第23話

 ヘルパーさんが来た日の夕方

 トウキ達の仲間。先輩というべきなのか分からないが、「先生」が挨拶にやって来た。


 こんな時間に山奥の我が家に来客など普段では絶対にありえないことなのでかなり警戒していた。だがトウキの事などを聞いていくうちに外ではなく家の中で話をしようと思った。


 そこで問題が発生した。先生は体がとても大きいらしい。

 先生はどんな姿をしているのだろうか?

 そういえばスルーしていたが、「普通なら私を見たらみんな逃げだす」と言っていた。自分が恐怖の対象になっていると。


 聞いていいものなんだろうか?


「ヤヌシさん、もしかして私がどういう姿をしているか考えてますか?」


 やばい・・・顔に出てただろうか?


「えっ・・ええ。聞いていいものかどうか悩んでました。先ほどはスルーしましたが先生が自分の事を恐怖の対象として見られていると仰ったので・・・むやみに聞くと先生を傷つけるかもしれないと考えてました」


「そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。むしろ恐怖の対象として見てもらわないと困りますので。私はそういう存在だと思ってください」


 話している限りでは全く怖くない。樹の守護者とは実際は何をするのだろうか?


「でもヤヌシさんは目がほとんど見えてないのであまりこの姿の意味がないかもしれませんね。今日は私の姿をタワシぐらいの大きさになるように小さくしましょう。これなら家に入ることが出来ますね」


「そんなことできるんですか?」


「えぇ。私たちは大きさや重さは自由自在ですから。それなりに訓練は必要ですが

 」


 そういえばトウキも重さを変えることが出来た。


「トウキも大きさは変えられるの?」


 足元にしがみついているトウキに質問する。


 足を軽く一回叩く。出来ないらしい。


「そうか~。なら訓練頑張ってね。タワシはどうなんだろう?」


「タワシは大きさも重量も変えることはできませんよ。まだ若い守護者ですから」


 タワシの代わりに先生が答える。やっぱりタワシは子供だったんだな。


「なるほど、ありがとうございます。先生。では中に入りましょうか」


「はい。じゃあ私はヤヌシさんの左肩の上に失礼します」


「え?」


 左肩に先生が乗ってきた。でもとても軽い。

 すごいな先生。タワシも頑張って訓練して軽くなってくれ。地味に重いからね、君。


 玄関から中に入りテーブルの方に移動する。

 話がそれてしまったため、先生がどういう姿か結局わからなかった。


 気にはなるが、目が悪い私にとってはあまり関係ない話みたいだ。

 今度また機会があれば聞いてみよう。


 人間ではないとはいえ来客に違いはない。


「先生は甘いものは好きですか?」


「お構いなく。ヤヌシさんも目が悪いのだから無理はしないでください」


 先生に悪意がないと分かっているが、

「目が悪いのだから無理はしないで」という言葉は私が言われたくない言葉ナンバーワンだ。もちろん嫌いな意味で。


 こういう時は逆にできるというところを見せつけたくなる。


「目が悪いだけなので問題ないですよ。先生。テーブルの上でちょっと待っててください」


 そういってキッチンへ移動する。


 いつもタワシ達に出す冷凍フルーツと飲み物でココアを準備した。

 容器はタワシ達と同じような入れ物にしよう。ココアは汁椀に入れた。


 コーヒーを出すかどうか悩んだが、今までのタワシ達を見ていると『守り人』は甘いものが好きなイメージが強い。


 それらを持ってテーブルに移動する。

 先生がテーブルのどこで待っているかわからないので私が座った正面に飲み物などを置いた。


「良かったら食べてください」


「ありがとうございます。これは何ですか?」


「ココアという甘い飲み物と、ブルーベリーという果物を冷凍したものですね。冷凍の果物はタワシ達の好物ですよ」


「これが例のやつですか。この飲み物も美味しそうですね。では失礼していただきます」


「飲み物が飲みにくかったら言ってください。容器を変えますので」


「ありがとうございます」


 先程からタワシ達の催促がすごい。

 おそらくだけど、ココアが欲しいのだろう。


「分かったよ。タワシ達の分も準備するからちょっと待ってて」


 私はキッチンへ準備するために戻る。ついでに自分の分も作ろう。

 タワシ達は私から離れてテーブルで待っている。


 キッチンとテーブルを2往復しイスに座る。

 私もココアを飲む。久しぶりだが、美味しい。


 テーブルの上では恐らくたわしが喜んでいる。

 足踏みのような音が聞こえる。


「トウキ、ココアは飲みづらくない?」


「できればトウキ達もヤヌシさんと同じような入れ物が良いそうです」


 そうか、コップがいいのか~

 えっ待ってトウキ達?


「タワシもですか?」


「えぇ。ついでに私もお願いしてもいいですか?」


 私はキッチンへ行きコップを3つ持ってテーブルに帰ってきた。


「すみません。コップみたいに取っ手のあるものは掴めないものだと思い込んでました」


「取っ手を使わなくても容器を直接持ちますので」


 なるほど、確かにそうだ。


「タワシ、お前そんなことが出来たのか?」


 テーブルの上で足踏みのような音がする。


「タワシは子ども扱いするなと怒っています」


「ごめんね、タワシ。そういうつもりではないんだよ。私の中のイメージがね・・・」


 言っている途中で気づいた。そうだ先生に聞けばいいんだ!


「先生!トウキ達はどんな姿なのですか?」


 ちょっと声が大きくなってしまった。


「どんなと言いますと?」


「例えばリスに似ているとか、ネズミみたいとかですかね。どうもトウキ達がどんな姿をしているのかイメージが湧かなくて」


 先生が悩んでいる。どうしたのだろう。


「すみません。私たちは恐らく動物の姿を模して生まれてきたのですが、動物の名前までは知らないんですよ」


「そうなんですか?森の事は何でも知っていそうですが」


「樹の事なら何でも知っていると言えますが、それ以外の事はヤヌシさんとあまり変わらないと思いますよ」


 やっとタワシ達がどんな姿をしているのか分かる(2回目)と思ったが、うまく答えを得られなかった。

 いつになったら答えが得られるのだろう。中々うまく事が進まないものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る