第48話

 昨日は所長さんに電話をして「大地の守護者」こと砂岩の事を伝えておいた。何も知らずに来るよりかはマシだろう。私とタワシ達は朝食を食べてからの花壇と家庭菜園への水やりという、いつもの毎日を過ごした。


 そういつもの毎日。だた背中に砂岩がいることを除けば。昨日から砂岩は私の行動に何も言ってこない。ただ私がコーヒーを飲んでいるとコーヒーが飲みたいと催促してきた。これは絶対に守護対象の調査には関係ない。ついでにタワシ達にもココアを出してやる。


 このあとヘルパーさん達が来たら先生も参加する予定になっている。ヘルパーさんの業務が終わり次第、「あの子」を掘り起こす予定だ。私はまだ悩んでいるが・・・。


「そろそろ来ると思うんだけど」


「私は早く掘り起こしたいんだけどな~。まぁ我々は迷惑をかけた側だからしかたないね~」


 今日はそのキャラで行くのか?砂岩。


「悪いね、砂岩。私も食料品を買って来てもらわないとここで生きていけないからね。それに掃除もね」


「人間はいろいろと大変だねぇ~。ねぇ、これからも定期的にコーヒー飲みに来ても良いかい?」


 そんなに気にいったのかな?たまにならいいか。


「別に良いよ。私は基本的にここにずっといるからね」


「それはこの子達に聞いて良く分かったよ~。君はここから動く気がないみたいだから」


「そうだね。タワシ達も良く分かってるじゃないか」


 離れていたトウキが足に抱き着いてきた。褒められてうれしかったのだろうか。私はトウキの体を軽く触る。


「どんな人間なんだろうかな~。楽しみだよ」


「来てからのお楽しみだよ。私もできれば早く掘り返してしまいたいんだけどね」


「でもダメなんだろう?」


「うん、今はダメだね。私を心配して来てくれるから。この間の件で少し過保護気味になっている感じはするけど、心配してくれる人がいることには感謝しかないよ」


 そう、私にはもう家族はいない。タワシ達は私の中では家族認定しているが人間ではない。所長さんは亡き父の親友だったから私の事を気にかけてくれている。

 ヘルパーさんは仕事でだけど、優しい人。良い人には間違いない。ちょっと最近は趣味に暴走しているけども・・・。


「僕達にはあまり分からないかな~」


「そう?トウキはたぶんタワシを心配してここに来たんだよ」


「そうなのか?」


 急に大地様になる。トウキがびっくりするでしょ?


「そうか。訂正するよ~。僕にはだね」


「トウキ、急に話を振ってごめんよ」


 私の足をつかむトウキの手が少し震えている。やっぱり緊張しているんだな。それも今日までだから我慢してほしい。


 玄関の方から車の音が聞こえる。到着したみたいだな。さて、今日は外で出迎えないとあとが面倒だ。


「来たみたいだね。移動するよ」


 そう言うと体に砂岩とタワシが戻ってきた。私は急いで外にでる。玄関のドアを開けた時点でみんなに声をかける。


「みんな、少しの間だけ私から離れておいてね。危ないから」


「なんで?」


「すぐにわかるよ」


 私の体からみんな離れていく。そして少し前に出る。


「━ちゃん!」


 その瞬間、走ってくるような音とざざざっと何かが這いずるような音が聞こえた。 後者は何の音だろうか。


 そして私の体に激しい衝撃が・・・。来なかった。あれ?走ってくるような音が聞こえたと思ったんだけど。


「━━!ヤヌシ君、トウキに止めるように言ってもらえないか?」


 どうなっているんだ?


「良く分かりませんが・・・。トウキ、大丈夫だからやめていいよ」


 トウキが恐らく所長さんの奥さんをブロックしたんだろう。所長さんの奥さんは小さい頃から私に抱き着く癖がある。一度、会うたびに抱き着いてくる癖をどうにかしてほしいと所長さんに頼んだが無理と言い切られてしまった。でも二十歳を超えても抱き着いてくるのはおかしいでしょ?普通。


 しかも昨日、所長さんに引かないでって言われたからね。想定の範囲内だ。


「━━チーフ。何をしてるんですか?みんなびっくりしてますよ」


「ごめんなさいね。久しぶりでずっと我慢してたから。━ちゃん。今からゆっくりそっちに行くからね」


 私はこういう場合、どうすれば良いか分かっている。好きなようにさせて早く終わらせよう。分かっていても急に抱き着かれて体がビクッとなる。


「久しぶりね。━ちゃん。元気そうでよかった。━━ちゃんも喜んでいると思うわ」


 所長さんの奥さんは泣いていた。恐らく母の名前を言ったのだろう。亡くなった母とはとても仲が良かったから。


「お久しぶりです。所長さんの奥さん。相変わらず抱き着き癖は治ってないんですね」


「ふふっ。抱き着くのは━ちゃんだけよ。あんなに小さかったのに大きくなって」


「6歳過ぎたころから同じことずっと言ってるじゃないですか。とりあえず中で話をしましょうよ」


「そうね。ごめんなさい。でもまずはお線香をあげさせて。ずっと━━ちゃん達に挨拶してたかったから」


「どうぞ、居間に仏壇がありますので。さぁ、タワシ達戻ってきていいよ」


 1人、足音が離れて行った。奥さんだろう。タワシ達が戻ってきていつものスタイルになる。


「ごめんね、ヤヌシ君。今日は抱き着いてもいいかなと思って自由にさせていたんだけど。まさかトウキに止められるとは」


「どうなっていたんですか?」


「地面から木が生えてきて立ったままぐるぐる巻きにされてたんだよ」


「トウキは器用だね。私のためにありがとう」


 トウキの抱き着く力が強くなった。


「ヤヌシさんは知ってたんですか?」


「えぇ、じゃないとタワシ達を私から離れさせたりしませんよ。昔からですから」


「ごめんね。本当に。それで・・・。その背中の方が大地の『守り人』さん?」


「そうです。ここにいる間は砂岩と呼んでいます」


「どうも~、大地の守護者です。ここでは砂岩って呼んでね~。それにしても人間は騒がしいね!」


「あれを基準にしてはダメだよ。砂岩」


「僕の奥さんを「あれ」呼ばわりできるのは君ぐらいだよ。ヤヌシ君」


「カッコいい系ですね!いいですね!重くないんですか?」


 1人だけ違う方向で騒いでる人がいる。ブレないなぁ。どんな姿なんだろう。


「全く重くないですよ。むしろ首に手がないと背中にいることが分からないレベルです」


「さすが『守り人』さんだな。では自己紹介を・・・」


 所長さんとヘルパーさん、戻ってきた奥さんが砂岩に自己紹介を行ってから家の中に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る