第39話
ヘルパーさんから打ち身用のシップをもらってから2日経過した。毎日張り替えているが患部がどうなっているのか分からない。トウキに聞くと赤紫色が薄くはなっているみたいだ。痛みがないのがありがたい。
地面の中にいる「あの子」はどうしているだろうか。少しは反省しただろうか。今度、バターケーキを作るときにでも先生に掘り出してもらおう。タワシ達とは仲良くしてほしいものだ。
私はいつも通り朝食をタワシ達と食べ、花壇に水やりを行う。今日は予定がないので昼ご飯を食べたら消耗品の不足分をボイスレコーダーで録音しておこう。
ボイスレコーダーで不足分を録音しているとタワシが足踏みをしだした。録音中のため声がかけれない。途中で辞めるとどこまで数えたか分からなくなる。
録音が終わりタワシに声をかけようとしたら、タワシは肩から降りてどこかへ行ってしまった。どこにいったんだろう。そう思った瞬間、チャイムが鳴った。
「先生かな?トウキ何か知ってる?」
足が軽く1回叩かれる。知らないのか。私は玄関に向かった。すると聞き覚えのある声が聞こえる。
「ヤヌシさん、こんにちは!ヘルパーです!」
今日はヘルパーさんが来る日じゃないはずだ。偽物?
「ヘルパーさん、先日一緒に食べたケーキは何ですか?」
「え?えっと・・・。たしか「モンブラン」「ショートケーキ」「チョコケーキ」の3つだったと思います」
私はドアを開けた。
「こんにちは。ヘルパーさん。試すようなことをしてしまってすみません。今日は来る日じゃないですよね?」
「いいんです。警戒する気持ちは良く分かります。今までこんなことなかったですもんね。実は所長に頼まれて来たんです」
「所長さんから?何かありましたっけ?」
「━君、こんにちは!お久しぶりです!ってかその足の子が例の『守り人』ちゃんですか?可愛い!」
捲りたてるように喋る女性の声。少し声が幼い気がする。この声はまさか・・・。
「どこかで聞いた声ですね?もしかして所長さんの所の娘さんかな?」
「そうです!━━です。そういえば名前が分からないんでしたよね。どうしよう。なんて呼べばいいですか?」
「あぁ、私の事はヤヌシと呼んでね。娘さんは何と呼ぼうか。娘さんで良い?」
「えぇ~、嫌です。あの人の娘ってことだからですよね。別のが良いです」
急に感情がなくなってしまった。何したんだろう所長。
「ん~、思いつかないな。希望とかある?」
「どういった呼び名なら大丈夫なんですか?」
「それが自分でも良く分かってないんだよね。何個かこれが良いっていうのを言ってみてもらえない?」
「私がですか?分かりました。じゃあ、『━━』『━━━━』『イチゴ』『タンポポ』『ミカン』とかだとどうですか?」
「『イチゴ』『タンポポ』『ミカン』なら分かるよ」
「じゃあ、ミカンでお願いします!」
「分かった。で何しに来たの?って聞かなくてもわかった気がするよ」
「すみません・・・」
ヘルパーさんが謝ってくる。もしかして予定外だったのだろうか。
「できればちゃんと連絡はしてほしかったよ。ミカンちゃん」
「え、私?」
「ヘルパーさんはそんなことをする人じゃないからね。ちゃんと連絡はしてくる人だ。どうせミカンちゃんがお願いしたんだろう?」
返事がない。ミカンちゃんは今年で何歳だったっけ?
「ミカンちゃんは今年で何歳?」
「21になります」
「だったら尚更だ。私だから良かったけど人によっては怒られるから次から注意してね」
「ごめんなさい」
「ヤヌシさん、私も悪いんです。連れてきたのは私ですから」
「そうですね。甘やかさずにちゃんと叱ってあげてください。大人なんですから」
二人とも静かになる。ここまでにしとこうか。
「でもこんな山奥によく来てくれたよ、ミカンちゃん。何年ぶりだろうか。最後に会ったのはまだ私が目が見えていた頃だからかなり前だよね」
「そうですね。できれば私もヤヌシ君が退院してから来たかったのですが、パパから止められたもので」
「そうだったの?」
「はい。ヤヌシ君が生活に慣れるまではダメだと言われました」
所長さん、本当に優しいなぁ。
「久しぶりに会えて私もうれしいよ」
「私もです!できればおじさん達に線香をあげたいのですが良いですか?」
「いいよ!さぁ、上がって!ヘルパーさんもどうぞ~」
「お邪魔します!」
私は仏壇のある居間にミカンちゃんを通してヘルパーさんと一緒にリビングへ移動した。
「本当にすみませんでした」
ヘルパーさんが謝ってくる。私が怒っていると思ったのだろう。私の考えをちゃんと伝えておこう。
「ミカンちゃんのためにちょっと強めに注意しただけですから気にしないでください。そこまで怒ってませんよ。それにヘルパーさんも巻き込まれたんでしょ?」
返事がない・・・。まさか。
「まさかとは思いますが、タワシ達に会いたくて話に乗ったとかじゃないですよね?」
「すみません」
最期の方が聞こえないくらい小さい声だった。ちょっと面白い。
「ふふっ。いや、本当に可愛いもの好きなんですね。ちょっと面白いです」
「何の話をしてるんですか?」
「ヘルパーさんが面白いって話だよ。ミカンちゃんはコーヒーとココアどっちがいい?」
「ココアでお願いします!」
「ヘルパーさんは?コーヒーで良いですか?」
「はい、大丈夫です。所長からケーキを預かってますので切りますね」
「ありがとうございます。所長にもお礼を言っておいてください。そういえばタワシが帰ってこないな」
「タワシちゃんなら私達がチャイムを押すときに会いましたよ。ドアをすり抜けて出て来て、ビックリしました。そのままどこかに行っちゃいましたよ」
「どこいったんだろう。トウキ知らないんだよね?」
トウキは足を軽く2回叩く。
「可愛い~」
「ミカンちゃん、ちょっと抑えて。トウキちゃんが警戒してるから」
警戒?トウキは何かしてるのかな?
「トウキが何かしてますか?」
「めっちゃ睨まれてます!」
元気よく言うことじゃないよ、ミカンちゃん。
「トウキ、大丈夫だからね。緊張するのは分かるけど睨むのは良くないよ」
私はトウキに触れながら落ち着くように伝える。『守り人』が人間を警戒するのは仕方ない。先生も関わるなと教育してたみたいだしね。
しかしタワシはどこに行ったのだろうか。コーヒーなどの準備をしているとチャイムの音が部屋に響いた。そういう事か、先生を呼びに行ったのね。
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