がヤスリがいる左肩にやってきた。


「そうなのか先生。なら片づけよう。というかお前もいたのか」


「はいヤスリ様。この島は私の担当です。オモチもいますよ」


「お久しぶりですヤスリ様。私は今はヤヌシの守護をしております」


 先生達が話し始めた。ヤスリがやりすぎる前に止めてくれたみたいで助かる。


「なるほど。ということは砂岩は知ってたんだな?ヤヌシの力について」


「・・・はい」


「今度砂岩にあった時に文句を言うとしようか。ヤヌシ。儂はミライと話がしてみたいんだけどダメか?」


「聞いてみようか。オモチ。タワシを呼んでくれない?」


「良いわよ~」


「何?ヤヌシ!」


 オモチが返事をした次に瞬間にタワシが右肩に乗っていた。


「ごめんねタワシ。楽しんでいる最中なのに。ヤスリがミライと話をしたいらしいんだけどダメかな?」


「ミライは『嫌っ!』て言ってるよ」


「そっか。なら仕方ないね。ヤスリ、聞こえたでしょ?」


「聞こえた。なら仕方ないな。なら本体も見に行かない方が良いのだろうか?」


「ミライは仕事部屋からなら見ても良いって言ってる~」


「しごとべやって何だ?」


 近づくのもダメなのか。まぁしょうがないね。ミライは人見知りだから。でも何で私に話しかけてこないんだろう。ミライの力なら私だけに声が聞こえるようにできるのに。


「あとで案内するよ。今からあっちへ行っても良いけどきっと君は後悔するから」


「後悔?」


「遅かれ早かれだから行ってみる?」


「意味が良く分からないけど儂はミライを見てみたい」


「なら行こうか。最初に言っておくけど仕事部屋に人間が三人います。今から会う人間はちょっと特殊だからね。気にしないでね」


「・・・。ちょっとだけ行くのが怖くなってきた」


 私が立ち上がると首元にネコ達が帰ってきた。ヤスリも私にくっついてくる。私の首に巻き付いたみたいだ。マフラーみたいな感じ?

 ネコ達がヤスリの体にくっついてみたりして遊んでいるみたいだ。ヤスリは怒ったりしない。みんなネコ達に優しいよね。


 正直、私は仕事部屋に行きたくないしUさん達に説明もしたくない。だけど避けては通れない道だ。ご飯前に済ませてしまおう。

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