「ヘルパーさん」こと「大木優」の夕食②

 春香チーフと青ちゃんがバイクの話で盛り上がっている。お酒が少し入っているからか熱量がすごい。バイクの事が一切分からない私は話に入ろうと思わない。


「すごいね~。春香さんのバイク話についていけるのは昔の仲間だけかと思っていたよ。青山さんもバイクが好きなんだね」


「そんな素振りは見せなかったので分かりませんでしたよ。ガチャガチャが大好きなだ人かと思ってました」


「人は見かけによらないってことだよ。僕はたぶんそうかなって思っていたけど」


「そうなんですか!?」


「雰囲気が若い頃の春さんに似ているって言ったら信じる?」


 雰囲気って・・・。それは関係ないと思いますよ。


「そうなんですか?私は関係ないと思いますよ」


「相変わらずの塩対応。嫌だね~」


 うざい。夏海ちゃんの気持ちが分かる。話を変えよう。


「いつも通りじゃないですか。明日、和田さんに会ったときに伝言とかはありますか?」


「僕から?そうだな~。あ!充君の家の家庭菜園を見ておいてくれない?食べれそうな野菜は取ってあげて。特にニンジンをお願い」


「メッシュさんの分ですか?」


「そうそう!!あの子はケーキよりもニンジン派だからね。あそこまで行くとただのウサギにしか見えないよ!」


 まぁ見た目はウサギですから。間違ってはいませんよ。それにしてもテンションが高い。お酒のせいかしら?


「上手くいけば大木さんもメッシュと戯れることが出来るんじゃない?」


「そうですかね?かなり気難しそうな『守り人』っぽいですけど・・・」


「それは違うよ~。あの子は困っているだけだ」


「困ってる?」


「そうだよ。どういう風に人間と接すればいいか分からないんだ。今まで人間を敵視していたからね」


「本当ですか?そういう風には見えませんでしたが」


「人見知りなんだろう。明日は積極的に声をかけてあげて。そして可能な限り夏海は近づけないようにして」


 後半が本音ですか?でも不安なのは良く分かります。もしメッシュさんの人間嫌いが悪化したら困りますよね。


「今日の様子だとメッシュさんは問題ないと思いますよ?ネコちゃんと仲良く一緒にニンジンを食べてましたし」


 青ちゃんが私達の話に参加してきた。バイクの話は落ち着いたのかしら。でもその話は詳しく教えてほしい!!動画はないかな?


「青ちゃん、そんなことがあったの?動画はない?」


「優ちゃん必死すぎ。落ち着きなさい」


「すみません。想像しただけで可愛いと思ったので」


「気持ちは分かるわよ。で動画はある?」


 春香さんも欲しいんじゃないですか。人の事は言えませんよ!!


「すみません。他の子の相手をしていたもので手がふさがっていました」


「仕方ないよ!青山さんは悪くない。そういう時にうちの娘がいれば・・・。『守り人』達から不人気でもカメラマンとしては優秀だからね!」


 所長がさらっと酷いことを言ったわね。事実だけども。


「今日見る限りではネコちゃんはメッシュさんと一緒に居るときが多いみたいですね。メッシュさんの背中にしがみついている所を見かけましたよ。ただ業者が来た時に無理やり避難させてからは和田さんから離れなくなってしまいましたけど・・・」


「それまでは普通に離れたの?」


「はい。朝も挨拶しようとしたら自分から私の手の中に来てくれました。それからしばらくは私と遊んでいましたし」


「それ本当!?」


 なら私も明日ネコちゃんと遊べるかも!!


「だから優ちゃん落ち着きなさいって!ネコちゃんを充ちゃんから無理やり引き離したのは良くなかったわね。夏海の小さい頃に同じようなことがあったわ。たぶん明日は離れたくないモードに入っている可能性が高いわ」


「そんな~」


「仕方ないよ。明日は無理やり触ろうとしない事だね。よくネコの様子を見てから遊ぶように。あとついでに体の汚れも見ておいてね」


「体の汚れですか?それはネコちゃんの?」


 そういえば青ちゃんにはマヨネーズの件を話してなかったかも。すぐに所長が青ちゃんに何があったか説明した。


「そんなことが。和田さんは怒らなかったんですね」


「いや怒っていたよ。静かに」


「充ちゃんは静かに起こるタイプだもんね」


 そうなの?初めて聞きましたけど。


「表情では分かりませんでした。あれは怒っていたのか・・・」


「そうだよ。大木さん気付かなかったの?たぶんオモチは気付いていたよ」


 すみません。何も言い返せません。


「青ちゃんは大丈夫だと思うけど優ちゃんと夏海は心配ね。明日はネコちゃん接近禁止にしましょうか」


「えぇ?大丈夫ですよ!それくらいの節度はあります!」


「どうかしら。今までの言動を思い出してみなさい。説得力がないわよ」


「そ、そんなことはないですよ」


「まぁまぁ春香さん。私が見張ってますから大丈夫ですよ。夏海ちゃんも運転をした後ならそこまで元気じゃないでしょうし」


 それは大丈夫なの?


「そういえば明日は私が夏海ちゃんの練習に付き合うわね!青ちゃんばっかりは申し訳ないし」


「なんか罰ゲームみたいになってるね」


 なら所長が面倒見てくださいよ。できないでしょ?


「いいえ。明日も私にやらしてください。ちょっといい方法を見つけたんですよ。上手くいけば普通に運転できると思います」


 それはすごい!!青ちゃんに期待しよう。


「ごめんね、青ちゃん。娘がいつも迷惑ばっかりかけてしまって。青ちゃんがいれば安心ね」


 あれ、私は?


「本当だね。申し訳ないけど明日もよろしくね」


 だから私は?


「気にしないでください。私も楽しんでますから」


 もう何も言うまい。私の日頃の行いが悪いってことですね。私は持っていたお酒を一気に飲みほした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る