第37話

 玄関の方から音が聞こえる。ヘルパーさんが帰ってきたみたいだ。


「戻りました~。ヤヌシさんどこですか?」


「リビングにいます!」


「寝ていてくださいって言ったじゃないですか!あっ、先生。先程はどうもありがとうございました!」


「いえいえ、私の仲間が起こした不始末ですから。あなた達に伝えるのは当たり前です」


「それでもありがとうございます。ヤヌシさんはきっと私には言わなかったでしょうから。前に家で転んで足を折ったときも私が聞くまで言いませんでしたし」


 私は退院してすぐに室内で派手に転んだことがあった。捻挫だろうと放置していたらヘルパーさんに足を引きずっている所を見られてしまい、病院へ連れていかれ骨折だと診断されたことがあった。


 それ以来、私は転んでも良いようにゆっくりと動くようになった。あの時のヘルパーさんは今日以上に怒ってたな~。


「ヤヌシさん、薬局で打ち身にきくシップを買ってきましたから今すぐに張ってください。シップがなくなるまでの間は患部に張ってくださいね」


「えっ?ありがとうございます。すみません、わざわざ」


「何かおかしくなったらすぐに電話してくださいよ!本当にもう。はぁ、では私は冷凍庫に買ってきたものを片づけてきますね」


 足音がキッチンの方に遠ざかっていく。


「この間のヘルパーさんとは全然違いますね」


「先生、この間のヘルパーさんは私も知らなかった一面ですから。あれが本来のヘルパーさんのすがたですよ」


「ヤヌシ、それは違うと思いますよ。この間の姿が彼女の本来の姿でしょう。あなたのためにああやって振舞っているのです」


「私のために?」


「そうです。あとで彼女にお礼をしてあげてください」


「わかりました。私は失礼してお昼を頂こうと思います。お昼を食べ終わったらケーキを食べましょう」


「私も横で見ていてもいいですか?」


「え?良いですけど、ただ食べるだけなので面白くも何ともないですよ?」


「人間が食べる物に興味があるのですよ」


 ヘルパーさんが買ってきた物を片づけ終わってリビングに帰ってきた。購入金額と電子マネーのカード残高を聞く。


「ありがとうございます。さっき確認しておけば良かったのですが、打ち身用のシップも私のカードで払ってくれましたよね」


「・・・・。はい」


「ヘルパーさん?」


「嘘です。ごめんなさい!私が出しました。ヤヌシさんの電子マネーのカード使えなくて」


「ちゃんと言ってくださいよ!私のために買ってくれたんですから。いくらですか?」


「すみません、レシート捨てちゃったんで・・・。今回は私のおごりという事で」


「そういうわけにはいきません!でも、どうしよう・・・」


 分らないなら少し多めにお金を渡したいけど、受け取ってもらえないだろう。ヘルパーさんが受け取ってくれるとしたら・・・。


「なら作業を少し早めに終わらせて一緒にケーキを食べませんか?タワシ達の写真も撮っていいですよ?」


「え!?本当ですか!?いただ・・・・くわけにはいかないですね~。仕事中ですから」


 もう少しで陥落するとこだったのに・・・。それでもヘルパーさん、葛藤しているな。ちょっと苦しそうだ。しゃべり方が面白い。


「そうですか、ヘルパーさん。所長さんに電話してくれませんか?」


「電話ですか?わかりました」


 ヘルパーさんが電話で所長と話している。


「ヤヌシさん、所長ですよ」


「どうも所長さん、こんにちは!先日はありがとうございました。ヘルパーさんに今日だけ作業時間内に一緒にケーキを食べてもらいたいのですが良いですか?」


 所長さんにシップの件を説明して許可をもらった。


「ありがとうございます。ではヘルパーさんに代わりますね」


 ヘルパーさんに代わった。所長といくつか話して電話を切った。


「許可を頂きましたが、今日だけですよ?」


「えぇ、ちゃんと許可をもらっておけばヘルパーさんも遠慮せずに写真が撮れるでしょう?」


「はい!ありがとうございます!・・・じゃなかった。すみません。今日はいつもと状況が違いすぎて」


「いいんですよ。私と先生のせいですから。簡単な掃除だけお願いします。私はその間にお昼を食べようと思います。私がお昼を食べ終わったらケーキを食べましょう」


「わかりました!」


 声がいつもより大きいな。やっぱり楽しみなんだろう。タワシ達には悪いが被写体になってもらおう。


 私は先生に見守られながらお昼ご飯を食べた。久しぶりにスーパーのお弁当を食べた気がする。先生に質問されながら食べる弁当は食べた気がしなかった。先生も食べたいんだろうか?


 私は廊下に移動して掃除をしているヘルパーさんに声をかけた。


「ヘルパーさん、ケーキを食べましょう。手を洗って来てください。コーヒーで良いですか?」


「は~い!コーヒーで大丈夫です!」


 キッチンへ移動して準備を始める。


「先生はコーヒーとココア、どっちがいいですか?」


「ココアでお願いします」


「分かりました。タワシはココアでトウキはどうする?」


 下を向いて足にしがみついているトウキに問いかける。


「しつこい!って言ってます。ココアが良いそうです」


「ごめんって。からかってみたかっただけだよ」


 ケーキはヘルパーさんにお願いしようと思っているので飲み物だけ準備をする。 ヘルパーさんがやってきたのでケーキをお願いする。今日のケーキは「モンブラン」「ショートケーキ」「チョコケーキ」の3つ。全部2つずつ買って来てくれたらしい。


 タワシが肩の上で騒いでいる。トウキに聞いてもらったら全部食べたいそうだ。トウキも少しそわそわしている気がする。同じ気持ちなのかもしれない。


「じゃ~、私が全部食べれるように切り分けますよ!いいですよね。ヤヌシさん」


「えぇ、もちろん。先生も構いませんよね?」


「私もお任せしますよ」


「長方形のケーキを買っといて良かった!すぐに切り分けますね!」


 ヘルパーさんが切り分けてくれる。私は食事を食べたばかりなので少しで良いと伝え、残りをタワシ達の器に入れてもらった。


 その後みんなでお茶会をしてヘルパーさんと先生は帰っていった。ヘルパーさんは終始写真を撮っていたと追記しておこう。

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