第22話
ヘルパーさんが来た日。
私達は夕食(デザートのみ)を食べて椅子に座ってゆっくりしていた。
明日は所長がなぜかヘルパーさんと一緒にやってくる。
なんでヘルパーさんも?
もしかして辞めるのかな。目が悪いって言ってたし。何歳か知らないけど、年で車を運転するのが難しいのかも。
そうなると寂しくなるなぁ。良い人だったのに。最後に「ありがとうございました」とちゃんとお礼を言わなければ。
所長にはチーズケーキをお願いした。明日みんなで食べる分と2人が帰った後でタワシ達と食べる分だ。
食べるかどうかわからないが、この間のバターケーキの事を考えると食べると思っている。
楽しみだなぁ。本当に最近は楽しみが増えた。いい事なんだろう。
半月前までは一人で静かに過ごしていたのに。とても昔に感じる。
お風呂の準備でもしようかと考えていたら、チャイムが鳴った。
そうチャイムが鳴ったのだ。
夕方時に山奥にある我が家に人が来るのは怪しい。
宅急便はこの時間に来ない。宅急便が来るのは午前中に来ると決まっている。配達人曰く、午前中にここに来ないと荷物を配り終わることが出来ないないらしい。
私は玄関に向かう。玄関には金属バットが置いてある。
所長さんが念のために置いてくれたものだ。
「どちら様ですか?」
少し声が裏返っていたかもしれない。
「こんな時間にすみません。私はその子たちに知り合いと言ったら分かっていただけるでしょうか?」
「その子たちとは?」
嫌な予感がする。
「あたながご飯を上げている子達ですよ」
いやいやいや。タワシ達は私以外は見えないんじゃなかったの?
「少々お待ちください」
小さい声でトウキに尋ねる。
「トウキ、玄関の先にいるのは君たちの知り合いか?」
足が軽く2回叩かれる。「はい」ってことは知り合いか。
どうしよう。まさか言葉をしゃべる人?がいるとは思わなかった。
「分かりました。外でのお話でもよろしいですか?」
「もちろん。構いませんよ。ありがとうございます」
私は金属バットを片手にドアを開ける。
そしてドアにもたれかかり、いつでも中に入れるようにした。
「すみません。物騒かもしれませんが、許していただけると助かります」
「大丈夫です。目が悪いと伺ってますから警戒するのは当然だと思います。ましてやこんな時間の山奥に訪問者ですからね」
パッと見では私が視覚障害だとはわからないはず。分からないように白状も持ってこなかったのに。
「あなたの足にくっついている子から聞いたのですよ。いつも仲間がお世話になっています」
私は少し肩の力を抜く。警戒を解くわけにはいかないが、相手は理性的だ。
本当にこの子達の仲間か?
「本当にこの子達の仲間なのですか?あなたは人間にしか思えないのですが・・・」
「えぇ、そうですよ。あなたは目が悪いから確かに私を人間に間違えても仕方がありませんね。普通なら人間が私を見たらみんなこぞって逃げだします。人間から見たら私は恐怖の対象みたいなので」
変なことを言う。どういう意味だろう。
「申し訳ありません。ちょっと仰ってる意味が良く分からないのですが、あなたは人間ではないのですか?」
「私は樹の守護者。あなた達、人間からは『守り人』と呼ばれています。ご存じでしょう?」
樹の守護者、『守り人』?。何の事だろう。聞いたこともないが・・・
「すみません。聞いたことがありません。でも『守り人』ってことは人間じゃないんですか?」
「それはそちらが勝手に呼んでいるので何とも言えませんが・・・でも、そうですか。それなりに有名だと思っていたのですが、ちょっと恥ずかしいですね」
目の前の守護者さんは声が震えている。本当に恥ずかしそうだ。
「私の家にはテレビやラジオといった外部の情報を取り入れる機械がないもので・・・特にここ数年の出来事は全く知りません」
「なるほど。なら納得ですね。我々は約3年前に生を受けましたから。そちらの事情も知らず申し訳ない」
なぜか謝られてしまった。良い守護者?だな。
「それでそちらの要件というのは?」
「いえ、私の仲間がそちらで厄介になっていると聞いたので是非一目お会いして挨拶をと思った次第です」
「そうだったんですね。わざわざ、すみません。タワシ達とは仲良くできてると個人的には思ってます」
「タワシ達?」
「あっ、すみません。勝手に呼び名を付けちゃったんです」
「なるほど、ちなみにどういう名を?」
「肩の子にはタワシ、足の子にはトウキと呼び名を付けました。本当は可愛い名をつけてあげたいんですが、私の都合で付けれなくて・・・」
「良い名だと思いますが、何か不都合があるのですか?」
どうしよう。初対面の人に記憶障害のことを言っていいものなんだろうか?
あとトウキなんでそんなに足を叩くの?
少し悩んだが、私の事故の事や記憶障害の事について説明した。
「そうだったんですね。だそうですよ。トウキ。何か言いたいことは?」
トウキの足を叩く力がかなり弱くなった。どうしたのだろう。もしかして・・・。
「もしかしてトウキは自分の名前が嫌だったんですかね?」
「そうみたいです。私のところに来ては文句を言っていたので」
なるほど。それは申し訳ない。
「そうだったんですね。トウキの腕を触ったときにすべすべして陶磁器みたいで綺麗だなと思ってトウキと呼ばしてもらっていたんですが・・・」
「陶磁器が何か知りませんが、あなたは綺麗だそうですよ。トウキ。まだ納得いきませんか?」
トウキは足を叩かない。良いのだろうか?
「何か言ってますか?」
「えぇ、事情を知らずに文句を言ってごめんと謝っていますね。珍しい」
「珍しいんですか?」
もしかしてトウキはプライドが高いタイプなの?
「珍しいですね。この子は中々自分の非を認めない子なので。良い傾向です。これもあなたと一緒に生活しているからでしょうか?」
どうなんだろう。こればっかりは分からない。
「どうでしょう・・・。そうだと良いですね。というかどうやってタワシ達と会話をしているのですか?」
「我々は本来言葉を話す必要はないのですよ。相手の頭に直接言葉を投げることが出来るので」
「そうなんですね。でも今は声に出していますよね?」
「えぇ、だって人間はこうやって声を出して話すのが普通ですよね?私はしゃべることもできますので」
「教えていただいてありがとうございます、守護者さん。そうだ、私の事は「家の主」でヤヌシと呼んでください」
「分かりました。ヤヌシも私の事は先生と呼んでください。皆にはそう呼ばれています」
先生かまとめ役だけじゃなく教師役もしているのか・・・大変だな。
「はい、わかりました。良かったら、中に入って話をされますか?2人の仲間なのなら歓迎しますよ」
「そうしたいのは山々なんですが・・・ちょっと難しいですね」
何だろう。歯切れが悪い
「やっぱり人間の家には入れませんか?」
「いや、そういうわけではないんです。体の大きさ的な問題で・・・」
私の中の守護者のイメージは実物よりもとても小さかったみたいだ。
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