第212話

『守り人』達がニンジンの収穫を始めた頃。私はフウセンのコップを持って玄関の方へ来ていた。そろそろ青さんが来てもおかしくない時間だからだ。家庭菜園の近くにはミライの本体が植えられている。

 知らないとただの木にしか見えないはずだが私にはミライの本体の姿が分からない。もしかしたら存在感だけでばれる可能性もあると思った。念のためってやつですね。



 私としては青さんにもミライを紹介したいのだけど・・・。


「ヤヌシさん!何でこっちへ移動したんですか?」


「そろそろ青さんが来ると思うんだよね。こっちにいた方が都合が良いんだよ」


「なるほど~。みんながニンジンをどうするのか聞いてますけど・・・」


「え?」


 何でフウセンがそんなことを知っているの?


「なんで分かるの?」


「オモチ先輩に私の分体をくっつけていたんです。オモチ先輩は水の塊なので今の私でも分体を維持できるんですよ~」


 なるほど。そういえばフウセンは分体操作が得意って聞いていたのを忘れていたよ。


「ならオモチにお願いしてそのニンジンを洗っておいてほしい。いや、フウセンが出来るならフウセンにお願いしようかな~」


「出来ますよ!任せてください!!」


 フウセンは移動制限があるから何かと参加できていないことが多い。参加できるときは優先して楽しんでもらおう。


「ん?ネコ帰ってきたんだね。ちゃんと体は綺麗にしたの?」


 ネコが私の首元に戻ってきた。昨日のことがあって服が汚れていないか心配になる。


「大丈夫だ。俺がここに来る前に言ったからな。その後にオモチがネコを洗っていた」


 ネコ自身で気づいてほしいけどまだ難しいのかな?少しずつ成長してほしいね。


「ありがとう。メッシュ、オモチ。ネコは頑張ってた?」


「まだ力が弱いから上手くはできなかったが頑張ってはいたぞ。自分で取ったニンジンは自分で食べたいらしい」


 幼稚園のサツマイモ掘りの後みたいだな。でも気持ちは分かるよ。自分で収穫したものを食べたいよね。


「そうだね。後で食べよう。もちろんみんなでね。それで他のみんなは?」


「ニンジンをテーブルの上に置きに行ったわ~。あんなに大勢で行く必要はないと思うけど楽しいんでしょ」


 私の目からオモチの声が聞こえた。教えてくれてありがとう。


「教えてくれてありがとうオモチ。ならもうすぐ帰ってくるね。まだオモチのテリトリーには青さん来てないの?」


「来てないわよ~。バイクってやつでもここに運んでいいのかしら?」


「本人に聞いてみたら?」


「それもそうね~。バイクってどんなのかしら~」


 オモチも新しい乗り物に興味があるのか。さっきは黙っていたね。


「ヤヌシ、終わりましたよ。人間はああやって食材を作るのですね」


 先生が私の左肩に乗り話しかけてくる。


「そうですよ。すごいでしょ?まだ他にも家庭菜園に野菜が出来るはずだから楽しみにしておきましょう」


「そういえばジャガイモを植えるかどうかって話もしましたね。思い出しましたよ」


 そうそう。結局ジャガイモは次の機会にしたんですよね。あの頃は忙しかったから。今も忙しいけど・・・。


「そうですよ。そんな昔の話では・・・」


「来たわ!行ってきます~」


 オモチが大きな声で発言した。私が思っていた以上にバイクを楽しみにしていたみたいだ。


「良いな~。俺も少し様子を見に行ってくる!」


 マリモが私の頭の上から消えた。我慢できなかったか。


「良いな~。あたし達じゃ間に合わない」


 トウキが羨ましそうに言う。オモチ以外のメンバーだとマリモしか空を飛べないからね。


「そう言わないの。すぐにバイクを見ることが出来るさ。それにしても青さんのバイクどんなバイクなんだろう」


「そんなに種類があるんですか?」


「たくさんありますよ、先生。私は詳しくないですけど」


「あ、来たわ!!」


 タワシ達の歓声が上がる。そこまで喜ぶの?ガサっと音がした。スタンドを立てたのかな?足音が近づいてくる。


「おはようございます。ヤヌシさん」


「おはようございます!すみません。『守り人』達がバイクにとても興味を持ってしまって」


「みたいですね。私のバイクにみんなが小さくなって乗っていますよ」


 少し離れた場所で賑やかに騒いでいるのが良く分かる。


「みんな!あまりバイクに触らないようにね!バイクを倒さないように気を付けるんだよ!!」


「あたしが見ているから大丈夫よ~。絶対に倒れないわ」


 ・・・。壊さないようにね。


「それで冷凍庫を置く場所は決めていますか?」


「はい。もう決めています。代金はどうすれば良いですか?」


「所長さんから口座番号を聞きましたのでそこから引き落とさせてもらおうと思います。それで大丈夫ですか?」


 もうそこまで対応してくれていたのか。所長さん、ありがとうございます。

 本来なら口座番号を勝手に教えるのはあり得ないけど、普段からお金のやり取りは所長さんにお任せしている。今更だろう。今回はちょっと金額が大きいだけだ。


「はい、大丈夫です。それで冷凍品はいつくらいから配送してもらえそうですか?」


「そうですね。できれば━さん。いえヘルパーさんが来ている日にここへ配送してもらうようにする予定です。なので早くても明後日には第一陣が運ばれると思います」


「ありがとうございます。詳しい話は中で話しましょうか。みんな、中に入るよ!」


「もう少しばいくを見てる!」


 タワシが大きな声で返答してきた。そんなに気になる?


「分かった。むやみに触らないようにね!」


 私は青さんと一緒に家の中へ入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る