第91話

 今日はヘルパーさんの日。事前準備もばっちり!いつも通り、縁側にも荷物を移動済みだ。あれから先生はやってこなかった。どうしているんだろう。今日は先生を呼ぶつもりだ。気分転換になればいいけれど。


 お昼ご飯はカレーにするつもりだ。簡単だし、たぶんみんなも好きになってくれるだろう。レトルトご飯が足りるか心配だ。


 リビングで雑談をしていると玄関の方から車の音が聞こえる。たぶんヘルパーさんだろう。私は玄関へ向かう。移動しているとチャイムが鳴った。


「どちら様ですか?」


「私です!ヘルパーです」


 何だかいつもより声が高い気だする。私は念のためドアを開けずにドア越しでヘルパーさんに声をかける。


「おはようございます。ヘルパーさん」


「え?おはようございます」


 何か違う気がする。私は小さな声でオモチにお願いする。


「オモチ、この向こうにヘルパーさんがいるか分かる?」


「いるけど一人じゃないわよ~。二人よ」


 ということは春さんかな?たぶんだけど。なら・・・。


「昔、旅行先で私の母とどちらが温泉卵を食べれるか勝負して温泉の中で全部戻したことがある春さんですか?」


「ちょ!ちょっとまって━君!ごめんって!ちょっとふざけただけじゃない」


 私はドアを上げる。玄関先で二人を出迎える。


「今はみんながいるから良いですけど、私にとって来客は神経使うんですから冗談でもやめてくださいね。春さん」


 私から見て右側からヘルパーさんの声も聞こえる。


「おはようございます。━━さん、今日はどうですか?」


「ダメ見たいです。今日も色々とよろしくお願いします」


「止めたんですけどやるって聞かなくて。すみません」


「ヘルパーさんが謝ることじゃないですよ。で、春さんはどうしたんですか?」


「旦那から今日の話を聞いてね。たまたま休みだったから参加させてもらったの!」


 参加させてもらったの!じゃないよ。相変わらずだなぁ。


「いいんですか?家の事をしなくて」


「良いのよ!旦那がするから」


 所長さん、家でどういう扱い何だろう。


「じゃあとりあえずヤヌシちゃん!」


 春さんが抱き着いてきた。『守り人』のみんなは私の体から逃げていった。春さんはまだ駄目なのね。


「春さん、もう離れてください。今日はいろいろあるんですから」


「ヤヌシちゃんが冷たい・・・。小さい頃はあんなに抱き着いてきてくれたのに」


「何歳の時の話をしてるんですか。ヘルパーさん、所長から話を聞いてますか?」


「えぇ聞いてます。でも私で良いんですか?」


「ヘルパーさんだから良いんですよ。私の次にみんなから信用されてますから」


 カシャっと音がする。


「写真を撮りました?」


 私は問いかける。


「えぇ。今の━ちゃん。凄い顔をしていたからね。あとでからかってあげるの」


「そうですか。で、ヘルパーさんは?」


「心ここにあらずって所ね。━ちゃん!」


 バシッと音がする。物理的に起こしにいったな。


「はっ!すみません。意識が飛んでました」


「良かったじゃない!『守り人』のみんなから信用されてるって!」


「はい、嬉しいです!買い物と車の件は大丈夫ですよ。でもどうやってオモチさんを連れて行くんですか?」


「考えがあるみたいですよ。トウキ、お願い!」


 いつの間にか私の足にくっついていたトウキが私から離れていった。


「ヘルパーさん、これをつけて!」


「これを?ちょっと大きいかな~。はい、腕を通したよ。・・・。え?」


「トウキちゃん凄いね~、大きさを変えれるのね!」


 上手くいったみたいだ。どんな見た目かは知らないが、見た目に関しては我慢してもらいたい。


「買い物の時だけ我慢していただければと思います。オモチ、行けそう?」


「大丈夫よ~」


「腕輪の色が・・・。やっぱりすごいわね『守り人』!」


 春さんが感心している。腕輪に水を入れたら色が変わったのだろう。


「ヘルパーさん、大丈夫ですか?」


「はい!大丈夫です。これで良いんですか?」


「えぇ。あとはオモチの分体が腕輪に入るはずです。だよね?オモチ」


「そうよ~。出る直前に入るわ~!」


「ではいつも通りボイスレコーダーと必要なお肉などを教えていただけますか?」


 私はボイスレコーダーをヘルパーさんに渡して口頭でも買い物をお願いする。ヘルパーさんが書き物が終わったタイミングでトウキが声をかける。


「ヘルパーさん、今日はぬいぐるみはある?」


「ごめんね。まだできてないんだって~。今日はスーパーで買ってくるから楽しみにしていてね!」


「そっか~。でも買って来てくれるのなら楽しみ!」


「良いんですよね?ヤヌシさん」


「えぇ。そのためのオモチでもあります。今から先生もお呼びするのでケーキとかも選ぶことになるかもしれません」


「分かりました。━━チーフはどうしますか?」


「私はヤヌシちゃんと話しながら、こっちで掃除をしといてあげるわよ」


「良いですよ別に!私の仕事ですよ。春香チーフは休みでしょ!」


「良いのよ!好きでやっているんだから。私はヤヌシちゃんにお願いもあるしね」


 お願いか~。何だろう。そうだ、忘れてた!


「ヘルパーさん、途中までみんなを乗せていってあげてくれませんか?」


「えっ、どこまでですか?」


「この間、あたしが消えた場所でいいと思うわ~!」


「あそこまでですか。良いですよ~」


 そこのさじ加減はオモチにお願いしようかな。ヘルパーさんに迷惑をかけないように注意しておかないと。


「さて。誰がヘルパーさんの車に乗っていく?」


「ヤヌシは乗らないの?」


 トウキが声をかけてくる。


「私は乗らないよ。やることがあるからね。でもオモチの本体がいるから安心して行ってくると良いよ。それにすぐに終わると思うし」


「そうなの?なら行ってこようかな!」


「俺も興味ある!」


 タワシも足踏みしているから興味あるんだろう。


「みんな行ってらっしゃい!終わったら帰っておいで!」


「じゃあみんな車に乗ってね~。では行ってきます!」


 少しして車が発進したみたいだ。


「━ちゃん、ちゃっかりカメラを起動してたわね。録画してるんだと思うわ。後で見せてもらおうっと!じゃあヤヌシちゃん。私はまず━━ちゃんに挨拶させてもらうわね~」


 春さんも家の中で両親の仏壇に挨拶しにいったみたいだ。『守り人』のみんなが無事に帰ってくればいいけど。

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