第180話

「わ~!可愛いですね。されるがままじゃないですか」


 私がネコをコネコネしていると青さんが弾んだ声で発言する。これからミカンちゃん達と握手をしてもらうために機嫌取りでネコと遊んでいる。ミカンちゃんの反応がないが大丈夫だろうか?


 先程までキッチンにいる春さんの姿をみて発狂していたミカンちゃんだがUさんみたいに固まってしまったのかな?私の目の前に座っているUさんは動画を撮ることに集中しているらしい。


「ミカンちゃん。大丈夫?」


「は、はぃ。可愛すぎる。ネコちゃんを持って帰って良いですか?」


「無理でしょ?普通に犬や猫を飼った方が良いよ」


「正論で返さないで!なんでいつもヤヌシ君の所にばっかりに集まるの?」


「それは私が聞きたいよ」


「いいじゃない━━ちゃん。そのおかげで私達も知り合えたんだから」


 Uさんがミカンちゃんを宥めているがミカンちゃんの発言はただの八つ当たりだよ?


「それで握手させてもらえるんですか?」


 青さんも食い気味に聞いてくる。二人とも我慢できないみたいだ。オモチにお願いしてネコに聞いてもらおう。


「今?って聞いているわよ~?」


「ちょっとで良いからね。この後も遊んであげるから」


「分かったって~」


 オモチの言葉にミカンちゃん達が騒ぎだすがその中にUさんの声も混じっているみたいだ。Uさんはさっき握手したでしょ?


「じゃあミカンちゃんからやってよ」


「いきなり私?大丈夫かな?」


「大丈夫だよ。ネコの気分が変わらないうちに早くやってしまおう。そのかわり握手できても騒がないでよ」


 私はミカンちゃんが座っている左斜め前にネコを掴んでいる左手を差し出す。ネコは私の親指に抱き着いているみたいだ。


「━━ちゃん。ネコちゃんの近くに人差し指を出して!」


「う、うん」


 ミカンちゃんは今まで『守り人』達と仲良くできていないから今回もダメだと思い込んでいるみたいだ。ネコに触るだけなのに緊迫した空気が流れる。私の目の前はどんな景色になっているのだろうか。


「よろしくね、ネコちゃん」


「握手できたの?」


「ちゃんとできましたよ!」


「それは良かったね。次は青さんの番ですね」


「私はちょっと外に行ってくる」


 ミカンちゃんはそう言い残すと足音が遠ざかっていく。また外へ叫びに行ったのだろう。ちゃんと叫ぶのを我慢できて偉いよ。


「はい、ネコちゃん。よろしくね。はいはい。よくできたね~」


「あ!」


「どうしたのUさん?大声を出すとネコが怖がるよ」


「だって━ちゃんがネコちゃんの頭をポンポン叩いたから」


「━さん。こういう時はちゃんと褒めてあげないといけませんよ。ミカンちゃんに言うと暴走しそうだったので言いませんでしたが」


「なるほどね~。参考になります」


 これは仕事でも同じな気がするな。褒めるとこは褒めないといけない。忘れていたよ。


「でもいいな~。私もやってもいいかしら?」


「ネコが嫌がらないのなら良いよ。でもUさんはさっき握手したばっかりじゃないか」


「握手は何度でもやっても良いのよ。はい、ネコちゃん握手~」


 ネコが私の親指にしがみついている。ほら~。だから言わんこっちゃない。


「Uさん。余計なことをすると嫌われるよ?」


「そうですよ」


「ごめんね。私も外に行ってくるわ」


 足音がまた一つ遠ざかっていく。外に行くのは最近の流行りなのかな?


「最近は外へ行くのが流行っているんですね。知りませんでした」


「私も初めて知りましたよ」


「ねぇ、━━ちゃん。手伝ってほしんだけど・・・。あれ?他の二人はどこ行ったの?」


「外に行きましたよ」


「ふ~ん。まぁどうでもいいわ。━━ちゃん、よろしく~」


「今行きます!」


 結局リビングには私一人になってしまった。手の中ではネコtが遊んでほしいと親指を引っ張っている。


「ヤヌシ」


「どうしたの?マリモ」


 マリモがやってきた。少しだけ頭の上がが重くなる。


「春さんが今日のお昼ご飯を少し食べさせてくれたんだ。とても美味しかった!!」


「そうか~。唐揚げはそういえばみんなに出したことなかったよね。あれは人間にもかなり人気がある食べ物なんだよ」


「そうなのか?肉まんみたいに今度から買ってほしい!」


「春さんに『私にお願いしてきなさい』って言われた?」


「・・・。そうだ」


 今日は春さんが料理してくれるけどいつもお願いするわけにはいかないからなぁ。


「分かったよ。でもそうなると肉まんを少し減らすからね」


「え?肉まんも食べたい!」


「そう言われてもね~。今でも買って来てもらう量は限界に近いんだ。無理を言ってはいけないよ。食べれなくなるんじゃないんだから良いじゃない」


「しょうがないな。みんなで話し合ってみる」


 タワシいなくなった。たぶん春さんのもとへ帰っていったのだろう。


「あれ?━ちゃんは?」


「春さんの手伝いに行きましたよ。ミカンちゃんはまだ外ですか?」


「私もいますよ。お騒がせしました」


「落ち着いたようで何より。今日のお昼ご飯はあまり食べれないかもしれないから先に謝っておくね。ごめん」


 私はUさん達に先程のマリモの件を伝えた。肉まんを始めて食べた時と近い感じがする。良く考えると今まで唐揚げが選択肢に出てこなかったのが不思議だ。たぶん私があまり唐揚げを食べたいと思わないからだろう。


「私達は家に帰ればいくらでも食べれるから心配しないで!マリモちゃん達が楽しめればいいから」


「そうよ!ヤヌシ君は気にしすぎよ。もうちょっと━━ちゃんを見習うべきね」


「どういう意味ですか?」


「そういえばミカンちゃん。トウキにぬいぐるみを持ってきてくれたの?」


「あ!トランクに入れたままだった。取りに行ってきます!!」


 ドタドタと音が遠ざかっていく。若いなぁ。


「元気で羨ましいよ」


「何言ってるの。ヤヌシ君だってまだ若いんだから」


「年齢の事を言うのならまたUさんの年齢聞き始めるよ?良いの?」


「・・・。私もキッチンへ手伝いに行こうっと!」


 そしてまたリビングが静かになる。この後かなり賑やかになるのは目に見えている。今のうちにゆっくりしておこう。私はまたネコを捕まえて遊びだした。

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