「ヘルパーさん」こと「大木優」の報告③
私がヤヌシさん事、和田さんのお宅から事業所に帰ると私のデスクに所長が座っていた。
「所長、セクハラですか?」
「帰ってきて一番最初に出る言葉がそれかい?普通『ただいま戻りました』でしょうが」
「ただいま戻りましたが、セクハラですか?」
「あまり大きな声で言わないでよ!冗談じゃないか~。さぁ、何があったか所長室で共有してほしい」
「分かりました」
私達は所長室へ移動した。所長は自分の椅子に座り、私にも席に座るように言ってきたので来客席に座る。
「で何があったの?」
「今日、和田さんの家に車で向かっている最中に道を木で塞がれました」
「先生の仕業かい?」
「えぇ、私が車を停めると先生とタワシちゃん達が一緒にいました。そこで2日前に起こったことを教えてもらいました」
「2日前?何があったの?」
「先生たちの仲間の『守り人』が和田さんを攻撃したみたいです」
所長が立ち上がる。勢いでイスが後ろに倒れた。
「充君は無事だったんだよね?けがは?」
「所長、落ち着いてください。さっき電話で話をしたでしょう?」
所長が目を閉じて深呼吸した後に倒れたイスを持ち上げて座りなおしている。
「そうだったね。すまない。怪我はなかったという事で良いの?」
「いえ、打ち身で鳩尾のあたりの肌が赤紫になっていました。触っても痛くないと言っていました」
「病院に連れて行ったの?」
「それが・・・。先生がヤヌシさんが起きないことを心配して体を診たそうなんです。見る限りでは問題ないと言っていました」
「ちょっと待って。起きないってどういうこと?」
「ヤヌシさん、2日前の事件の後から私が行くまでずっと寝てたらしいんです」
「はぁ~」とため息をつきながら所長が上を向いて目頭を抑える。私も今日は疲れましたよ。所長。
「情報量が多すぎるね。確認するよ。充君は『守り人』に襲われて、大木さんが行くまで目覚めなかった。それで先生が心配になって充君の体を診て問題ないと診断した。だけど無傷とはいかずお腹が打ち身状態になっていると」
「そうです」
「先生、診断とかも出来たんだ。本当に多芸だな。そもそもなんで襲われたの?」
「そういえば聞いてませんでした。私も急いで和田さんの家に行ったので」
「確かにそうだね。まずは充君の確認が第一だ。私もそうするだろう」
「和田さんに病院に行こうと言いましたが拒否しました。なので買い物時に私が自腹で打ち身用のシップを購入して和田さんに渡しました」
「それがケーキの件につながるのか。なるほどね。やっと分かったよ」
「すみませんでした。でも、こうでもしないと和田さんにシップを渡せないと思いまして」
「和田さんのカードで買えなかったの?」
「使えませんでした。仮に使えても勝手に買うわけにはいかないでしょう?」
「そうだね。所長としては注意すべきかもしれないけど、僕個人としては良くやってくれたと思うよ」
そう言ってもらえると助かる。今考えると出過ぎた真似だったと思う。けど、あの時はそこまで考えられなかった。
「それでケーキを一緒に食べて写真を撮ったの?」
「はい!今日は帰るときに初めてトウキちゃんが手を振ってくれたんですよ!ちょっと嫌そうでしたけど・・・」
「楽しかったみたいで良かったよ。充君がちゃんと私に許可を取ってくれたからよかった。さすがに私の許可なしではまずかったから。たとえ契約主の要望でもね。電話は充君が言い出したの?」
「はい。私がどうしようか困っていたら電話してくれと」
「君に迷惑が掛からないようにと思ったんだろう。大事に思われてるじゃないか~」
和田さんが私を大事に?
「・・・セクハラですよ」
「そういう事にしとこう。でも、どうしようか。定期的に充君の情報が欲しいね」
私もそう思っていた。だがヘルパーとして伺っているときは世間話禁止の契約だから何も聞くことが出来ない。
「ん~、今日みたいにお茶会でも開ければな~。いっそのこと大木さんが充君と友達になってくれればいいんだけど」
私が和田さんと?想像つかない。
「付き合いは長いですが、話し始めたのはここ最近ですよ?無理ですって!和田さんもヘルパーさん認定してますし」
「いや方法があるにはあるんだ。ただ僕のダメージが大きいんだよ」
「どういうことですか?」
「君、僕の娘と仲良かったよね」
「えぇ、趣味が同じですから」
「知ってる。まさか連絡を取ってるとは思わなかったけど」
「春香チーフ経由で連絡先を教えてほしいと言われたので。あと夏海ちゃんから言わないでと言われたので」
「・・・・」
所長がとても悲しそうだ。
春香チーフは所長の奥さん。事業所を実質仕切っているは春香チーフだ。娘の夏海ちゃんと一緒に3人でご飯に行く仲だ。所長は結婚して遅くにできた子供である夏海ちゃんを溺愛している。そのため夏海ちゃんにとても嫌われている。
「夏海にタワシ達を見せたらどうなると思う?」
あぁ~。それはまずいかもしれない。下手したら和田さんの家を出禁になる可能性がある。私は顔をしかめる。
「夏海は充君に小さい頃、遊んでもらっているから面識もある。タワシ達を見たら喜ぶだろう」
「ならなぜ所長にダメージが?」
「もちろん、教えなかったからだよ。妻には言っているからね」
激しく言われそうだな。荒れそう。
「なら写真を何枚か送りましょうか?」
「僕が話をしたらお願い。行くって言ったら折を見て連れて行ってあげてくれないか?」
「所長が連れて行けばいいじゃないですか」
「僕と一緒に車に乗ってくれないんだ・・・。洗濯物を別にとかは受け入れたけど、まだ車の件は受け入れられないよ。でも大木さんが嫌なら別にいいんだよ。これは業務じゃないんだから」
洗濯物受け入れたんだ。所長にも原因があるから何とも言えない。私も和田さんが心配だし、タワシちゃん達とも普通に遊びたい。
「私も構いませんよ。仕事が休みなら」
「じゃ~、帰ったら夏海に言ってみるよ。話を聞いてくれればだけど」
「お願いします。どんどん話が大きくなってますけど、本当に国に報告しなくてもいいんですかね?」
「僕も先生から初めて話を聞いた時から思っているけど、下手に報告して先生の信頼を失うのはまずいよ。先生は充君を守護対象として見ているみたいだけど、私達は違うからね」
もう少し信頼関係を構築しないとダメみたい。確かに下手に育樹の事とかを伝えると変なことをする人間が増えるかもしれない。
その晩、夏海ちゃんから連絡が来た。私の撮ったベストショットを何枚か送ってあげると「早く行こう」と返事が来た。
どうしよう。連れて行くの少し怖い。
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