第36話

 車の音が遠くなっていく。私は玄関でヘルパーさんが車に乗って買い物に行く音を聞いていた。そしてそのまま外に出る。


「先生!いるんでしょう?」


 私は少し大きい声で話しかけた。


「えぇ、いますよ」


 私が立っている左側から先生の声が聞こえた。


「ヘルパーさんの言う通りでしたね。やっぱり気付きましたね」


「先生は優しいですからね。自分でも私の様子を見に来ると思いましたよ」


「今回の騒動の原因は私にもありますからね。当然です」


「守護者は自然を守るのが仕事じゃないですか。人間を警戒するのは当然ですよ。それはそうと、ヘルパーさんにケーキをお願いしたので一緒に食べませんか?」


「食べましょう!」


 タワシ達が騒がしくなる。


「大丈夫だよ。君たちの分もあるから。みんなで食べよう」


 タワシは肩の上で足踏みし、トウキは強く抱き着いてくる。


「先程、ヘルパーさんに体は問題ないと言っていましたが本当に大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫です。あれは一種のデッドボールみたいなものですから」


「デッドボール?問題ないのなら良かったです」


 左肩に何か乗った気がした。


「先生、準備は良いですか?」


「はい、中に入りましょう!」


 私達は家の中に入り、リビングへ移動した。リビングに到着すると先生はテーブルの上に移動したみたいだ。私はそのままキッチンへ移動してコーヒーを入れ、再びリビングへ戻りコーヒーを飲み始めた。。


「そういえばタワシ、トウキ。冷凍フルーツは夕食からで良いかい?今食べるとケーキが食べられなくなると思うから」


「タワシは考えてますが、トウキは大丈夫と言ってますよ」


「ありがとうございます。先生。タワシ達が喋れるようになるのは時間がかかるものなんですか?」


「そうですね。トウキはもうすぐだと思いますが、タワシはまだまだですね。まずはヤヌシの言葉を理解するところからですから」


「先生たちは直接話さなくてもやり取りできるんですよね?」


「えぇ。そうです」


「それって同じように私の頭に直接送れないんですか?」


「・・・・。やってみたことないですが、確かに言われてみればできるかもしれません。でもヤヌシの体調が万全の時にやりましょう。今は無理をしないことです」


「はい。分かってます」


 トウキが足をバンバン叩いてくる。


「トウキがあたしがやりたい!と言ってますね」


「いいけど、大丈夫?できるの?」


「分からない!と言ってます」


 言い切ったな。思い切りがいいなトウキは。タワシは静かにしている。私はタワシを触る。


「タワシも頑張って早く言葉が分かるようになってくれよ。楽しみにしてるから」


 タワシが私のひとさし指をつかんで上下に揺らしている。握手しているみたいだ。


「そうですよ。あなたはこの中で一番将来性があるのですから」


「どういうことですか?」


「守護者には各個体に何かしらの力があります。トウキは樹を操ることに長けていますし、この間の子は風を使ってや害虫から育樹を守ることが出来ます。ちなみに私は色々できますよ。この子達とは役目が違うので」


 先生の役目は戦闘って言ってたからそれに特化した力なのかな?


「タワシはまだ未成熟なのである程度、訓練をすると樹の守護者にふさわしい能力が備わるはずです」


「そうですか・・・。ちなみに前から気になっていたんですが、訓練って何するんですか?」


「そういえば説明してなかったですね。簡単にいうと私と戦うことですよ」


「先生と?でもタワシ達みたいな守護者って基本的に木を育てるのが仕事なんですよね?」


「えぇ、そうです。ですが、私のような戦闘要員が常に近くにいるとも限らないので最低限の戦闘訓練は受けさせます。あとは自身の存在を変化させることも訓練しますね」


「存在?」


「そうです。ヤヌシはこの子達がどうやってあなたの住処に入ってきてると思いますか?」


 おっ!前から聞きたかったことがついにわかるのか?


「知りません。てっきりどこかに抜け道でもあるのかと思いました」


「この子達は壁を通り抜けてヤヌシの住処に入っていたんですよ。これを我々は「すりぬけ」と呼んでいます。すりぬけは守護者にとっては基本中の基本ですね」


 まさか本当に壁をすりぬけているとは・・・。待てよ?


「じゃあ、もしかして人間が攻撃したとしてもその状態の場合は意味がないという事ですか?」


「はい。というかあなた達人間の武器は「すりぬけ」を使わなくても我々には効きません」


 なんてこった。そりゃ人間が『守り人』を恐れるのもしょうがないよ。


「それはすごい。じゃあ、この間の私の攻撃なんて意味がなかったですね」


「そうでもないですよ。「あの子」は驚いてすりぬけ出来ずに体制を崩してましたから。そういう意味では効いていたという事です」


 ダメージはないけど時間稼ぎぐらいにはなったって事か。それともう一つ疑問がある。


「だったらこの間の子は先生の籠からなぜすりぬけ出来なかったのですか?」


「上位の守護者が加工した物は簡単にはすりぬけできないからですよ。私でも難しいです。むしろ壊した方が早いです」


 上位守護者ってすごいな。ファンタジー世界の住人みたいだ。先生は話を続ける。


「すりぬけの次は「体重」と「体格」を思うがままに変化できることですね。これが中々難しくて、出来るようになるのに個人差があります。トウキは体格で躓いてますね」


 トウキが私の足を強く抱きしめた。


「トウキ、そう焦らなくても出来るようになるさ。君が体重を軽くしてくれているだけで私は助かっているんだから」


「照れてますね。ごめんなさい。余計なことを言わないでと怒られてしまいした」


 私が笑っていると玄関の方から車の音が聞こえてきた。

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