第105話

 先生から近所の奴らがほとんど引っ越したのを聞いた。昔の事を考えると個人的にはいなくなって清々してる。今は『守り人』達が自分でホットケーキを作って食べているみたいだ。トッピングで盛り上がっている。


「アイスも良いけどホイップも美味しい!!」


「そうだな!!蜂蜜だけも美味しいぞ!」


「これウィスキーと合うわ~」


「オモチ、絶対に他の子達には分けないようにね」


 私はオモチに釘を刺しておく。大丈夫だと思うけど万が一があってはいけない。


「すごいわ。こんなに可愛い空間があるなんて」


「動画をずっと取り続けてるせいで充電がなくなりそう・・・」


「ミカンちゃん、私が続きで撮るから安心して」


 私が座っている場所から右側のテーブルに座っている人達の言動が怪しい。恐怖すら感じる。


「このアップルパイも美味しいですね!こんなにサクサクしているケーキは初めてです」


 私の目の前で先生がアップルパイを楽しんでいるみたいだ。喜んでもらえて嬉しい。


「そういえばトウキちゃん、ホットケーキ食べたらこの間みたいにぬいぐるみの写真見る?」


「春さん、良いの??見る!!」


「何それ?」


「━━ちゃんは知らない方が良いわよ。見たらしばらく━━ちゃんが━━チーフを羨ましいって言い続けると思うから。私もだけど」


 君達二人はそうだろうね。でも春さんはコミュニケーションの一環でやっているのだと思う。


「ヘルパーさん、お願いがあるんだけど」


「どうしたの?マリモちゃん」


 珍しいな。マリモがヘルパーさんに食事以外でお願いするなんて。


「さっき買って来てもらった籠?に毛布を敷いてほしい。俺じゃ上手くできないから」


「良いわよ!ヤヌシ君の部屋にあるんだっけ?」


「持ってくる!!」


 各々がやりたいことをやっている。私もミライに会いに行ってこようかな?


「先生。タワシはまだ食べてますか?」


「いいえ。私が食べているパイに興味があるみたいですね。もちろん、あげませんが」


 タワシ。君も買って来てもらったろ?まぁ都合が良いや。


「じゃあミライに会いに行こうか。Uさん、肥料って何処にありますっけ?」


「どの肥料を持って行くの?」


「今日は簡単あげれる液体肥料にしようと思う」


「ちょっと待っててね」


 Uさんがどこかに行ってしまった。そういえば肥料は何処に置いたんだろう。


「はい、これで良いと思うわ。これを地面に刺すだけよ。ここを切ってね」


「これか・・・。ここだね?分かった。これならできるよ」


 触った感じだとペンみたいな形をしている液体肥料だ。尖っている方を折って刺すだけという簡単な作りだ。


「じゃあ行ってこようかな。案内はオモチ頼める?」


「いいわよ~」


「私も行きましょうか?」


「先生達はここで休んでいてください。来ても近寄れませんし」


「分かりました。オモチ、頼みますね」


 私はオモチに案内されながらミライの前まで移動した。


「あたしはちょっと離れてるから終わったら言ってね~」


「ありがとう!」


 この場には私とタワシ、そしてミライだけとなった。私は右肩に乗っているタワシを左手で鷲掴みして頭の上に移動させる。タワシに自力で頭の上に移動されるとかなり痛いからね。最近はタワシを掴んでも逃げなくなった。信頼されていると思いたい。


「ミライ、大丈夫?元気になったって聞いたけど」


「ヤヌシ、来てくれてありがとう!」


 ミライの声が頭に響く。前回よりは声が元気な感じがする。


「ミライ、僕もいるよ!ヤヌシ、さっきのホットケーキ美味しかった!」


「良かったね、タワシ。ミライも食事が出来ればいいのだけどね」


「もうちょっと大きくなったらできるわ。私もケーキ?が気になっているから楽しみなのよ!」


 植物なのにケーキを食べることが出来る?どういう事だろう?聞きたいけど制限時間があるから今日は肥料を優先しよう。


「ミライ、今日は肥料を持ってきたけど使用しても良い?」


「本当?おねがい!」


 ミライの声が大きくなる。ミライにとっては緊急性の高いお願いだったのかもしれない。


「ヤヌシ、それでミライが元気になるの?」


「タワシ、これは植物にとってのご飯みたいなものだ。元気になると思うんだけど・・・」


「だけど?」


「育樹のような特殊な植物でも効果があるのか不安なんだよ」


「大丈夫よ!!早く使って!!」


 何でそんなに急いでいるんだ?もしかして今日は話せる時間が短いの?


「ミライ、私は目が悪いからタワシにお願いするよ。刺して使うんだけど何処に刺すか指示してあげてほしい」


「僕、頑張るよ!」


「え?そ、そうね。よろしく」


 あからさまに動揺しているな。タワシに刺してもらうのが不安なんだろう。気持ちは少しわかるけどこればっかりは仕方ない。


「こうやるんだよ、タワシ」


 私はタワシにやり方をしゃがんで実演した。


「ヤヌシ、そこで良いわ!」


「え?僕がやりたかったのに・・・」


「まぁまぁ。タワシには次の時にお願いするよ。じゃあミライやるよ!」


 私はしゃがんでペン型の肥料入れの先端を折って地面に刺した。このままで良いはずだ。効いているのかな?


「ミライ、どんな感じ?」


「ミライ大丈夫?震えてるよ」


 タワシが現状を教えてくれる。震えてるって、若芽の状態でか?本当に大丈夫?


「来たわ~!!!やっと上質な肥料が来たわ。これを定期的に摂取できれば大きくなれる!」


 これで大きくなれるのか?良かった~。


「この肥料で良いの?」


「えぇ、十分すぎるわ。ありがとう、ヤヌシ。タワシもね!」


「良かったよ~。何も言わないから何かあったのかと思ったよ」


 タワシも心配だよね。ミライの友達一号だし。


「本当だよ。見えないとこういう時に困るんだ。ねぇミライ。他の『守り人』や人間も君とお話ししたいと言っている。君が嫌がっているのは知っているけど、どうしてもダメなの?」


 すぐにミライから返事が返って来ない。即答で「嫌っ」て言われると思ってたから以外だ。少しは可能性があるみたいだ。


「条件があるわ」


「条件?」


「えぇ。『守り人』はトウキ。人間はヘルパーさん。この二人なら良いわ」


「なんでこの二人のなの?」


「タワシからよく話を聞いているからかな?少しずつ会う人は増やしてもいいかもしれない。でも少しずつよ!!ペースは私が決めるわ」


「ありがとう。私としてはみんな仲良くしてほしいと思っている。君を傷つける人はここにはいない。それだけは信じてほしい。こんな私だけど君の事は精一杯守るよ。君も家族の一員だから。もちろんタワシもだよ」


「ありがとう、ヤヌシ!!」


 タワシが私の頭の上で足踏みしている。これは少し痛い。


「私も家族なの?」


「あぁ、そうだよ。当たり前じゃないか」


「あ、ありがとう。私も早く大きくなるわね!」


「あまり無理しないでくれ。それで肥料はどれくらいの間隔で持ってくれば良い?」


「タワシに持ってきて欲しい時に伝えるわ!それで今からトウキとヘルパーさんに会うの?」


「そろそろ時間じゃないの?」


「肥料のおかげで今日はもう少しは大丈夫よ!」


「分かった。タワシ、Uさんとトウキを呼んできてくれる?」


「分かった!」


 タワシが私の頭から降りて二人を呼びに行った。ヘルパーさん、巻き込んでしまって申し訳ない。

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